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  • 2023年3月28日

学童保育 「待機児童ゼロ」でも場所も職員も足りない 保育の質は?

シリーズ保育現場のリアル
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東京23区の学童保育で受け皿が不足している深刻な実態について、先日お伝えしましたが、実はこうした“量”だけでなく、“質”の面でも大きな課題があることが、NHKのアンケート調査から見えてきました 。 
ある自治体の学童保育の職員は、“待機児童ゼロ”を達成しても、多くの施設で100人規模の保育が行われ、十分な保育環境が整備されないまま受け入れが進められていると指摘しています。

学童保育の“質”とは?早速、現場を取材することにしました。(首都圏局/記者 氏家寛子) 
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学童保育に密着

まずは、学童保育での仕事とはどういうものなのでしょうか。 
練馬区の石神井小学校にある、学童クラブの半日を取材させてもらいました。

わたしたちが取材に訪れたのは、午後1時。 
学童保育の職員の仕事は、子どもが学校から帰ってくる前に始まるからです。 
案内してくれたのは、所長の齊藤功気さん。 
午前中から出勤し、保護者へのおたよりづくりなど事務作業などを行うそうです。ほかの職員も次々と出勤し、おやつの準備などを進めていました。

午後2時 
職員が集まりミーティングが始まります。 
この学童クラブでは、2つのクラスに分けて担任を決めて運営しています。 
この日のクラスの出席児童は40人。 子どもどうしのささいなトラブルなど、細かい情報も共有していました。

午後2時半 
授業が終わった1年生が、「ただいま」と元気よくやってきます。ランドセルを置いた子どもたちがまず、取り組むのが宿題。自分たちで決めた時間まで取り組んだあと、自由遊びが始まります。校庭に遊びに出る子もいました。

齊藤さんは子どもたちから「さっこー」と呼ばれます。 
“さん”付けではなくあだ名で呼んでもらうのは、先生でも保護者でもない、第3の大人として身近に感じてもらうためだそうです。積極的に子どもたちの遊びの輪の中に入る姿も印象的でした。

離れたところから見守るだけではなく、遊びに大人もしっかりと関わることで、どんなことを考えているかがわかったり、小さな成長にも気づいたりすることができるそうです。

午後4時 
おやつの時間です。アレルギーの子どもへの慎重な対応が求められます。ほかの子どものお菓子とは別の場所に保管し、間違えがないよう2人の職員で確認していました。

午後5時前 
帰りの会です。利用する子どもの半分がこの時間に帰るそうです。 
子どもたちを前に始めたのは、ペットボトルを回すゲーム。まだまだ元気いっぱいの子どもたちですが、大きな声で呼び集めなくても自然と集まってきました。

このあと、この時間に帰る子どもたちを門の前まで見送りました。

齊藤さん 
「学童保育の生活は、学校と違った顔を見せられる場所です。勉強や運動が得意でなくても、けん玉や工作、お絵かきなどスポットライトがあたる機会がとても多いです。子どもたちの成長はとても目まぐるしく、その瞬間に立ち会えるのは、この仕事ならではとやりがいを感じています」

国の基準守るのは一部にとどまる

厚生労働省の「放課後児童クラブの設備運営基準」では、保育の質の向上のため、以下の2点を定めています。

○児童1人あたりおよそ1.65平方メートル以上の面積を確保すること 
○「支援の単位」といわれる1つのクラスあたりの人数をおおむね40人以下にすること

この基準は、地域の実情に応じて異なる内容を定めることができる、「※参酌すべき基準」という扱いになっています。

※参酌基準 
自治体が、国の法令を十分に参照した上で、判断しなければならない基準を指します。ただ、地域の実情に応じて異なる内容を定めることもできます。 
一方、国で一律に定めるものは「従うべき基準」とされ、自治体はこれに従う必要があります。

NHKは東京23区の自治体に、学童保育についてアンケート調査し、自治体が運営、または委託などする学童保育施設の中で、厚生労働省の基準を満たす施設がどのくらいあるかを尋ねました。

その結果、面積の基準については、16の自治体が「すべての施設で守っている」と回答しました。

一方、「支援の単位」の基準を満たしていると回答したのは、新宿区、江東区、練馬区の3つの区で、16の自治体は、基準を満たす施設が半数を下回ると回答しました。

面積と支援の単位、両方の基準をすべての施設が満たすと回答した自治体は、練馬区と江東区のみでした。 
※江戸川区は児童福祉法に基づく学童保育事業の実施はなく、区独自の取り組みとして行っているとして無回答。

ゆとりある保育 実現の裏で

国の基準のとおり、面積や支援の単位を守るためには、子どもを分散させるためのスペースや、人員の確保が不可欠です。

取材した学童保育がある練馬区では、児童館などで働いた経験を持つ職員を学童保育にコーディネータとして配置し、充実した運営ができるよう、助言しています。 

空き教室を利用できるよう学校側との調整を担うのも仕事のひとつです。 
ふだん授業で使う普通教室は個人の持ち物が多くあるため使えず、家庭科室や図書室、それに多目的室などの特別教室を利用して活動しますが、その調整は、手間がかかるといいます。

学童保育は、小学1年生が帰ってくる時間から始まりますが、その時間帯は、まだ高学年は授業の最中です。授業の兼ね合いの中で、部屋を確保しなくてはなりません。

学童保育への動線を示した図

学校の時間割とつきあわせながら場所を決め、学童保育を利用する子どもが移動する際に授業の妨げにならないよう高学年の教室の前を通らない動線も確認します。

練馬区には200人を超える待機児童がいますが、その解消のため新たな場所を確保し、必要な子どもが利用できるよう受け皿づくりを進めています。

練馬区子育て支援課 学童保育担当 安藤耕司さん 
「練馬区では面積の基準を守って定員を設定しているので、どうしてもそれ以上の子どもは受け入れられない。お待ちいただいている方は多くいるので、なんとか居場所づくりを進めていきたい」

“待機児童ゼロ”だけど 場所も人も足りず

一方、国の基準を満たせていない学童保育の現場はどのような状況なのか。 
23区のある自治体の学童保育の職員で、施設の所長の経験もある女性に話を聞きました。

女性の働く自治体では、“待機児童ゼロ”を達成していますが、多くの施設で100人規模の保育が行われているといい、女性は、十分な保育環境が整備されないまま受け入れが進められていると指摘します。

女性は、15年前に学童保育施設で働き始めたころは、受け入れ人数が少なかったため、子どもたちの性格、遊び、いろんな所に目配りができたと振り返りました。

しかし今は、どの子どもがどんな遊びしているかがほとんどわからないくらいに増え、『出席をとって子どもたち見送るまで安全に』という、管理の側面が強くなってしまっていると言います。場所も狭くてトラブルが起きやすくなり、なかなか遊びも充実できないことや職員の人数も足りていないので、苦慮していると現状を打ち明けてくれました。

さらに、学童保育の職員不足は深刻だといいます。女性の学童でも、常に欠員が出ていて、ある月の体制表を見せてもらうと、区内全体で15人の欠員が出ていました。

女性 
「子どもの遊ぶスペースとして学校内に別の空き教室を確保できてもそこに連れて行く職員がいないために、移動できないこともあります。“待機児童ゼロ”を掲げるなら、場所と職員の確保をしてほしい、これだけを本当に願っています」

専門家 “大規模学童に課題も”

こうした学童保育の現状や課題について、日本総研の池本美香上席主任研究員に話を聞きました。

日本総研 池本美香上席主任研究員 
「大規模集団での保育は、騒々しさによる音の問題や支援員との関係などを考えると課題があり、基準を守って集団の単位を絞っていく必要はあるかと思います。自分の担当がはっきりしていて困ったときに気軽に相談できることは、 安心感につながると思います。学童保育の利用率も上がっているなかで、ただ預かればいいというのではなく、放課後をどう保障していくか、子ども自身の意見も聞きながら検討していく必要があると思います」

学童保育の“質”を高めるために

練馬区の学童保育の取材で印象的だったことがあります。職員がつける日誌には、子どもたちのトラブルだけではなく、子どもたちのどんなところが良かったかについても“褒めポイント”として、あわせて記録していたことです。職員間で共有することで、みんなで褒められるようにするということです。

こうした子どもの気持ちに寄り添った“質”の高い保育をどの地域でも実践できれば、子どもたちの豊かな育ちにつながるのではないかと思いました。そのためには、職員の専門性が欠かせません。質の高い職員を確保するにはそれだけの処遇が必要ですが、実際にそうなっているのか引き続き取材したいと思います。

みなさんの子どもたちが通う学童保育や放課後の居場所はどんな状況でしょうか。 
また、学童保育の現場で働くみなさんの意見もぜひこちらよりお聞かせください。

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