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元DeNA石川雄洋に聞く 野球からアメフトへ34歳の挑戦 

  • 2021年07月01日

今シーズンを前にプロ野球からの引退を決意した元横浜DeNAベイスターズの石川雄洋選手、34歳。DeNAの初代キャプテンも務めた石川選手が、プロ野球引退後の人生のスタートとして、選んだのはアメリカンフットボールでした。“アスリートとして新たな挑戦をしたい”と宣言した石川選手にその思いを聞きました。インタビューで印象に残ったのは、野球には完全に区切りをつけ、「ゼロからスタートする」という強い覚悟でした。

プロ野球生活16年横浜一筋

今年3月の石川雄洋選手の引退会見のニュース。三浦大輔監督から花束を渡されたときに見せたどこか吹っ切れたような笑みが印象的でした。
石川選手は、平成17年に横浜高校からドラフト6巡目で当時の横浜ベイスターズに入団。その後、DeNAになった時には初代キャプテンも務めました。プロ野球選手として過ごした16年間を、横浜一筋でプレー。おととしには通算1000本安打も達成し、俊足巧打の内野手として活躍しました。
引退会見では、「16年間で出会ったファンは宝物。精一杯やってきたので、悔しさより感謝の気持ちが大きい」と現役生活を振り返りました。
それから、約2か月後の5月11日。石川選手は、アメリカンフットボールのチーム「ノジマ相模原ライズ」の入団会見に現れ、「人生は一度きり。ここでやらないと後悔する」とアメフトへの挑戦を宣言しました。

34歳からのアメフトへの挑戦

プロ野球で実績をあげた選手が、突然の「アメフト」宣言。しかも、34歳という年齢での挑戦に、その思いを伺いたいと思い、石川選手にインタビューを申し出ました。私も実は中学からアメフトを始め、今年で21年目。現在も社会人のトップリーグでプレーを続けています。石川選手の宣言に非常に驚いた一方で、プロ野球選手のポテンシャルでどんなアメフトの選手になるのかとワクワクし、興味が湧きました。
快くインタビューに応じてくれた石川選手は、すらっとした長身で、服を着ていても、引退後トレーニングを続けていることがわかりました。

「なぜアメフトに挑戦を」さっそく尋ねると、石川選手は熱く語ってくれました。

石川選手
横浜高校時代に同じクラスのアメフト部の友達の試合を見に行きました。チームは、その試合で勝ち、関東大会への出場を決めました。ルールも正直ほとんどわからなかったけれど、チームみんながぶつかり合って、必死に頑張っている姿を見てすごくかっこいいなと思いました。
僕は小さいころから野球をやって、幸せな事にプロ野球選手になれました。今は、プロ野球に対して未練や悔い、こうしておけばよかったなという思いが全くありません。ただ、体はまだ動くし、何かで勝負したいという思いが出てきました。
プロ野球時代、アリゾナでの自主トレ時にNFLプレーヤーとトレーニングをする機会があったのですが、その内容、ストイックさなどを肌で感じてリスペクトを覚えました。
高校時代の記憶も相まって、アメフトに挑戦をしたらどうだろう、と考えるようになったのかなと思います。
そこで、縁もあって、「ノジマ相模原ライズ」さんに入ることができました。
この挑戦に対して「そんなに甘くない」といった意見があることは自覚しています。だけどやっぱり、自分がそこで勝負したい、勝負しなかったら後悔する。やらないで後悔するなら何を言われてもやってみて何らかの成果を残したいと思いました。

アメフト挑戦に向けて 「体」と「頭脳」の準備も必要

野球とアメフトは、全く違うスポーツです。何よりもアメフトはタックルなど、体と体の「激しいコンタクト」を伴います。34歳という年齢を考えても不安はないのだろうか。それにアメフトは、サインプレーが多く、「プロ野球」で数多くの功績を残したとはいえ、ずいぶん難しいのでは。そんな疑問をぶつけると、石川選手からは明快な答えが返ってきました。

石川選手
もっと体を大きくして当たり負けない体を作らないといけないことなどは考えています。
ただ、通用しないとは思いません。通用しないかもと思ってしまったら、気力が無くなってしまう。頑張ればどうにかなるし、フィールドに立って、絶対試合に出て活躍してやろうという気持ちがすごく強いんです。まだ、タックルをされるという経験をしたことが無いので未知数ですが(笑)。
不安はもちろんありますが、楽しみと、フィフティ・フィフティぐらいの感覚です。
野球も、もちろんサインプレーが非常に大切で、一人でも間違えれば成り立ちません。ただ1試合に数度あるかないか。アメフトの場合は、全てのプレーがサインに基づいています。早く覚えて、チームとして機能できるようにしていきたいです。野球以上にチームを意識したプレーが求められると思っています。

子どもたちにスポーツの可能性を伝えたい

アメフトへの挑戦、実は子どもたちにスポーツの魅力を伝えたいという思いもあると言います。

石川選手
今スポーツをやるか、続けるか悩んでいる多くの子どもたちに少しでも伝わればという思いはあります。スポ―ツを通じてみんなで何かを成し遂げること、夢を追いかけることは、たとえ成功しなくても、立ち向かう過程から学ぶことがたくさんあると思います。みながみなスポーツを、というわけではないですが、悩んでいる子どもの背中を押せるような、一人でも多くの子どもが「スポーツすごいな」「アメフトっておもしろそうだな」と思えるようにできたらなと。
今はYou Tuberなどが子どもに(人気もあって)「すごい」と思われていると思います。でも、自分の活躍を見て「アメフトすごい。やってみたい」と思わせるぐらいのプレーをしたいですね。やっぱり、かっこいいことをしないと。
大きな意味で、少しでもスポーツ界が発展してくれればと思います。

引退セレモニーではファンを前に宣言!

6月5日に横浜スタジアムで行われた引退セレモニー。その中でも「アメフト宣言」をした石川選手。ファンを前にしての思いは。

石川選手
人生の半分以上を過ごした横浜。高校のころから通っていた横浜スタジアムに立ってプレーすることは基本的には無いなと思うと、ずっと住んでいた所から出ていくような悲しい感じはありました。ファンの方からいつも以上に大きな拍手をいただいて・・・。でも、そんな中でも冷静になり過ぎている自分がいたという不思議な時間でしたね。
(アメフト宣言については)最後のちゃんとした挨拶の場で、ファンの皆さまにもきちんと発表しないといけないなと思っていました。
この挑戦を応援してくれるファンもいると思いますが、中途半端に挑戦して成功するほど甘くない世界だとわかっています。「あいつ頑張ってるな」と思わせるぐらいの活躍をすることで、応援してくれている方、関係者の皆さまに恩返しができればと思っています。

ノジマ相模原ライズの若手に交じってグラウンドで汗を流す石川選手

「ノジマ相模原ライズ」に所属することができた石川選手。ただ、秋のリーグ開幕にあたっての登録メンバーの新人枠は、わずか15人。アメフトを専門に鍛えてきた若手の新人も多い中で、石川選手が新人枠に入るのは、決して簡単なことではありません。それでも、石川選手は「チャレンジする姿を見せ続ける」ということにこだわり、将来を見据えていました。

石川選手
34歳ですが、ルーキーなんでルーキーらしく、がむしゃらにやります。アメフトにチャレンジすると言った時から、挑戦して失敗したらという不安が無いということは無いです。
でも、そこで挑戦しないことが一番の失敗だと思います。何かにチャレンジし続けていく、そういう姿を見せていきたいなと思います。怖さはありますが、34歳のド素人がどこまでできるのか。挑戦を応援してもらえたら嬉しいです。

インタビューを終えて

ざっくばらんにどんな質問にも、自分自身の言葉で力強く答えてくれた姿に非常に魅力を感じました。石川選手が所属するノジマ相模原ライズを含めてアメフトのXリーグに所属する各チームの新人枠の登録期限は7月20日。そして、メンバーに選ばれれば、9月4日に開幕するXリーグ X1Superの秋季公式戦に出場することになります。34歳からのアメフトへの挑戦。石川選手の姿を追い続けていきたいと思います。

  • 平澤 徹

    横浜放送局

    平澤 徹

    中学でアメリカンフットボールを始め、高校・大学・社会人でそれぞれ日本一を経験。U-19日本代表も。Xリーグでプレーし、2020年にはオービックシーガルズで悲願の日本一に。2015年と2020年に日本代表に。現在も現役選手としてプレーしている。横浜放送局では、デジタルを中心に地域社会の魅力や課題を発信。

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