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  • 2023年4月3日

追跡 東京都内で密かに進む“令和の地上げ” その実態は

不動産のリアル(10)
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東京の都心にある一等地。その一角に異様な光景が広がっていました。ビルの出入り口につり下げられていたのは悪臭を放つ生魚や生肉。そして、壁になぐり書きされた「解決済み」という文字。そこで行われていたのは、ビルの入居者に対する執ような「地上げ」でした。一体誰が、何のために。私たちは取材を始めることにしました。(首都圏局 不動産のリアル取材班/古本湖美・竹岡直幸・尾原悠介)

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※空前の高騰が続く令和の不動産市場。その舞台裏で何が起きているのか、私たちは「不動産のリアル」として取材を続けています。みなさんからの情報や体験をこちらまでお寄せください。

きっかけはビルの所有権移転~地主から不動産業者に

問題のビルは築49年、地下1階、地上4階建ての建物。多くの乗降客が行き交う都心のJRの駅から歩いて数分。閑静な住宅街を抜けたところにそのビルはありました。

若者や外国人が入居し、さらにテナントも入っていました。      
登記簿を調べてみると、土地・建物ともに、もとは高齢の地主が所有していましたが、去年7月下旬、ある不動産業者が買い取り、所有権が移っていました。ビルでの異変は、まさにその直後に始まっていたのです。

深夜に突然スーツ姿の男たちが部屋に

私たちはこのビルに入居していた男性に接触することができました。男性によると、去年7月29日の午後10時半過ぎ、スーツ姿の2人組が突然訪問してきました。      
すでに男性は眠りについていたため、最初は呼び鈴に反応しなかったといいます。

しかし、いつまでも鳴り続けたため扉を開けると、突然、男たちから「(ビルの)オーナーが変わった。ビルの取り壊しは決まったので9月末までに出ていってください」と言われたといいます。

入居していた男性      
「あまりにも急だなと。一応引っ越し代は出すと言われたのですが。『いったん考えるのでまた日を改めてほしい』と言っても帰らなかったんですよ。『いや、今すぐやってください』ってしつこく言われて考える時間もくれない感じで。2か月後に出ていかなきゃいけないっていうのはなかなか大変だぞと思った」

30分ほどやりとりが続いたものの、男性は夜中に何回も来られるのは嫌だと思い、しぶしぶ書類にはんこを押したといいます。

書類には、9月末までに退去することや、立ち退きに伴う費用として50万円が支払われることが書かれていました。その後も、夜中に複数回、不動産業者から「引っ越しは決まったか?」と確認する電話がかかってきたということです。

せかされるように9月中に引っ越しを終えた男性。10月になって、ビルで取り壊しが始まると聞いていたため、再び足を運んでみると、その異様な光景に驚きを隠せなかったといいました。

入居していた男性      
「ビルの入り口に生の魚と肉がつるしてありました。干物じゃなくて。腐っててすごく臭かったです。誰かのいたずらかなと思ったんですが、それにしても手が込んでるなと。住んでたらすごく嫌だったなと」

都心のビル入り口につるされた生魚や生肉

当時、まだビルには複数の入居者が残っていて、立ち退きの交渉が続けられていました。そのさなか、ビルの入り口に、生魚や肉がつり下げられていたのです。      
私たちが現場に足を運んだ時も、つるされたとみられる魚はビルの内部に残されていました。

いったい誰が、こうした悪質な嫌がらせをしたのか、入居者や周辺住民に慎重に時間をかけて取材を進めました。そして、そこから浮かび上がってきたのが、この時期、黒塗りのワゴン車に乗って、ビルに出入りしていたスーツ姿の男たちの関与でした。

男たちはある中小の不動産業者の従業員~いったい何のために

居住者や周辺住民が残した記録や証言から、この男たちは、このビルを買い取った中小の不動産業者の従業員であることが分かりました。      
いったいどんな不動産業者なのか?調べてみると、大阪に本店があり、都内にも支店を構えていました。社員50人ほどで、ホームページなどをみると、取引先として大手デベロッパーの名前も記されています。

別の場所でも…黒ずくめの男たちを追跡

私たちは、この不動産業者についてもっと詳しく調べるため、ブラック地主・家主対策弁護団に話を聞きにいきました。すると、この業者が、都内の別の住宅街でも、土地の立ち退きなどを求めて、執拗な嫌がらせを繰り返していることが分かりました。      
弁護士からも「異様な現場ですよ」と言われ、早速足を運ぶことにしました。

閑静な住宅街でも行われる地上げ

そこは、都内のある駅から徒歩5分ほどに位置する閑静な住宅街でした。駅に近く、小学校なども近くにあり、ファミリー層が多い地域です。近くの公園では子どもたちが楽しそうに遊んでいます。

しかし、その現場だけは雰囲気が異なっていました。空き地の中に2棟の住宅がぽつんと建っていて、工事用の足場やオレンジ色のフェンスが幾重にも張り巡らされていたのです。

私たちが、現場を遠目から見ていると、全身黒い服の男が大声で電話をしながら家の周りを行ったり来たりしていました。      
間もなく、その家の住民とみられる高齢女性が買い物袋を下げて帰ってくると、男は女性に声をかけました。気づかれないようにそっと近づき、やりとりを聞いていると、女性は家の周りに組まれているフェンスを早くどかしてほしいと頼み込んでいましたが、男は受け入れる様子はありませんでした。

私たちが、最初、住宅の修繕工事なのかと思った足場やフェンスは、この女性たちへの嫌がらせとみられるものだったのです。

この土地で何が?令和の地上げ

そこで登記などをてがかりに、当事者たちへの取材を進めると、ここで行われていた地上げの一端が見えてきました。

この一帯は、1人の地主が所有する土地の上に、8世帯が住居を建てるなどして暮らしていました。      
しかし、地主が5年前に亡くなると、その翌年、相続した息子が今回の不動産業者に土地を売却。新たな所有者となった不動産業者は土地を借りていた人たちに立ち退きを要求しました。ここに住んでいた人によると、「地上げ屋だ」と強気な態度で男たちが周囲に姿を現すようになったといいます。2023年3月時点で、8世帯のうち、6世帯がこの土地から立ち退いていました。

泣き寝入りした40代女性

私たちは、家族そろって立ち退いたという40代女性から話を聞きました。女性は「高齢の母と暮らしていたため、あそこを終の住み処にするつもりだったんです」と切り出しました。そしてこう続けました。

立ち退いた女性      
「退去の交渉中、不動産業者から色々と嫌がらせを受けました。高齢の母にこれ以上負担をかけることができないと思い、やむを得ず退去で合意しました。しかも、わずか数か月ほどで立ち退くよう要求されました」

本当は住み続けたかったが、不動産業者から強引に立ち退きを求められ、住み慣れた我が家を離れた女性の家族。いまは別の地域に移り住み、穏やかな生活が戻ったと私たちに語りました。      
しかし、母親は新しい土地では近所づきあいがなくなり、孤独を感じ、今でも「前の家の時はこうだったね」とつぶやくといいます。

立ち退き拒む高齢の夫婦~男たちの執ような嫌がらせとは

さらに、自宅からの立ち退きを拒み、今も住み続けている高齢の夫婦からも話を聞くことができました。私たちは、家の周りの掃除をしていた女性に声をかけ、事情を説明すると、悲痛な胸の内を明かしてくれました。

夫婦      
「いつ誰がくるか、、、。いろいろ不安だから。ひどい集団だなと思って。やることなすことひどいんです。ストレスでお父さんも痩せたし、私も2、3キロ痩せちゃいました」

この夫婦はこの地に住んで60年以上。長く続いた穏やかな暮らしが一変したのは、土地が売却されてからここ数年。男たちは立ち退きを迫ってきましたが、夫婦は数年前、更新料を支払い2036年まで土地の契約を結んでいたため、立ち退きを拒みました。      
するとこれまでの3倍ほどの土地代を要求され、そこから夫婦への嫌がらせがエスカレートしていきました。

あの手この手の嫌がらせ~電飾、ゴミ、監視

では、その嫌がらせとはどんなものなのか。夫婦が部屋の窓を少し開けると、目の前に鉄骨の足場が現れました。足場には、クリスマスのイルミネーションなどに使われる電飾が至るところに取り付けられています。      
夫婦によると、1か月ほどにわたり、この電飾が隣の空き地に持ち込まれた発電機を使って明け方まで点灯されていたといいます。

以前住んでいた住民が立ち退き、不動産業者が買い取った隣の空き地には、ソファーやバーベキューのセット、そして映像を投射するプロジェクターまでもが置かれていました。夫婦によると、ここで若い男たちがタバコを吸ったり、酒を飲んだりしながら居座ったりするといいます。ゴミがそこかしこに放置され、虫がわき、ネズミの姿が頻繁に見られるようになったといいます。

さらに、夫婦を追い詰めたのは居座り続ける男たちの目でした。わざと聞こえるように、「きょうはカレーだな」と大きな声で話したり、自宅前の公園から住宅を4人でじっと見てきたりすることもあったといいます。夫婦は次第にずっと監視されているような感覚に陥り、外に出ることもためらうようになったといいます。

夫婦      
「私たちは何も悪いことをしていないのに、ずっと見張られている感じでした。威圧感があって、怖かったです。お風呂に入るのも気配を消すために電気を消して、窓を開けての料理もできませんでした」

夫婦のもとには、こうした嫌がらせの末、不動産業者から立ち退き料や代わりとなる住まいの話が持ち込まれたということです。私たちは夫婦に「今後、どうされるのですか」と尋ねると、こんな言葉が返ってきました。

夫婦      
「こんな嫌がらせをする人たちだから、どこまで信用していいか分からない。もう年取ってるから、移動はしたくないです。この地域で暮らしてきたコミュニティが崩れてしまったら、もう生きていけないと思います」

「俺たちの土地で何をしても関係ない」

すでに引っ越した女性、さらに高齢の夫婦の話を聞いて、大きな疑問がわいてきました。      
“こうした嫌がらせはなぜ取り締まることができないのか”と。      
実際に、夫婦はもちろん周辺住民も男たちの数々の嫌がらせについて、警察や行政に相談していました。これにより、警察官が巡回はしてくれるようになりましたが、嫌がらせを止めることまではできませんでした。男たちが決まって口にするのはこういうせりふだったといいます。

「自分たちの土地で何をしようが関係ない」

警察にもこの件で取材すると、「迷惑防止条例などが検討の対象となりうるが、自分の敷地でやっていることなので、ただちに取り締まることは難しい」ということでした。

嫌がらせのさなか 自ら命を絶った人も

取材を進めていくうちに、この現場ではさらに深刻な事態が起きていたことが分かりました。数々の嫌がらせが続く中、みずから命を絶った人がいることが分かったのです。      
今回、「母親の無念を伝えたい」と、遺族である息子が取材に応じてくれました。

亡くなったのは、この息子の母親で、さきほどの高齢夫婦と同様、立ち退きをせずにいた70代の女性でした。母親は、夫や親族とともにおよそ30年前にここに家を建てて暮らしてきたといいますが、土地が不動産業者に売却されたあと、暮らしが一変したといいます。

息子          
「母親はとても神経質でした。とてもじゃないけど耐えられなかったと思います。人に迷惑をかけるのをすごく嫌う人だったので、僕にも心配かけたくない、迷惑かけたくないと強がってこうした嫌がらせをうけながら、真剣に相談はしてこなかったのです」

嫌がらせは“家族の分断”をうんだ

終わりの見えない嫌がらせに、母親はこの家を出ていきたいと考えていたといいます。      
しかし、それは実現することはありませんでした。なぜならば同居する家族が同意しなかったからです。      
父親は、「嫌がらせは気にする必要はない。住む権利はこっちにある」という考えで、母親とは意見が異なっていたといいます。      
また、親族もここに住み続けたいという意向が強く、母親は孤立していたといいます。      
思い詰めた母親は、おととし6月、自宅でみずから命を絶ちました。夫が仕事に出て、自宅に1人でいた時のことでした。

母親が使っていた部屋には、息子の結婚式や孫たちの写真がきれいに飾られていました。孫を連れて行くと本当に喜んで、うれしそうにずっと笑っていた母親の姿を、忘れることができないといいます。

 

息子      
「外に積極的に出かけるタイプではありませんでしたが、孫とふれ合う時間はすごく楽しみにしていました。一緒に旅行に行くことさえ、実現することはできませんでした。もし住む場所を変えていたら、平穏な生活が送れていたかもしれません。      
不動産業者は、もし自分が住んでいる場所で嫌がらせを受けたらということを、全く分かっていないと思うんですよ。本当に実際住んでみろと、どれだけ苦しいか。お前たちはそういうことやっているんだぞということはすごく言いたいです」

地上げした土地にブランドマンションが・・・

都心の雑居ビルと、住宅街で進められている地上げ。      
さらに、取材を進めると、この不動産業者が地上げした土地を大手デベロッパーが購入した現場があることが分かりました。

そこは、首都圏のある場所。私たちが訪ねてみると、すでにあるブランドマンションの建設が始まっていました。      
周辺の住民に取材すると、ここでも執ような地上げが行われていたという証言を得ました。

近隣住民      
「出て行きたくないという意思が強かったと思いますよ。でも、それを強引にやったようなことは言っていました。もう疲れ切っていましたから。気の毒でした」

不動産業者、大手デベロッパーの見解は?

私たちは、この執ような地上げのさなかに繰り返されてきた不動産業者の悪質な嫌がらせを4か月あまりにわたって、取材し続けてきました。      
これら執ような地上げや嫌がらせは、果たして一部の従業員の独断で行われたものだったのか、それとも会社も把握していたものだったのか。これまでの取材で明らかになった事実を踏まえて、この会社に見解を問いました。

それに対する返答は以下の通りです。

不動産業者の回答      
Q:生の魚や肉をつり下げた行為については?      
「居住者がやったことではないか」      
Q:各地で執ような地上げをしていることについては?      
「権利交渉して最終的に建物を取り壊したりするので、荷物が残っているだけではないか」

また、この不動産業者から購入した土地にマンションを建てていた大手デベロッパーにもこうした事態をどう受け止めているのか、問いました。

大手デベロッパーの回答      
「個別の取り引きに関しては、コメントを控えさせていただきます。当社では、法令や企業倫理の順守などのコンプライアンスを重視しながら事業を推進してまいります」

令和の地上げ みなさんからの情報や体験を

私たちが取材してきた地上げ。なかには、時間をかけて、居住者と交渉し、正当な立ち退き料を支払って円満に解決している地上げがあることも分かっています。      
さらに、地主の高齢化や高額な相続税もあり、土地を手放したいというニーズそのものも高まるなか、地上げ自体は、そうした土地を有効に生かす手段なのかもしれません。

しかし、私たちの今回の取材でみえてきたのは、今の都心部で起きている空前の不動産高騰の陰で、明らかにいきすぎた地上げが行われている現状でした。そして、その陰で繰り返される嫌がらせに対して、どこにも助けを求めることができないでいる人たちが少なからずいるという実態でした。      
私たちは引き続きこの問題を取材していきます。みなさんからの情報や体験を、をこちらまでお寄せください。

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