「今すぐ動かなくては間に合わない」。“気候変動を止められる最後の世代”といわれる若者たちが、いま日本各地で声を上げています。その中でも熱心に活動する6人の学生が、SNS世代の彼らからすると“オールドメディア”に映るNHKとタッグを組み、危機感を訴える動画を作りました。彼らを突き動かしたのは、「“大人”と一緒に気候変動を止めたい」という切実な思いでした。
(首都圏局/ディレクター 三田村昂記)
「気候変動に関するメッセージを動画にまとめませんか」、そんなNHKの提案に応えた6人の若者。それぞれが、環境問題について考える団体に所属する高校生や大学生たちです。
動画制作プロジェクトのメンバー。
上段左からからマツさん、ミオさん、キムココさん
下段左からヤマダイさん、マイさん、モモさん
今、日本各地の若者が気候変動に対して声を上げています。彼らは、小さい頃からニュースや教科書で「地球温暖化」や「気候変動」という言葉を見聞きして育ってきました。また、そのことを実感するような出来事も続きました。気象庁が、1日の最高気温が35℃以上の日を猛暑日と定義したのは平成19年のこと。以来、大都市ではその発生頻度に有意な増加傾向が見られるとしています。さらに平成30年7月には広島、令和2年7月には熊本で「これまでに経験したことのないような大雨」が大きな被害をもたらしました。彼らは生まれながらにして、こうした気候変動の問題に直面してきた世代なのです。人生これからである彼らが、気候変動への不安を感じて声を上げるのは当然のことなのかもしれません。
彼らが声を上げ始めた背景には、“温暖化対策の防衛ライン”とも呼ばれる、“1.5℃”の問題を知ったことがあります。2015年、COPの通称で知られる「国連気候変動枠組条約締約国会議」がパリで開かれました。
パリで開かれたCOP21(2015)
このときに締結されたパリ協定では、産業革命以前に比べて、地球全体の気温上昇を1.5℃以内に抑える努力をすることが目標として掲げられました。じつは、1.5℃を超えて気温が上昇し続けると、温暖化は後戻りできない事態に陥り、気候変動に歯止めが効かなくなるとも言われています。そして現在、世界の平均気温は既に1.2℃上昇。これを1.5℃に抑えるためには、日本は2030年までにCO2の排出を6割以上減らす必要があると指摘する海外の研究者もいます。
安心して暮らしていける地球を未来に残していくために、残された時間はわずかしかありません。彼らは、気候変動の問題を解決するために、国や社会が変わることを「気候変動を止められる最後の世代」として求めているのです。
こうした気候変動の現状を多くの人に知ってもらおうと、彼らは情報発信を積極的に行っています。活動の中心はSNSで、画像や動画を使ってわかりやすく気候変動を伝えています。
ヤマダイさんが所属するFridays For Future Japanのインスタグラムへの投稿画像
今回動画制作に参加した6人の所属団体の中には、6万人ものフォロワーを持つアカウントもあります。
また彼らは、SNSだけでなく、実際に街頭にも立って情報発信を行っています。
今回の参加メンバーの1人であるヤマダイさんは、プラカードや横断幕を掲げながら、自分たちの想いを道行く人びとに投げかけました。
「すでにたくさんの人が気候危機によって命を奪われたりとか、家を失ったりとかしてる現状の前で、何もしない、もしくは少しだけの努力だけでやった気になってしまっている社会っていうのが、とても僕は悲しいです」
都庁前でスピーチをするヤマダイさん
多い時は、週末のたびに街頭での活動を行っています。しかし、こうした彼らの活動に関心を持ってくれる人たちは多くありません。それどころか、ネット上では彼らの活動に対する批判的な意見が目立ちます。
「環境問題ってやっぱり意識高い人が声を上げてて、なんだか遠い」
「気温が少し上がってるだけでしょ?暖かくていいじゃん」
「暇かよ、勉強してろ」etc
新宿駅前で訴える若者たち
このような“意識高い系”という偏見の目にさらされていることを、彼らも自覚しています。そして、そのことに傷つくことも少なくないといいます。しかしこの問題を解決するためには、いま自分たちが声をあげ、多くの人に知ってもらわなければならない。葛藤を抱えながらも、学生時代という人生の貴重な時間の大部分を活動にあてている彼ら。残された時間があとわずかしかないからです。
今回の動画制作に参加した6人はみな、多かれ少なかれ、気候変動の問題を世間に投げかける難しさを感じてきました。そこでNHKから声をかけられたとき、自分たちのSNSよりも幅広い層が見ている“公共放送NHK”と組むことは「ある意味チャンス」ととらえたと言います。
マイさん
「私たちもSNSなどで発信を行ってるんですけど、その層は結構限られていて、私たちだと若者、女子大生が多い。NHKのテレビ一つでもきっかけになる人がいるかなって」
モモさん
「気候変動の問題を解決するには、少数の人だけが頑張るのではなくて、社会みんなの意識が変わり、政策決定が行われるという流れが必要。そういうことを思うと、多くの人に発信できるNHKがすごく魅力的というか、そこで発信することが必要だと思ったんです」
デジタルネイティブの彼らにとって、SNSで同じ問題意識を持つ同世代と繋がるのはそれほど難しくありません。しかし、若者だけでは気候変動を止められない。彼らにとって、NHKは“大人”世代と繋がるための重要な回路なのです。
こうして始まった動画制作。3か月にわたる議論を経て、計4本の動画が完成しました。気候変動対策で重要となる1.5℃問題を説明した動画、そして衣・食・住の面からいま始められることを提案する3本です。このページの下の「関連のページ」からご覧いただけます。
動画の構成を検討する6人
この動画をきっかけに社会がどう変わってほしいのか。環境問題はともすれば、若者から今の社会を作ってきた大人への一方的な糾弾と見られがちです。しかし、彼らは「若者対大人の対立構造にしたら本当に意味がない」と口をそろえます。若者の力だけでは、社会は変わらないからです。社会を変えるためには、「地球の未来を守るために、気候変動対策をしていくことは大切だよね」という世代を超えた“緩やかな共感”が生まれることが重要だと彼らは考えています。
最後に、このプロジェクトの最年少メンバー、ミオさんの言葉を紹介します。
ミオさん
「気候危機は他人事ではなく、地球に住んでいる以上自分ごとなので、みんな危機を知れば変わろうと思うと思います」
10年後の2030年、あなたはどこでどんな暮らしをしていたいですか。あなたやあなたの大切な人の未来を守りたいですか。気候変動対策は、決して大昔の生活に戻ることや、1人1人が多大な我慢を強いられるようなものではありません。これからもいまと変わらぬ暮らしを求めるのなら、“気候変動を止められる最後の世代”に加わってください。気候変動を止めるのは、今を生きるすべての人の力です。若者たちと作った動画がそのきっかけとなれば幸いです。
プロジェクトの詳細はこちら
⇒ “1.5度の重み” 若者とNHKが動画制作でコラボ