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  • 2023年12月25日

神宮外苑再開発 警告で考える「再開発のあり方」 伐採計画どうなる?

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計画の是非について議論を呼んでいる東京・明治神宮外苑の再開発。

ことし(2023年)9月に始まる予定だった樹木の伐採は年明け以降にずれ込むなどしていて、当初の計画通りには進んでいません。

その要因の1つとも見られるのが、9月にユネスコの諮問機関・イコモスが出した再開発の中止を求める警告「ヘリテージ・アラート」です。イコモスによる警告は、多くの海外メディアも神宮外苑の再開発について報じることとなりました。

特派員が関心を持っていたのは、海外と日本で異なる再開発への住民参加のあり方でした。

(首都圏局・都庁クラブ/記者 尾垣和幸)

明治神宮外苑再開発とは?

明治神宮外苑の再開発を行うのは、▼神宮外苑の土地の大部分を所有する明治神宮と、▼三井不動産、▼伊藤忠商事、▼JSC=日本スポーツ振興センターの4つの事業者です。

事業の認可を行うのは東京都で、環境アセスメントの手続きが終了したことをもって、ことし(2023年)2月に認可し、3月から建物の解体工事が始まりました。

計画では、▼老朽化のため、神宮球場と秩父宮ラグビー場が位置を変えて建て替えられるほか、▼およそ190メートルと185メートル、80メートルの3棟の高層ビルが建設され、これに伴って3メートル以上の樹木743本が伐採される計画です。

ただ、名所となっている4列のイチョウ並木は保全されるほか、あらたに樹木837本が植えられる計画です。

中止を求めたヘリテージ・アラート

こうした計画に対し、イコモスはことし9月、「神宮外苑は世界の公園の歴史においても例のない文化的資産」だとして「ヘリテージ・アラート」と呼ばれる再開発の中止を要求する警告の文書を事業者や都などに送りました。

この中で、▼事業者に対しては事業の撤回を、▼都に対しては、事業の認可につながる環境アセスメントのやり直しなどを求め、10月10日までに国内委員会への回答を要請しました。

これに対して、事業者の1つの三井不動産は「イコモス独自の認識のもとで一方的に発信された」とする見解を示しました。また、都の小池知事は会見で「かなり一方的な情報しか入っていないのではないか」と指摘しました。

このように主張したうえで、いずれも警告に対して期限までに回答はしませんでした。

ただ、アラートの5日後には、都が事業者に対して、樹木の保全のあり方を見直すよう要請。事業者は伐採本数を減らす意向を示し、9月に始まる予定だった伐採は年明け以降にずれ込みました。

アラートを海外メディアが報道

一方で、アラートについては海外メディアが報じ、世界の人たちが、神宮外苑再開発について知るきっかけにもなりました。

このうちのひとつ、アメリカ・AP通信のスティーヴン・ウェード記者は、神宮外苑に関しての記事をこれまで5つ配信しています。

東京オリンピック・パラリンピックの取材をきっかけに5年前に来日。

国立競技場のすぐそばにある名所のイチョウ並木など風光明美な神宮外苑を気に入り、取材の合間にたびたび訪れていました。その後、再開発の計画があり、住民から反対の声が上がっていることを知りました。それでも、計画が進んでいくことに、違和感を感じたということです。

アメリカ・AP通信 スティーヴン・ウェード記者 
「再開発の方法はひとつではない。頭のいい人が10人いれば、10のいいアイデアが浮かぶはずです。街に住む人々はどう開発されるか決める権利があるので、東京にはオープンな議論をしてほしい」

特派員が持つ関心「住民の賛同は?」

イコモスは、アラートのなかで「市民などと協議せず、高層ビルを建設することに強く警告を発する」などと主張。

こうした指摘について、日本外国特派員協会の会見で、2人の記者に話を聞きましたが、いずれも、再開発にあたって住民への説明や合意形成がいかに行われているかということに関心を持っていました。

イギリスの出版社の記者 
「これだけ古い樹木を切るのだから、どれだけ、住民の賛同が得られているのかは知りたい」

住民向け説明会9回 意見を聴く会合も

神宮外苑再開発では、高層ビル建設の計画が明らかになった2020年以降、これまでに事業者によって9回住民向けの説明会が行われています。

そのなかで事業者は、▼高層ビルを建てる理由として「都心の一等地で緑とスポーツを守っていくために、土地の高度利用が必要になってくるため」と説明しました。

▼樹木の伐採については、できるかぎり樹木を保存し、やむをえず伐採した樹木は、製材するなどして有効活用するとして、理解を求めました。

また、東京都は、再開発計画の大枠を示したうえで▼3回にわたって住民から意見を募ったほか、▼意見を聴く会合も開きました。

おととし(2021年)12月には、2週間にわたって意見公募が行われました。

このなかでは、賛成意見はなく、反対意見が33件寄せられました。 
「多くの人は閑静な神宮外苑が一変する計画があることを知らない」「本来、超高層ビルを建てることなどできない地域である」などと、再開発に対して厳しい意見が並びました。

では、こうした意見が再開発計画に反映されることはあるのか。 
都の担当者によりますと、意見によっては、都市整備局長判断によって、計画が修正されることもあるということです。

ただ、ある都の関係者は「計画案はその時点で都が考えるベストのものであり、住民の意見を反映して変更されたケースはあまり見たことがない」と打ち明けてくれました。

神宮外苑の再開発では住民の意見の一部は去年(2022年)2月、都の審議会で紹介されました。

都側は、都議会議員や専門家などが務めるおよそ30人の委員を前に、住民側の高層ビル建設の疑問に対して「土地の高度利用により、商業、業務、交流等の都市機能を更新・導入し、風格と活力が共存する魅力あるまちの形成を図ることとする」などといった見解を示しました。

審議会ではそれ以上、住民の意見への是非については議論されず、高層ビルの高さの限度などを定める再開発計画の大枠は承認されました。

ニューヨークでは…住民の意見が計画を左右

都市開発に詳しい東北大学の窪田亜矢教授はこうした日本の仕組みでは、「住民参加」が形骸化しているのではないかと指摘します。

例えば、アメリカ・ニューヨークでは、第二次世界大戦後の相次ぐ再開発の波のなか、歴史的な建造物や風景・景観を守ろうと、1965年に「歴史環境保全条例」ができました。

条例では、歴史的保全地区に指定されたエリアで再開発を行う場合、公有地、民有地にかかわらず、市が委員会を開催します。 
これは公開の場で行われ、市が住民から、再開発がどのように歴史的な建造物や景観に影響を与えると考えているのか意見を聴き、専門家にもはかったうえで、再開発を続けるかどうかなどを判断します。

こうした仕組みの下、1990年代には、事業者が当初計画していた高層ビルの設計の見直しを迫られある程度高さを低くして計画を続けようとしたけれども、とん挫したケースもあったということです。

東北大学 窪田亜矢教授 
「ニューヨークでは、住民も景観を享受しているとしてその意見を尊重する考えが強い。日本でも説明するだけでなく、住民の意見に応える『応答責任』も求められるのではないか」

イコモスの「ヘリテージ・アラート」が出されたあとで示された、「年明け以降」という樹木の伐採が始まる時期が近づく中、神宮外苑の再開発がどのように進んでいくのか、注視していきたいと思います。

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