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  • 2023年11月7日

歌舞伎町へ!全国へ!カギは中東?インバウンド効果高める戦略は

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外国人観光客の誘致も、数だけを求める時代はもう終わり。次は質を求める時代です。つまり、いかにたくさんのお金を日本で使ってくれる観光客を誘致するかです。その試行錯誤が始まっています。  
政府が新たに注目しているのは、中東の産油国。国外旅行に使うお金が多く、海外ではすでに重要市場と位置づけられていますが、日本は出遅れています。遅れを取り戻すにはどうすれば。そのヒントを探ります。  
(首都圏局/記者 山尾和宏・前ドバイ支局長)

UAEからインフルエンサー来日

10月29日、来日したのは、UAE=アラブ首長国連邦から来た女性4人。彼女たちは中東で人気の「インフルエンサー」。4人のフォロワー数は、あわせて100万人を超えます。  
SNSが普及した中東では、企業の宣伝などにインフルエンサーの存在が欠かせません。招いたのは日本政府観光局です。その狙いは日本の観光地の魅力を発信してもらうこと。ターゲットは富裕層です。

まず向かったのは新宿・歌舞伎町。SNSでもお馴染みの大きな看板の前で、写真撮影。インフルエンサーのひとりは「インスタ映えするわ」と大興奮していました。

彼女たちは1週間かけて、東京や三重、京都などをまわります。

なぜ中東富裕層か?

日本政府観光局が、UAEからインフルエンサーを招いたのには理由があります。  
日本政府は、外国人観光客の消費額を、コロナ禍前の3倍の年間15兆円に増やすことを目標に掲げ、消費額の高い富裕層の誘致を支援しています。

そこで、注目したのが中東・湾岸地域の6か国。GCC=湾岸協力会議を構成し、1つの地域経済圏を形成しています。日本政府観光局は、おととし、UAE最大都市ドバイに中東初の事務所を開設し、富裕層の観光誘致を後押ししてきました。

中東富裕層に注目した理由は、旅行で使うお金の多さ。日本政府観光局の分析では、年に複数回、国外に家族旅行。料理人やメイドを同行させることも。宿泊は高級ホテル。貴金属など高級品を買い求める傾向があるといいます。

実際に、私がフランスのパリを訪れた際にも、中心部のシャンゼリゼ通りで、たくさんの高級ブランドの袋を抱えた中東富裕層の姿をよく見かけました。

中東湾岸の6か国は、コロナ禍前、年間で3600万人余りが海外に旅行し、市場規模は世界5位に相当する10兆円に上るとされるデータもあります。中東の富裕層が日本で長期滞在してくれれば、その経済効果は絶大なはずです。

ところが、日本を訪れた人はまだまだ少ないのが現実です。2019年にこの6か国から来日した人は3万人に満たず、ごくわずかにとどまっています。渡航先はフランスやスイスといったヨーロッパの国が中心で、日本は観光誘致で遅れをとっています。日本政府観光局のUAEドバイ事務所の責任者は、今こそ行動を起こすべきだと訴えます。

日本政府観光局ドバイ事務所 小林大祐 所長  
「日本の富裕層の誘致政策では、ヨーロッパやアメリカが中心で、中東はまったく手が付けられなかったマーケットです。そこに潜在的なたくさんのお客さまがいることは間違いなく、あとは行動を起こして、誘致するだけなんです」

中東富裕層の“好み”をアピール

今回のツアーで、日本政府観光局は、富裕層好みの施設やサービスを案内しました。  
重点にしたのは「宿泊」「食事」「移動」の3つです。

「宿泊」

まず、訪れたのが歌舞伎町にことし春にオープンした日系のホテル。富裕層を取り込もうと、通常のスイートルームのさらに上のグレードに、4つの特別なスイートルームを設備。もっとも高い部屋は、2人で1泊およそ300万円。高層ビルの最上階で、東京を一望できる場所にあり、部屋にはスパの施設までついています。

「24時間、こちらのバトラーが、どんな要望にも対応します」  
ホテルの宿泊支配人が、「バトラー」と呼ばれる専属の客室係による手厚いサービスを説明します。中東の富裕層が好む「特別感」を味わえることを、アピールします。

施設やサービスの高さをアピールし、中東富裕層に人気の欧米系のホテルに対抗するのが狙いです。

インフル  
エンサー

室内は、近代的な調度品に日本の伝統的な要素が加わっています。この混ざり合った文化が好きです。友人に勧めるとしたらこのホテルを勧めたいです。

「食事」

次に向かったのは、美しい海岸の景観が楽しめる三重県鳥羽市。  
訪問した観光施設では、地元の高級食材、伊勢エビの炭火焼きを試食しました。  
厳格なイスラム教徒も多い中東の富裕層は、「保守的」で、あまり冒険しないと言われています。しかし、できるだけ長く、さまざまな場所に滞在してもらうには、日本ならではの食を知ってもらい、親しんでもらう必要があります。

 

この伊勢エビは質が高く新鮮ですね。私たちはたくさん味付けして食べるのが好きなので、もっと味付けをしてくれると、さらに人気が出るかもしれません。

「移動」

その次は奈良県へ向かいます。移動には民間の輸送業者が運航するヘリコプターを利用しました。通常は、車で3時間かかるところを約30分で移動。空の交通網の利便性をアピールしました。  
大都市圈から離れた地方の観光地に中東富裕層を誘導するには、こうした空の交通網の活用が欠かせません。インフルエンサーの1人に話を聞くと、地方の観光地の潜在性が伝わってきます。

 

日本は、メディアなどを通じて知っていたイメージとは完全に違っていました。たくさん訪れるべき美しい場所があるとわかり、美しい日本を発見できました。UAEの富裕層は必ず日本を気に入ります。

今後の課題は

同時に、日本はそもそも、中東に限らず、富裕層の誘致で、多くの課題を抱えています。  
観光庁がおととし(2021年)公表した報告書によると、富裕層の誘致には、富裕層が好む高級ホテルや交通手段の不足、富裕層が求める特別なサービスへの対応力、それに、情報発信で、課題があると指摘されています。

例えば、5つ星ホテルの数だけ見ても、観光庁の資料によると、2020年時点で、アメリカが801とトップ、イタリアやイギリスなど上位の国に欧米が目立つ一方、日本はわずか34と大きな差があります。

中東をみても、こうした課題はあてはまるように思います。中東の富裕層は、宿泊施設に強いこだわりがあり、高級な宿泊施設が集中する東京や京都など、インバウンドのいわゆる「ゴールデンルート」を訪れる傾向があるといわれているからです。こうした人たちを地方に誘導するには、ホテルを各地に整備することも課題となりそうです。

また、中東の富裕層は、旅行の予定を事前に固めず、直前で決めることも多いと言われています。「人気レストランの貸し切り」や「プライベートジェットの手配」など、特別なリクエストにすばやく対応できる会社や人材の育成も欠かせないと思います。

さらに、国外旅行に慣れ親しみ、観光地の情報収集にたけたインフルエンサーたちでも、日本の観光地についてはよく知りませんでした。それだけ日本の観光地の知名度が中東では高くないと言うことだと思います。中東の富裕層の間では英語が広く通じますが、やはり母国語のアラビア語での情報発信が欠かせません。  

中東では、すでに各国がしれつな誘致合戦を繰り広げています。そこに、出遅れた日本が切り込むことは簡単ではないかもしれません。こうした中でも、今回のような取り組みを続けて、中東にむけて情報発信すると同時に、何が富裕層に好まれるか、何が日本側に足りないか分析・検証しながら、環境を整えていくしかないと思います。中東富裕層の関心を日本に振り向かせることができるのか、観光立国を旗印に掲げる日本の力量が試されることになります。

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