神奈川県の特殊詐欺の被害は依然深刻です。被害が減らない中、神奈川県警では若い世代にどうしたら被害を減らせるのかアイデアを出してもらう取り組みを進めています。
神奈川県内の去年(2022年)1年間の特殊詐欺の被害状況を取材しました。
▼被害件数は?
県警によると被害件数は2089件でした。おととしに比べて628件増えました。
▼被害総額は?
被害額は約43億4700万円でした。おととしに比べて17億円あまり増え、40億円を超えるのは2019年以来、3年ぶりです。
▼1番多かったのは?
「オレオレ詐欺」でした。息子や孫などを装ってうその電話をかけてきます。828件と最も多く、被害額は約23億3400万円でした。
▼2番目に多かったのは?
「還付金詐欺」でした。医療費や保険料などの還付があるといってATMを操作させる手口です。745件の被害があり、被害額は約9億6200万円でした。
オレオレ詐欺と還付金詐欺の2つの手口が全体の75%を占めています。
▼オレオレ詐欺の被害者の年齢構成は?
828件の被害のうち、80歳以上が566件と最も多く、68%を占めています。70歳代が244件で29%でした。
依然、深刻な被害状況が続いている特殊詐欺。
若い世代のアイデアで被害の防止につなげようという取り組みが進んでいます。
去年7月、横浜市中区の庭園、三渓園にある「鶴翔閣」で、地元の高校生がアイデアを話し合いました。
参加したのは、地元の県立横浜立野高校と県立横浜緑ケ丘高校の生徒5人。
次のようなアイデアが出されました。
「詐欺の情報発信をツイッターだけでなくインスタグラムとかのSNSを使ってみるのもひとつの手ではないかと思う」
「孫世代の声で被害防止のメッセージを発信する」
「詐欺について学ぶ授業や教育機会が少ないので増やすべきだ」
高校生からはあわせて10個以上のアイデアが出されました。
神奈川県立横浜立野高校 馬場愛梨さん
「詐欺の対策を考えるのは難しかったが、小学校や中学校とうまく連携をしてできるだけみんなに詐欺を知ってもらえたら良いなと思う」
去年12月には横浜市鶴見区にある横浜商科大学で、学生同士が被害の防止策について話し合いました。
鶴見警察署の片山真署長が被害の現状を説明したあと、参加した1年生から4年生まで24人の学生がアイデアを出し合いました。
「特殊詐欺の電話は自宅の固定電話にかかってくるケースが多いことから、家族間のやりとりをSNSのグループで行う」
「若い世代の息子や孫からしつこいぐらいに両親や祖父母に詐欺の手口を説明する」
鶴見警察署 片山真署長
「柔軟で柔らかい話し、アイデアが出てきましたので大いに参考になります。今後の対策にいかせればと思っています」
その後、実現した対策もあります。
高校生の「孫世代の声で被害防止のメッセージを発信する」というアイデアを受けて、孫世代の地元の小学1年生が一日警察官に任命されました。
小学1年生がパトロールカーに乗り込んで街なかを巡回しながら事前に収録した音声を放送しました。
詐欺の手口を伝えるとともに「おじいちゃん、おばあちゃんだまされないで」というメッセージで被害の防止を広く呼びかけました。
詐欺について学ぶ学校授業や教育機会が少ないので増やすべきだという意見を受けて、県立横浜立野高校で警察官による特別授業も行われました。
540人の生徒が参加しました。
▼どんなことを学んだの?
「1番多いのがオレオレ詐欺だと学びました。息子や孫をかたって、『もしもしオレだけど。病院行ったらかばんを忘れてしまった』などとうその電話をかけてきます。警察官は、こうした手口を両親や祖父母に伝え、注意を促してほしいと呼びかけました」
▼高校生からどんな意見が?
授業を受けた高校生からは
「電話の音声を録音することも活用する」
「祖父母に手口などを伝えていきたい」などという意見が出ていました。
警察は、減らない特殊詐欺の被害を防ぐため、若い世代との協力を続けていきたいとしています。
山手警察署 椎名啓之署長
「私たちが想像できないような自由な発想に基づいたアイデアが出てくれたらという思いで高校生に詐欺被害防止について考えてもらいました。今後も地元の高校生と連携して被害の防止に努めていきたいです」
ATMが設置されている金融機関の窓口やコンビニエンスストアなどで被害を未然に防止できた件数は去年1年間に1431件と過去最も多くなりました。
1月24日、水際での積極的な声かけによって特殊詐欺の被害を防いだとして、金融機関とコンビニに神奈川県警から感謝状が贈られました。
県警によりますと、みずほ銀行青葉台支店と三井住友銀行青葉台支店ではそれぞれ4件の還付金詐欺を防いだということです。
表彰された金融機関では、日頃から研修を行うなどして意識を高めているということです。
みずほ銀行青葉台支店 榛葉一仁支店長
「本部で研修を行い意識を高めていて、特殊詐欺の疑いがあるものに関しては警察に連絡をしている。今後も継続して、詐欺を未然に防いでいきたい」
三井住友銀行青葉台支店 青井良行支店長
「特殊詐欺などについては常に意識をしている。おかしいと思ったら声をかけるなど、今までやってきたことをこれからもやっていきたい」
ローソン・スリーエフ大磯国府店では、5件の架空料金請求の詐欺を防ぎました。
オーナーの大関さんによると、お客さんとのふだんからのコミュニケーションが役に立ったということです。
▼なぜ気づいた?
コンビニを訪れた客が、高額な電子マネーを購入しようとしていることに気づいたそうです。そのような高額な電子マネーをふだんは購入しないことを不審に思い、声をかけたということです。
▼どうやって説得?
大関さんは特殊詐欺のポスターを見せながら購入をやめるように説得し、警察に通報したそうです。
オーナーの大関さん
「日頃からお客さんとコミュニケーションをとりながら会話をしていたことで、言動が挙動不審になっているなど、ふだんと違う様子に気づきました。店員の間で、ふだんから特殊詐欺について話題にしていたので、店員だった男子大学生も特殊詐欺を疑って、お客さんが被害にあうのを未然に防ぐことができました」
特殊詐欺の手口が社会に知られ、水際での積極的な声かけによって未然防止が図られています。
神奈川県警では、依然として後を絶たない特殊詐欺の被害を防ぐため、金融機関やコンビニとの連携をさらに強化することにしています。
則次誠二郎 生活安全部長
「最後の砦として特殊詐欺を未然に防いでくれたことをありがたいと思っています。今後も地域の絆や家族間のコミュニケーションを通じて、特殊詐欺を未然に防げるように啓発していきたい」