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栃木 那須町雪崩事故 登山講習会で起きた悲劇とは

  • 2021年3月26日

平成29年3月27日、栃木県那須町の茶臼岳で、登山の訓練をしていた高校生らが雪崩に巻き込まれ、生徒7人と教員1人が死亡し、12人がけがをしました。事故の状況とその後の経緯です。

午前8時半すぎ 雪崩が発生

当時、生徒たちは県の高校体育連盟が主催する2泊3日の「春山安全登山講習会」に参加していて、事故が起こったのは、講習会の最終日でした。

当初は茶臼岳への登山が計画されていましたが、前日の夜から大雪が降って悪天候だったため、当日の朝に登山は中止され、スキー場周辺での歩行訓練に変更されました。

生徒たちが5つの班に分かれて訓練を行っていて、このうち亡くなった大田原高校の生徒と教員は、1班として先頭を歩いていました。訓練を始めて30分あまりがたった午前8時半すぎに雪崩が発生して生徒たちを直撃。8人が命を落としました。

検証委員会の報告書 “危機管理意識の欠如”

事故のあと県の教育委員会は、専門家などによる検証委員会を設置しました。委員らは、事故の生存者に聞き取りをするなどして調査を進め、事故からおよそ半年後、報告書をとりまとめました。

そのなかで以下のことが明らかになりました。

●当日の朝に訓練の内容を変更した際、行動してもよい範囲などが教員や生徒に具体的に示されていなかったこと
●大田原高校の生徒たちがいた1班は、雪崩の危険性が高い傾斜38度程度の斜面にまで進んでいたこと
●事故の7年前に行われた同じ講習会でも雪崩が起き、生徒らが頭まで雪に埋もれる重大な事故だったにもかかわらず、県高校体育連盟に報告されず、文書としても引き継がれなかったこと

こうしたことから、報告書は、「講習会を主催した県の高校体育連盟の危機管理意識の欠如が事故の根源的かつ最大の要因」だと指摘しました。

再発防止の取り組み

検証委員会の報告書を受けて、県の教育委員会は、再発防止策を策定しました。

この中には、部活動として登山を行う際に必要な知識や技術を習得する教員向けの研修の開催や、各学校で登山を行うときに県の審査会への提出が求められている「登山計画」について審査項目を増やし、より厳しくチェックすることが盛り込まれました。

しかし、これらの対策について、遺族の一部から「抽象的で具体性がなく不十分だ」という声が上がりました。「教員の力だけに頼って登山を実施する部活動のあり方自体の見直しが必要だ」などとする遺族の意見が反映されていなかったためです。
こうした声をうけ、県と県教育委員会は、複数の遺族のほか、登山の専門家や気象台の担当者など12人をメンバーとして、高校生の登山のあり方を考える新たな検討委員会を2019年に発足させました。

これまでに2回開かれ、学校の登山活動には、専門家である登山アドバイザーを原則としてすべての登山で帯同させることなどが決まりました。このところは新型コロナウイルスの感染拡大などの影響で開催できていませんが、今後も議論を重ねることになっています。

捜査状況 教員3人を書類送検

事故をめぐって、捜査も行われています。

警察は2019年3月、事故当時生徒を引率していた教員3人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検しました。捜査関係者によりますと、3人は天候が悪化したため、訓練の内容を当初予定していた登山から変更しましたが、雪崩の危険がない安全な場所を指定せずに訓練を続けさせたということで、警察は、雪崩を予見できたにもかかわらず訓練を続けたと判断しました。

現在は、書類送検を受けた検察が、刑事責任が問えるかどうかを判断するために引き続き捜査を続けています。

民事調停 真摯な謝罪や適正な賠償求める

さらに、事故で亡くなった8人のうち6人の遺族は、2020年3月、県や、県高校体育連盟、それに事故当時引率していた教員らを相手取って、宇都宮簡易裁判所に民事調停を申し立てました。調停で遺族は、県や高体連、それに教員らがそれぞれの具体的な責任を認めたうえで真摯な謝罪を行うことや、遺族への適正な賠償を求めています。

これまでに調停は4回開かれていて、今後も、話し合いが続けられることになっています。一方、当時の引率教員3人はこれまでの調停には出席していません。

栃木県教育委員会の荒川政利教育長は、2月に行われた会見で、「3人の置かれた状況を考慮しないといけないが、具体的にはコメントを控える」と説明していました。

 

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