首都圏ネットワーク

  • 2023年10月10日

「議員の原稿を職員が書く なぜ?」〜千葉県袖ケ浦市議会の事例から〜

地方議会のリアル(7)
キーワード:

地方議員は、地域の声を拾い上げ、議会を通して行政に反映させるのが仕事です。ただ、その議員が議会で読み上げる原稿を職員が書いていたとしたらどうでしょう?このような事例が、千葉県の袖ケ浦市議会で発覚しました。一体どうしてなのか、取材しました。 
(首都圏局/記者 眞野敏幸)

市側「参考資料として提供」

今回の取材は9月に朝日新聞が掲載した記事がきっかけでした。千葉県の袖ケ浦市議会で、議員が議会で発言する「賛成討論」の原稿を、市側から提供されていたという内容です。 
議会では、議案が採決される前に、議員が賛成または反対の立場にたって演説することがあります。賛成の立場で演説する場合は「賛成討論」といい、通常原稿は議員が自ら準備します。しかし、今回はそれを市側が作成したというのです。

2023年9月7日 朝日新聞千葉県版

まずは、袖ケ浦市に事実関係を問い合わせました。すると、市側は「議会から要請を受けて、議員が賛成討論を作成するための参考資料として提供しました」と回答。ただ、原稿を渡しているのでなく、あくまで参考資料なので、どのように使うかは議員の判断ということでした。そうなると、やはり「参考資料」の具体的な中身が知りたいところです。

参考資料の情報公開請求

そこで、長年、袖ケ浦市政をチェックしている市民団体と接触しました。すでに情報公開請求により「参考資料」を入手していると聞いたからです。 
情報公開を請求した理由がまたふるっていました。市民団体のメンバーが、市議会議員から「『賛成討論』の原稿は天から降ってくる」とのうわさを聞いたからだというのです。

これが、団体から見せてもらった参考資料です。 
「私は議案○○について、賛成の討論をいたします・・・」という書き出しから、まさに原稿そのものに見えました。読みやすいようにするためなのか、文字のサイズも大きく、ふりがながついている文書もありました。

会議録と完全一致

ただ、これだけではまだこの資料が実際に討論に使われたと言い切ることはできません。そこで、私たちはインターネットで公表されていた袖ケ浦市議会の会議録と参考資料とを比較することにしました。

左/市が作成の資料 右/議員の実際の発言(会議録より)

これは、2021年の3月に開かれた議会で、ある議員が発言した賛成討論の記録です。 
その会議録と、議会前に議員に提供された参考資料を比較したところと、何とすべての文章が一致したのです。「大宗を占める」のような、普段の会話で使う機会は少ないと思われる言葉もあります。(ちなみに「大宗」という言葉を辞書で調べてみたら、「物事のおおもと。特に、芸術の方面で権威ある大家」といった記述がみられました) 
念のため、21件の議員の賛成討論についても会議録と比較しましたが、19件の賛成討論が、ほぼ同一の内容でした。一部文書を入れ替えたり、書き足したりしているものもありましたが、参考資料と大きく異なったものはありませんでした。

いったいいつから…

ここまでの取材で、市側が作成する「参考資料」と議員の討論が一致していることは確認できました。 
それにしても、こうした市側と議会の“慣習”はいつから始まったのでしょうか。 
双方に確認したところ「長年続いているが、何年前から始まったのか記録がなく、はっきりしない」ということでした。 
そこで、袖ケ浦市の元幹部や元市議会議員など過去を知る関係者をあたりました。すると、少なくとも30年以上前から「慣例」として続いていることが分かりました。 
そう証言した関係者の証言です。

元議員

議員に当選した30年前には、市が作成した賛成討論の原稿を受け取っていた。先輩議員からも「賛成討論はこの原稿を読めばいい」と言われていた。もっと、昔から続いているのだと思う。

現役職員

20年ほど前、先輩職員から業務の引き継ぎを受け、賛成討論の原稿を作ったことがある。職員は、議案と賛成討論はセットで作るものだという認識があった。

2度のチャンスは生かされず

さらに、新たな事実も明らかになりました。 
これまでに少なくとも2度、この「慣例」を問題視する声があがっていたというのです。 
1つ目はおよそ15年前、市長に直接市民が意見を届ける「目安箱」に「市側が書いた賛成討論の原稿を議員がそのまま読んでいないか」という投書があったことでした。 
2つ目は10年前、市議会の改革について話し合う特別委員会で、新人議員から「賛成討論の紙が議会事務局から回ってくる。こんなのはやめるべきだ」との意見が出されたということです。 
しかし、いずれの機会においても、市や議会で問題視する動きが広がることがなく「慣例」が変わることがありませんでした。

議長に直撃 すると…

私たちは取材で明らかになったことを踏まえて、袖ケ浦市議会の榎本雅司議長に問いました。すると、こんな答えが返ってきました。

袖ケ浦市議会 榎本雅司 議長 
「私は市議会議員を5期務めているが、議会のほうから要請して原稿をもらっていたという認識をちょっと私は持ってなかった。しかし、一部の議員からそういうことがあるんじゃなかろうかということの疑念がありまして、モヤモヤ感が継続しているのはよろしくないと思いまして、議会の各会派の代表者による会議を開いて話し合うことにしました。その結果、議会と執行部という二元代表制の中で、誤解を招くようなことをするよりも、自分たちで今まで以上に切磋琢磨するやり方にした方がいいんじゃないかとなり、9月の本会議からは参考資料の受け取りをやめました。誤解が続きますと、市民感情として、議会は何をやっているんだという不信感になりますから、こういうものは払拭していかないといけない」

榎本議長によると、誤解を招くおそれがあるため、9月の議会から、市側からの「参考資料」の受け取りをやめたということでした。 
ただ、職員から資料をもらうこと自体は、議員活動をする上で必要だと付け加えました。

「執行部の議案の提出の根拠を理解しないといけないので、そこはある程度、議員各位の権利として認めてあげないといけない。賛成討論する場合、執行部と同じ方向になるということはある。確かに、端から見れば、これは同じじゃないかと見られるということはあると思う」

議員たちの受け止めは

今回、長年続いた「慣例」を議会が終わらせたことについて、ある現職市議は「この慣例はおかしいと感じる議員は何人もいたが、これまで具体的に動くことはできなかった。それが、市民団体が調査しているということをきっかけに、議会がみずから変わらないといけないとなり、やめようということになった」と話していました。 
少なくとも30年来の慣例が、ようやくとはいえ見直されることになったことは一歩前進といえるかと思います。それにしても、どうして「慣例」が続いたのでしょうか。 
地方議会に詳しい専門家に聞きました。

東北大学大学院 河村和徳准教授 
「原稿の代筆は執行部と議会側の両方にメリットがあります。市の執行部側は議会で意思決定してもらわないと政策を進めることができない。議案を可決するにあたっては、議会で議員に討論してもらって、審議の体裁を整えないといけないので、原稿を準備して議員側に手渡していると考えられる。一方、議員側も原稿を用意してもらうと原稿作成の手間が省けるというメリットがある。特に、今の地方行政は、問題が多様化・複雑化しており専門的な知識が必要になっているが、専門知識が不十分な議員からすれば、原稿を代筆してもらえれば助かるとなる。ただ、このような「慣例」が続けば、議員が自治体の政策を厳しく追及できなくなり、結果的に、住民の不利益につながる」

みなさんの意見や情報をお寄せください

このような自治体と議会のいわば「助け合い」のような構図について、河村氏は、議員のなり手が少ない傾向がある小規模な議会や、首長と議会がオール与党といった与野党対立のない議会で、起こりやすいといいます。 
実際、私もこれまでの地方議会の取材の中で、何度もうわさを聞いたことがありました。中には「質問文」でさえ、職員に作らせているといった話もありました。 
みなさんがお住まいの自治体ではいかがでしょうか? 
地方自治法には、地方議員の職務について、こう書かれています。 
「議会の権限の適切な行使に資するため、普通地方公共団体の議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」

「地方議会のリアル」では、引き続き、この問題について取材を続けます。皆さんが日頃、議会について思うこと、または経験したことを、こちらまでお寄せください。

あわせて読みたい

ページトップに戻る