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発達障害の子ども「通級に入れない」相次ぐ 検査に1年待ちも 教員不足も深刻

  • 2024年1月26日

「通級に入れない」という声が、NHKに相次いで寄せられています。

発達障害などの子どもたちが、通常の教室に在籍しながら利用できるのが「通級指導」、いわゆる「通級」です。在籍するクラスを離れて、週に数時間程度、集中力やコミュニケーションのスキルなどを養う特別な指導を受けることができます。

しかし、なかには通級に入れず、2年以上不登校の状態が続いている子どもも。学校で何が起きているのか取材しました。(全2回の前編)
(首都圏局/ディレクター 實絢子・岩井信行)

通級に入れず不登校に…

都内に住む、小学5年生のケンタさん(仮名)です。医師からは発達障害のひとつ、「自閉スペクトラム症」の傾向があると言われています。

抜き打ちテストなど、自分が予測していないことが起きると、パニックになってしまいます。

ディレクター

どうして学校が苦手なの?

ケンタさん

予定表とかはあるけど、その時に何があるかわからないから。

 

何があるかわからないと、どんな気持ちになるの?

 

できるかどうか、怖くなる。

母親

先生が言ったことは正しいと100%受け止めてしまうので、「間違えちゃだめだからね」という先生の言葉を、全部自分が言われていると思い込んでしまうみたいです。

 

2年生の時から、不登校が続いているケンタさん。パニックになった時に気持ちを切り替える方法を学べば、再び学校に通えるのではないか。そう考えた母親は、通級に申し込みました。

しかし、学校からは、「希望者全員は受け入れられない」などと回答されたといいます。
その結果、通級に入ることはできませんでした。

母親は、ケンタさんが同級生の友達と一緒に遊べなくなったことがいちばんつらいといいます。

母親

知識を詰め込むだけだったら、家でも、本人がやる気になればできるとは思うんですけれど、対人関係はやっぱり学校に行かないと、学ぶことが難しい。

ディレクター

もし学校が怖くなかったら、学校でしてみたいことはありますか?

ケンタさん

みんなと一緒にお話したい。一緒に鬼ごっことか、そういうことをしたい。

 

「通級に入れない」という声は、ケンタさんのケース以外にも、相次いで寄せられています。

保護者

親が通級を希望しても、希望者が何名もいるため、一年以上待つ状態が普通のようです。その間に不登校になった子も何人もいます(我が家もそうです)。そしてやっと入級となっても、受けられるのは週に1時間のみでした。

保護者

発達の凸凹が判明した小学生の子どもがいます。二次障害で不登校になっており、学校にも相談していますが、『通級はもっと困っている子を優先したい』とのことで、利用が難しそうです。

保護者

通っている学校には通級指導教室はなく、通級指導教室のある学校までの送迎を親がやらなければ指導は受けられない、という現実を知りました。私は仕事をしていて送迎をするのは難しく、諦めたまま現在に至ります。

通級に入れない… 背景は

希望しても入れない通級。背景にあるのは、教員の不足です。通級指導にあたるのはその学校の教員で、特別な資格は必要ありません。

都内の小学校教諭、吉川美穂さんです。教員歴は14年、4年前から通級を担当しています。

この日は、ひとつのことに集中したり、じっとしたりすることが苦手で「ADHD」と診断された児童を指導。ゲームや運動を通して、集中力や最後までやりきる力を養おうとしていました。

1人1人の特性に合わせた指導が求められる通級。東京都では、教員1人当たり受け持つ児童数は12人という基準を設けています。

しかし吉川さんは一時期、基準を超える15人を受け持っていました。

原因は、通級を希望する児童の急増でした。当初、通級希望者は20人ほどと見込まれ、2人の教員が配置されました。ところが4月、実際の希望者は31人にのぼったのです。

江東区立豊洲北小学校 吉川美穂教諭
「担当する子どもたち1人1人に、現在かかっている医療機関や、服薬状況などを聞き取ったりしています。その資料作りも時間がかかります。

正直言うと12人でも結構いっぱいで、それ以上になると、子ども1人1人の特性に合った指導が難しくなってしまうかなと思います」

学校は区の教育委員会に、新たな教員を配置してもらえないかとかけあいましたが…。

江東区立豊洲北小学校 統括校長 喜多好一さん
「人員を配置してくださいと要望を出したのですが、通常学級でも教員が足りない状況なので配置は難しいとのことでした。結局、学校で探してくださいというような現状がずっと続いていました」

学校は半年かけて、早期退職した元教員を探し出し、通級の担当を補充することができました。
発達障害の児童の急増に追いつかない教員の確保。いま教育現場は、重い課題を突きつけられています。

「教員免許があれば誰でもいいというわけにはいかないのが、特別支援教室(通級)です。充実はもちろん大事ですが、教育界の中での人材不足が、すごく大きな足かせになっているのかなという実感を持っています」

今回、NHKが東京都内の全区市町村にアンケートを実施したところ、「教職員の人員不足など、学校側の対応を理由に、通級に待機が生じている」と答えた自治体は、7つありました。
(各区市町村の実情など、アンケート結果の詳細はこちら

通級に待機が生じている状況について、特別支援教育が専門の明官茂さんは、ここ数年で発達障害の認知や理解が広まったことが大きいといいます。

通級を利用する子どもの数は、この10年でおよそ3倍に増加し、18万人あまりに上ります。

明星大学教育学部 明官茂教授
「発達障害などの子どもに適切な指導をすると、学習や生活の困難が改善することが理解されるようになってきました。当事者や保護者、学校が、対応の必要性を認識しはじめたことで、通級を利用する子どもが増えています。

通級の利用者は、今後、さらに増えると予想しています。特別支援教育を受けている子どもの割合は、諸外国に比べて、日本はまだとても少ないからです。通級を必要とする子どもが受けられる体制を整えることが必要です」

検査を受けるまで1年待ちも…

さらに、支援の入り口にすらたどり着けていない子どもたちが数多くいることも見えてきました。

ミカさん(右)

都内に住む、小学5年生のミカさん(仮名)です。発達障害のひとつ、「学習障害」の傾向があるといいます。

1年生の時、漢字の読み書きが苦手なことに気づきました。

算数など他の教科は問題なくこなせるミカさん。しかし、何度練習を繰り返しても、覚えられない漢字があるといいます。音読や漢字テストなどがあると、クラスでからかわれることも。

ミカさん

例えば国語と書いてある時に、国語の「語」が読めないと、「国」で止まっちゃって読めなくなっちゃう。「読むのが遅い」とか、「ちげーだろ」って言われたことはあった。

ミカさんの母親は、漢字の読み書きについて、ミカさんにあった学習方法を身につけてもらいたいと通級に入ることを希望しました。

母親

ルビを教科書に振ったら楽になるよとか。どこを読んでいるのか分からなくなったらこういう風に線引くといいよとか、そういうサポートがあると助かるなと。

 

しかし、思わぬ壁が立ちはだかります。東京都では、通級に入るために、「発達検査」と呼ばれる検査を受けるのが条件になっています。

検査の予約をとろうと区に問い合わせると、ほとんどが埋まっている状況。検査を受けるまで、1年以上かかりました。

母親

本人たちが頑張ろうと思っているうちに支援につながったり、病院に行けたりすることが何より大切だとすごく思うんですけど、もたもたしていると本人たちはあきらめちゃうんですよね。残念ですね、すごく。

検査を待つ間、不登校になったミカさん。大好きなバレーボール部の活動も、参加できずにいます。

 

読むのが遅いとか、そういうことがトラウマになって行けなくなったのかもしれない。学校に行けるように6年生になるまでにしたい。

 

「検査がなかなか受けられない」という保護者からの声は、NHKに複数寄せられています。

保護者

発達検査は、病院の予約がまず取れない。取れても検査の予約ははるか先。5月に予約したら検査は10月、結果は11月ころになります。新規受け付けすらしていないクリニックも多いので、初診でとなると、いったいいつ検査できるんでしょう…。

保護者

2年生になる時に転勤で移住しました。それまで他県での通級を利用していたことや、診断名を転校先にお伝えしました。しかし、その自治体で検査をしなければ利用ができないルールで、検査まで半年待ち、利用開始は1年間待たされました。

 

なぜ、こうした事態が起きているのか。
通級に入るための検査は、自治体や民間の医療機関などで行われています。

記憶力や理解力を測り、検査後の手続きまで含めると、子ども1人につき約5時間かかります。この小児科で実施できる検査数は、最大で月に10件ほどです。現在、検査は5か月待ちだといいます。

カラムンの森こどもクリニック院長 内田創さん
「なかなかマンパワー的にたくさんの患者さんを診ることができません。需要と供給が全く合っていない状況かなと思います。なんとか検査をしなきゃいけないという思いもありますが、限界といいますか、なかなかやりきれません」

専門性の高い教員を養成するには

支援を拡充していく上で、もうひとつの課題となっているのが、専門的な指導を行う教員の養成です。 埼玉県戸田市では、教員に専門的なスキルを身につけてもらう取り組みを始めています。

おととし、教員になった中野健志さんです。初めて担任を任されたのが、発達障害などの生徒14人がいるクラスでした。

戸田市立戸田中学校 中野健志教諭
「子どもたちに対して何をすればいいのか、本当に何もわからない状態でした。どうすればいいのか、わからないこともわからない」

この学校には、そんな中野さんをサポートする民間の専門家がいます。アメリカで心理学などを学び、発達障害の子どもの支援に長く携わってき宇都綾子さんです。

重視するのは、問題行動をする生徒を叱るのではなく、問題が起きないよう環境を変えることです。

たとえば、かつては周りの注目を集めるため、大きな音をたててドアの開け閉めを繰り返す生徒がいました。

スポンジやシリコンを使って、音が出ないようにドアを加工。すると…。

LITALICOパートナーズ 精神保健福祉士 宇都綾子さん
「先生方とDIYしました。いくら締めても音が鳴らないので、注目をもらえない状態になったら、児童の注目欲求の行動がどんどん減少していきました。

子どもたちが怒る、イライラする、爆発するという行動ではない行動に、うまく導いてあげるのが重要かなと思っております」

担任の中野さんは、こうした心理学や行動分析に基づく専門的なスキルを宇都さんから学んでいます。この日は、独り言を言い続ける生徒について、相談しました。

中野教諭

先生が話しているときに、独り言を話して自分の世界に入り込んじゃうのを、何とかしたいんですけれど。

宇都さん

本人に、1人で話しているということを認識してほしいので、注意というよりは、「呼んだ?」という感じで、話していることを認識できるよう促してみてください。

 

発達障害のある子どもの学びをどう支援するのか。学校は、専門家を招いて教員の成長を促すこの試みに、手ごたえを感じています。

戸田市立戸田中学校 特別支援学級主任 中村直子さん
「一般の学級と同じような言葉がけでは、なかなかうまくいかないところがあるので、そういうところで少しずつずれが生じていました。専門家にその時のその子に対して、適切な対応がとれるようになってきたかなと思います」

後編の記事では、東京都の全区市町村への独自アンケートからわかった、各自治体の通級の実情についてお伝えします。)

 

発達障害の子どもの学びに関して、皆さんからの意見を引き続き募集しています。こちらの投稿フォームよりお寄せください。

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