Chat(チャット)GPTが注目を集めています。基本的には無料でパソコンやスマートフォンで使えるサービスで、質問や相談を入力すると、AIが瞬時に、まるで人と会話をするかのように答えてくれます。
ChatGPTを活用し仕事の時間を短縮することで、子どもと余裕を持って接することができるようになったという男性。ChatGPTを家庭教師の代わりにして、勉強を教えてもらっている高校生。さらにデートのときの会話や着ていく服をChatGPTに相談する女性も。
どうやって使うの?どれくらい便利なの?一方でAIの進化に対する懸念の声も…。最新事情を取材しました。
(首都圏局/ディレクター 梅田慎一・福留秀幸・竹前麻里子)
ChatGPTを使って作った番組の見逃し配信はこちら(5/5まで)
2月からChatGPTを仕事に活用し始めた、フォトグラファー・映像クリエイターの矢野拓実さんです。
大手企業の広告用写真を手がけたり、世界各地で撮った作品を個展で発表したりするなど、プロとして活動してきました。
矢野さんは撮影計画を立てるときの相談相手としてChatGPTを使っています。この日は、江の島を舞台にした観光用の動画をどう撮るか相談しました。ChatGPTの公式サイトにアクセスしてログインし、質問文を打ち込みます。
このときに、ChatGPTにどのような立場で回答してもらうかを指定すると、期待する回答を得やすいといいます。
あなたは優秀なクリエイティブディレクターです。江の島の観光動画を作る必要があります。(中略)どのような場所や体験をピックアップしたらいいと思いますか。
江の島は多くの魅力的な場所や体験がありますので、以下のようなスポットや体験をピックアップして動画に入れることをお勧めします。
1. 江の島大橋:江の島へのアクセスポイントであり、美しい景色を楽しむことができます。モデルが大橋を渡りながら周囲の景色を楽しむ様子を撮影しましょう。
2. 江島神社:江の島を代表する歴史ある神社で、多くの観光客が訪れます。モデルが参拝する様子や、神社の雰囲気を伝えるシーンを撮影しましょう。
3. 江の島サムエル・コッキング苑:熱帯植物や季節の花が楽しめる庭園で、江の島シーキャンドル(展望灯台)もあります。シーキャンドルからの絶景や、庭園でリラックスするモデルの様子を撮影しましょう…
ChatGPTはインターネット上の膨大な情報を学習しており、すぐに回答を提示。魅力的な場面や体験のアイデアを示しました。「江の島大橋」や「神社」での撮影、「特産のしらす丼」を堪能するなど、6つのプランでした。
さらに…
時間は14-17時で行えればと思います。スケジュールの作成をお願いできますでしょうか。
撮影時間や移動時間を考慮しながら、以下のようなスケジュールを提案いたします。
14:00-14:15 江の島大橋
・モデルが江の島へ向かう様子や、大橋からの景色を撮影
14:15-14:20 移動
14:20-14:45 江島神社
・参拝するモデルの様子や、神社の雰囲気を撮影
14:45-14:50 移動
14:50-15:20 江の島サムエル・コッキング苑&江の島シーキャンドル
・庭園でリラックスするモデルの様子や、シーキャンドルからの景色を撮影
15:20-15:30 移動
15:30-16:00 江の島の砂浜
・砂浜で波打ち際を歩くモデルの様子や、海の雰囲気を撮影…
マジですごいですね。移動時間を考えてますね。
撮影を効率的にすすめるための予定が、1分ほどで示されました。
こうした準備を自分だけですると3日ほどかかりますが、ChatGPTを使うと、わずか40分で終えることができました。
矢野さんの家庭は夫婦共働き。これまで家事や育児と、仕事との両立のため、作品作りを諦めることもありましたが、いまは時間に余裕が生まれたといいます。
フォトグラファー・映像クリエイター 矢野拓実さん
「負担軽減は半端ないですね。家事育児をしながら、自分のワーク(作品)ができているのがうれしいです」
江の島を舞台にした動画の撮影当日。強風に加えて雨も降ってきました。こうしたケースは何度も経験してきましたが、この日はあえてChatGPTに相談してみました。
神社の屋根や石段に落ちる雨粒を写すことで、雨の日の風情を感じさせる映像が作れます。
風に揺れる提灯(ちょうちん)や木々の様子を撮影し、神社の風情を感じさせる映像が作れます。
雨の日は観葉植物が鮮やかに見えるため、雨に濡れた植物や花々の映像も取り入れてください。
ChatGPTのアイデアを参考に撮影
ChatGPTをうまく使いこなせば、撮影現場でも助手代わりになってくれることが分かりました。
矢野拓実さん
「ここはAIにやってもらう。ここは自分のこだわりがあるから自分でやるみたいな感じで、自分の可能性を広げるものとして使うのがいいのかなと思いますね」
ChatGPTの活用は子どもにも広がっています。都内に住む高校1年の男子生徒です。ChatGPTを使った家庭教師サービスを利用しています。
数学の問題文をスマホのカメラで撮影して、Chatに送って質問。ただ、すぐに答えを教えてもらえるわけではありません。問題を解くための考え方が順を追って示されます。
「解き方がわかりません」と伝えると、問題を解くための公式を教えてくれるなど、ヒントが得られました。その公式で計算していくと…。正解にたどりつくことができました。
ふだんは部活で忙しいこともあり、いつでも質問できるこのサービスは便利だといいます。
男子生徒
「夜遅いときとか、学校に行けないときとか、先生に質問しにくいときに、AIに質問できるのがすごい。たとえ自分の解答が間違っていても、自分とAIの中だけなので、恥ずかしくない。そういうところが先生と違うと思います」
一方、現状では、間違った回答が示されることもあります。戦国時代、関ヶ原の戦いで桃配山に陣を構えた武将は誰か尋ねると、「石田三成」という答えが返ってきました。
間違っている。正解は徳川家康なのに。AIには答えられないこともあるので、自分でも調べたほうがいい。
母親は、AIとの共存が不可欠になる時代を見越して、今からつきあい方を学んでほしいと考えています。
母親
「AIは、人と比べると足りないところはありますけど、進歩も早いと思うので。塾に行かなくても希望の大学にいける、それくらいサポートしてくれるといいなと思っています」
さらに、より私的な相談事をChatGPTに頼るようになった人もいます。都内に住む、ユーチューバーの悦子さん(29歳)です。
ChatGPTを使ったスマホのアプリを利用。この日は、デートで着る服を一緒に選びました。
今の季節に合った、デートにおすすめの女性のコーディネートを教えてください。着用するのは29歳のショートカット女性です。
春のデートには、明るく爽やかな雰囲気を取り入れたコーディネートがおすすめです。
・淡いピンク色のワンピースをベースに、デニムジャケットと白いスニーカーを合わせる。
・ホワイトのシャツに、パステルカラーのタイトスカートとヒールを合わせる。
・ライトブルーのデニムジャケットに、フローラル柄のスカートと白いキャンバスシューズを合わせる…
恋愛などプライベートに関する相談で使うことが多いといいます。
気になる男性とデートがあるのですが、その時になんの会話をすると盛り上がりますか?
相手の興味がある話題を聞くことが大切ですが、以下は一般的に盛り上がる可能性が高い会話のアイデアです。
1. 趣味や好きなスポーツについて話し合う。
2. 好きな旅行先や行ってみたい場所について話し合う。
3. おいしい食べ物や飲み物、レストランの話題。
4. 昔の思い出やおもしろい話、笑えるエピソードの共有。
5. 質問ゲームをして、相手をより深く知る…
デート中に盛り上がる話題として趣味やスポーツといった定番のモノに加え、質問ゲームといった、ユニークなアイデアなど9つの案を提示してくれました。
さらに、1か月前から取り組んでいるダイエットでも、腰にくびれを作るための筋トレのメニューを、ChatGPTに提案してもらっています。
悦子さん
「友達に相談するほどじゃないけれど、悩んでいることに答えを出してくれる存在で、日常的に重宝しています。悩んだときに1人で考えるのは限界があるけど、AIは掘り下げてくれたり、複数の提案をしてくれたりするので、すごく助かります。
仕事、恋愛、ダイエット、いろんな悩みを聞いてくれるので、相談相手でありカウンセラーのような、そばにいてほしい存在になっていますね」
「便利そうだけど、使いこなすのは難しそう…。特に中高年にはハードルが高いのでは」という印象を持った方もいるかもしれません。ところが専門家は「若い人よりも中高年のほうがうまく使える可能性がある」といいます。
人工知能学会副会長 栗原聡さん
「ChatGPTは専門的なプログラミング言語などではなく、私たちが日常的に使う言葉で動かすものです。指示を出す文章次第で、答えの精度が変わってきます。どういう状況の会話なのか、どんな答えがほしいのかなどを具体的に伝える必要があります。つまり、自分の意図を正確に言葉にする力や、指示の仕方がとても大切なのです。
そうした力は若い世代よりも、部下に指示をする管理職や、人生経験豊かな方のほうが持っていると思います。だから中高年の方が、ChatGPTをうまく使えるかもしれません」
AIの活用に関して、国は、「経済成長や社会の発展に向け大きな可能性のある技術だ」とする一方で、「幅広い分野で有効に活用していくためには、課題への対応も急ぐ必要がある」としています。
さらにAIの活用が広がる中、避けて通れないのが私たちの仕事がAIに置き換えられるのでは、という議論です。
アメリカの金融機関が行った調査では、事務職などで46%がAIで自動化されると予測。他にも、「法務職」「建築設計・エンジニアリング職」などといった、デスクワークが多い、いわゆる“ホワイトカラー”の職業がAIに置き換えが進むとされています(ゴールドマン・サックス調査レポートより)。
こうした中で、私たち人間にしかできない仕事は何か、見つめ直す取り組みを始めた現場もあります。都内にある税理士法人の事務所です。相続や中小企業の事業承継などといった、顧客の相談に対応しています。
ChatGPTが、どれだけ税理士の仕事に影響を及ぼすのか、話し合いが行われました。「青色申告のよい点、悪い点について表でまとめてください」とChatGPTに打ち込むと、瞬時によい点と悪い点が5つずつ、表で示されました。
すごいですね。
税理士がいらなくなっちゃう。
将来的に税理士の仕事の一部が置き換えられるかもしれない中で、人間だからこそできる仕事は何なのか話し合います。
顧客の感情については、AIには分からないところがあるので、そこに重点をおいた方がいいと思います。
顧客の思いを引き出す能力は、今後ちゃんと鍛えていかなきゃいけない。
出川裕基 代表社員税理士
「信頼される人にならないと、人間力を高めていかないと、税理士の仕事は、僕はなくなると思う」
顧客が言葉では表しきれない感情をくみ取ること。それがAIと差別化できる自分たちの強みだと考えました。そうした能力を高めようと、ロールプレイング形式で研修を行っています。
設定は妻を亡くした夫が、遺産相続について税理士に相談する場面です。ChatGPTに聞いた場合、すぐに遺産を分ける方法を具体的に示しました。
遺産相続の税制に関して、以下のアドバイスをさせていただきます。
まず、相続人の構成についてですが、あなた(夫)と2人の息子が相続人となります。日本の法定相続分では、あなた(夫)が1/2、それぞれの息子が1/4ずつを相続することになります。…
人の場合は、どうなるのか。
このたびはお悔やみ申し上げます。ご迷惑でなければ、お線香あげさせていただいて、よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
本題に入る前に、家族を亡くした遺族を思い、寄り添う言葉を投げかけました。
ふたりの息子に遺産をどう分けるか、という相談については…。
長男は音信不通で全然会ってないのですが、やっぱり長男にも財産あげないといけないんですかね…?
必ずしも遺産を渡さなければいけないということではございませんので、必要であれば私もご同席させていただいて、ご説明させていただいたほうが、ご長男様も納得いただけるのかなと思います。
主に法的な解釈を示したChatGPTに対して、税理士は話し合いに同席することを提案。家族間に生じる複雑な感情に寄り添うには、それが必要だと考えたからです。
税理士 三橋伸男さん
「ChatGPTの言うとおりに遺産を分けたけれど、結局、兄弟間でもめたとなったら、責任を取る人が誰もいません。相続人のもめたくないという思いを具現化して、落とし込むという力が、我々税理士に求められていると思います」
ChatGPTをすでに活用しているフォトグラファー・映像クリエイターの矢野さんも頭を悩ませていました。急速にAIが進歩する中、画像をゼロから作り出せるサービスが登場しているからです。
例えば、女性、笑顔、美しい空、といった条件を打ち込むと、まるで実在するかのような女性の画像が出現。誰でも簡単に作れるため、利用が急速に広がっているのです。
AIで作った画像
最も影響を受けそうなのは、企業の宣伝のためにモデルを起用する撮影です。仕事全体の3割を占めますが、今後も依頼は来るのか。そして海外で撮影するような自主制作の写真は、今後も必要とされるのか…。
矢野拓実さん
「AIは指示をちゃんと出せば、写真のようなクオリティーが100%出てしまう。危機感を僕も持ちました。そもそも写真である必要があるのか。正直、予算をかけたくないお客さんなら、もうカメラマンには頼まないんじゃないですかね」
この日、画像を作り出すAIの勉強会が開かれました。登壇したのは、世界的企業の日本の代表、ジェリー・チーさんです。矢野さんは、AIとどう共存していけばいいか、たずねました。
カメラを持っている人だからこそ撮れる写真と、逆に撮れない写真、AIだからこそできることは何ですか?
たとえば洋服のカタログの写真は、洋服を着たら格好いいかどうかをみんな知りたいので、洋服を着てる人が実在するかどうかは、そんなに重要じゃないかもしれません。
一方で、人間の手はいろんなポーズや角度、動き、使い方があるので、AIが生成する画像だとちょっと不自然に見えたりすることがあるんですね。
AIで作った画像
AIには技術的な課題もあり、実際の写真が必要なことも多いといいます。そして、海外などでコストや時間をかけて撮る写真については。
何となくピラミッドっぽい雰囲気を作りたいだけだったら、実物を撮らなくてもいいのですが、 私が実際にエジプトに行ってきたということをストーリーにしたいのであれば、本当の写真が必要だと思いますね。
なるほど、ありがとうございます。
矢野拓実さん
「複雑な動きとか、たまたま起きる、人の一瞬の動作や表情があるのかなと思っていて、そういうものを撮り続けることには意義があると感じました。
そこにいた人しか、その瞬間に何が起きたかというのは分からないと思いますので。写真があるから伝えられることを、撮影していきたいと思います」
AIにはない、私たち人間が持つ強みについて、人工知能学会副会長の栗原聡さんに再び聞きました。
人工知能学会副会長 栗原聡さん
「実は人間が得意なことと、AIが得意なことは真逆なんです。AIは膨大なデータの記憶や単純作業、計算が得意。一方、人間は、相手の気持ちを考える力や、空気を読んだり行間を読んだりする力で、臨機応変に対応を変えることが得意です。現状では、AIは状況をすべて言葉にしてあげないと、反応ができません。
今後AIを使いこなせるかどうかで仕事のパフォーマンスに大きな違いが出てきます。そのときに、自分の強みはなにかを見つけることが大事です。その強みがいかせる部分に集中して、他の部分はAIに任せるという考え方です。
自分の言葉の力・文章力を生かしてAIを使いこなし、共感力・想像力を人間相手の仕事でいかせるようになれば、これからの時代を生きる上で大きな武器になると思います」
実は、この記事に関する番組を制作する際も、ディレクターはChatGPTを活用しました。構成のたたき台をつくってもらい、どんな職業の方がAIの影響を受けているか、ChatGPTに聞くことで、取材をさせていただく方を考える際の参考にしました。
番組を周知するために、SNSに投稿した画像の一部もAIが作っています。さらに番組で使った音楽はすべて音楽生成のAIに作曲してもらったものです。
どんな番組になったのか、NHKプラスで5/5まで見逃し配信しています。