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ウクライナの料理や観光 魅力伝えるパンフレット 震災経験した制作者の思い

  • 2023年4月5日

「戦争」以外のウクライナを知っていますか?

ボルシチなど色とりどりの料理に、美しい教会。ウクライナ本来の魅力を知ってもらおうと作られたパンフレットは、想像以上の反響で増刷することになりました。

作ったのは日本に避難しているウクライナ人の学生と日本の大学生。
突然離れざるを得なかった「ふるさと」への思いがありました。
(首都圏局/記者 岡部咲)

“ほんとうのウクライナ”を知ってほしい

ひまわりのイラストが大きくあしらわれたパンフレット。
中を開くと、ウクライナの人口や国旗の由来といった基本情報だけでなく、ウクライナ語の簡単な会話や、色とりどりの料理、それに観光名所の情報が写真やイラストとともにわかりやすくまとめられています。

パンフレットを作った学生たち

パンフレットをつくったのは、ウクライナから都内に避難しているリリア・モルスカさん(22)と、日本人の大学生3人です。

リリアさんは、武蔵野大学の支援のもと、大学のランゲージセンターで日本語を学んでいます。
キーウ州で家族と暮らしていましたが、去年2月にロシアによる軍事侵攻を受けて隣国のポーランドに避難したのち、日本で避難生活を送っています。

キーウの大学で日本語を学んでいたこともあり、日本にも親しみがあるというリリアさん。
戦争が長期化する中、息の長い支援につなげるためには、ウクライナの歴史や文化といった、「ウクライナ人が守るべきもの」を知ってもらうことが欠かせないと考えるようになりました。

私のふるさとも“なくなった“

菊地里帆子さん(左)とリリアさん

そんなリリアさんの思いに共感し、パンフレット作りにつなげたのが同じ武蔵野大学でリリアさんの暮らしを支援していた、菊地里帆子さんです。

菊地さんの出身は東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県名取市の閖上地区です。一緒にいた家族は無事でしたが、津波で自宅を失いました。
当時、小学5年生だった菊地さんは家族とともに親戚のいる仙台市内で避難生活を送りました。
閖上地区の復興は進んでいますが、自分の中では以前の閖上とは違うように感じ、「ふるさとはなくなってしまった」と感じていました。

菊地里帆子さん
「津波が来るのを見てはいましたが、自分の家が土台だけになってしまったのを見て、かなりショックでした。閖上全体が壊滅的な状態でもう何も残っていない。歩いていた通学路もなければ、近所でも亡くなっている方が多くて、『全部なくなっちゃった』と思っています。ただ、“閖上”という名前だけが自分の軸となっています」

「震災」と「戦争」。状況は全く異なりますが、菊地さんには、日常が突然奪われ、避難を余儀なくされたリリアさんの状況が、震災直後の自分と重なってみえたといいます。

菊地さんは、震災の記憶を風化させないため、仙台市で開かれた国連の防災世界会議などでこれまでの経験を話してきました。
そんな菊池さんでも避難生活のことや、ふるさとのことを口にして伝えることはつらく、勇気が必要だったといいます。

戦火に見舞われ、変わり果てたふるさとについて語ろうとするリリアさんの勇気に応えたいと思ったのです。

菊地里帆子さん
「リリアさんはよく家族の話や地元の話をたくさんしてくれるので、いかに彼女が愛された環境で育ってきたのか、ウクライナのことをどれくらい好きなのかが伝わってきた。私自分が被災したことで、普通の当たり前の中にある美しさや、その価値をものすごく感じましたし、リリアさんが見ていたウクライナの“ふつうの美しさ”みたいなものを反映させたいと思った」

記憶にあるふるさとを残したい

菊地さんたち学生は、ウクライナの暮らしを身近に感じてもらえるよう、行事や料理のレシピ、オススメの観光地などの情報を集めることにしました。

しかし、大学の図書館だけでなく、国立国会図書館や地域の図書館に足を運んで本を探しましたが、思いのほかウクライナに関する情報が少なく、英語のサイトにあたったり、リリアさんから直接聞き取ったりしてまとめていきました。

菊地さんが特にこだわったのが、観光情報です。伝統ある美しい教会や、リリアさんが通っていた大学など12のスポットを掲載しています。

侵攻の中で建物や自然がもとの形をとどめているのか確かめるすべはありません。
また、近い将来どうなるかもわかりません。
掲載するべきか迷う声もありましたが、リリアさんの記憶にある、“ふるさと”の姿を記録に残すことが大事だと考えました。

出来上がった観光ページを見たリリアさんは、それぞれの場所で過ごした時間を思い出しながら「この教会は家族と一緒に行った。ここは本当にきれいな場所です」など、笑顔を見せていました。

想像以上の反響で増刷

こうしておよそ4か月かけて完成したパンフレットは、キャンパスがある江東区の区役所に置いてもらったり、ウクライナ支援をしている団体に配ったりしています。

武蔵野大学によりますと、反響は想像以上で、当初印刷した1000部では足りなくなり、さらに6000部増刷したということです。

菊地里帆子さん
「リリアさんと時間を一緒に過ごす中で、ウクライナの暮らしがいかに美しく、いかに魅力的な人たちが暮らしているのか、私自身が実感しました。リリアさんが見ていたウクライナを残しておけることはすごく価値が高いことです。リリアさんにも普通の生活があって、ウクライナにも普通の生活がある。戦争ではなく、ウクライナにはたくさん魅力があるんだよということがウクライナの一番の印象になってくれたらいいなと思います」

菊地さんは、この春、社会人になりました。国内外の災害支援にも関わる団体に就職し、ウクライナの支援を続けていきたいと考えています。

パンフレットは在庫があるかぎり、希望する人は誰でも無料でもらうことができます。
また、パンフレットのデータもインターネット上で公開されています。

アドレスは、こちらです。
https://drive.google.com/file/d/1DSXHpSsux84leMsvajW7f4pJNPcfh9gX/view?usp=sharing

  • 岡部 咲

    首都圏局 記者

    岡部 咲

    2011年(平成23年)入局。宮崎局、宇都宮局を経て首都圏局。 去年2月からウクライナについて継続して取材。

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