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多世代シェアハウスに住んでみた! 結婚、子ども、家族の形って?

  • 2023年1月20日

あなたは何を考えて結婚し、子どもを持ちましたか?
または、どんな選択をしようとしていますか?

2022年9月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、「一生結婚するつもりはない」と考える人はこの30年でおよそ3倍に増え、「結婚したら子どもを持つべき」と考える人は、この数年で大幅に減少しています。
生き方が多様化する中で、もはや「当たり前」ではなくなってきている結婚や出産。
人生の選択に悩み、もやもやを抱えた20代後半のディレクター3人が、さまざまな価値観を持つ人が暮らす「多世代シェアハウス」に住み込んだり、通い続けたりして、結婚や子育てについて真剣に考えてみました。
そこで見えてきたのは、共に暮らし、さらけ出した生活の中で作られていく、さまざまな「家族の形」でした。
(首都圏情報ネタドリ! 取材班)

住んでみたのは 29組38人が暮らすシェアハウス

私たちディレクターが実際に住まわせてもらったのは、横浜市にあるシェアハウス。子どもがいる家族連れからカップル、単身者など、1歳から50代まで29組38人が暮らしています。10年前、オーナーの男性が大勢の中で子育てをしたいと考えたことがきっかけで、多世代で暮らす今の形になりました。

共有スペースのキッチン

かつて社員寮だった3階建てのアパートをリノベーションした建物には、個室が29部屋。洗面所やキッチン、リビングは共有しています。食事、仕事、遊び、さまざまな目的で利用する人が集い、それぞれの生活が少しずつ交差しながらの暮らしです。
私たちは、2か月間ここに通い、時には住み込み一緒に時間を過ごす中で、住人のリアルな暮らしぶりや、日常生活での空気感などを感じ取っていきました。

悩めるアラサーディレクターの私たち

私たちディレクター3人は、みんな20代後半。それぞれが、仕事にプライベートにいろいろなもやもやを抱え、特に「結婚」「出産」「子育て」という人生の大きな選択に悩む中、この多世代シェアハウスでの住み込み取材を試みました。

堀江ディレクター


ディレクターになって7年。現在既婚、子無しの29歳、堀江凱生です。
3人兄弟の末っ子で、中学生の頃から自分の家族を持つことに憧れ、いつか子どもは欲しいなあと考えています。でも、いまのご時世子どもを産んで育てるのはなかなかハードルが高そう…。どうすれば安心して子どもを持ち、育てることができるのか?いろんな考えを聞きたいと思いました。

高瀬ディレクター


28歳独身の高瀬杏です。パートナーとつきあって2年半、今後の暮らしについても考える機会が増えました。名字を同じにしなくてはならない結婚には違和感があるし、子どもはかわいいと思うけど仕事との両立を考えると不安は少なくありません。まだ独身だからこそいろんな選択の可能性を知りたいと思い、取材をはじめました。

實ディレクター


3年前に結婚、2歳の息子がいる28歳の實絢子です。今回、子育て&2人目を妊娠中だったので、私は住み込みではなく通いながらの取材となりました。
このシェアハウスで暮らす中で、「家族」に対する考えが変わったという若者が多いと聞き、私も自分の中にある「家族ってこうあるべき」を少し変えてみたいと取材を始めました。

「結婚」「子ども」へのこだわりがなくなったカップル

なおさん(左)とこうじさん(右)

つきあって5年になる30代のカップル、なおさんとこうじさんです。このシェアハウスで一緒に暮らして4年になります。
結婚はしておらず子どももいません。20代の頃は結婚して出産したいと思っていたなおさんですが、シェアハウスで過ごす中で考えが変わったといいます。

なおさん
「結婚というものの憧れがいい意味でなくなったかな。20代の頃は結婚したかった。自分に自信がなかったから、制度というよりは承認欲求として。

でも、シェアハウスにいると、2人だけで過ごしているんじゃなくて、暮らしの中に他者の目があって、自然と2人でいることを認めてくれる。やっぱりいろんな人が認めてくれるっていうのが私も欲しかったんだなと思って。

そこが満たされたから、例えば結婚式を挙げて祝われなくても、私たちが幸せだったら外にそれを見てもらわなくても大丈夫というのが私の中の一番大きな変化。2人の関係は2人がわかっていれば大丈夫なんだなと」

一方のこうじさんは、子どもを持つことに消極的でした。シェアハウスで育っていく子どもたちや親たちと一緒に時を過ごすことで、自分の考えが少しずつ変わっていったといいます。

こうじさん
「自分の子ども時代があまり幸せじゃなかったから、自分がもし親になったときにその子を幸せにできる自信がない感覚でした。
でも、ここにいる子どもを見ていると、ちゃんと育っていくんだなということを実感した。
大勢で暮らしているので、なんとかなっちゃうんじゃないかなって。ここだったら育つんじゃないかなと思うようになってきている。

例えば子どもが熱を出したら先輩お母さんが手助けしたり、アドバイスしたりしていて。夫婦間だけで育てるのは難しいかもしれなくても、それは社会全体で支えていけたらいいよねという点もあるし、この環境はそれに近いのかもしれない。だから最近は、もし子どもができた時も何とかなるだろう、みたいに思う」

ひとつ屋根の下で暮らして見えたリアルな子育て

シェアハウスにはかつて住んでいた人が訪れることもあります。
この日訪れたのは、藤巻慎さん(32)。独身時代にシェアハウスで暮らしていました。
藤巻さんは、2年前に結婚し、去年第一子が生まれました。妻が仕事で、自分がワンオペになるときに7か月になる娘と遊びに来ています。
もともと、子どものいる家庭を持ちたいと思っていた藤巻さん。子どものいるシェアハウスで過ごした経験は今の子育てにも生かせていると話してくれました。

藤巻慎さん
「シェアハウスの住人の親が、子どもにどういう話しかけをしているか、ふだんどう子どもに接しているのかっていうのを暮らしの中で間近に見るからすごい勉強になった。やっぱり他人の家庭は閉鎖されているものだから。

僕たちはうまくいかなかったけど向こうはうまくやってるというところを見て、そういう工夫のしかたあるのね、みたいにお互い学びにもなって。お互いの子育ての英知を見て、それを交換してる感じがして」

藤巻さんは、共働きで子どもを育てる中で、いかに“ふたりだけで”子育てしないか、それが今の自分にとってもとても大切だと話します。

藤巻慎さん

仕事をしっかりやるのはいいけど、“子育てのアウトソース”をどこまで許容するかみたいなことも結構重要かなと思ってて。家事と子育てをどれだけアウトソースするか…。僕は、子育てとか料理とかもするタイプだから、奥さんが苦しい時に、僕になってくるんだけど、僕はアウトソースをちょっとしたいなと思っても、夫婦で結構そこのすり合わせは難しいこともありますね。

堀江ディレクター

奥さんはアウトソースしたくないと?
それはどこらへんまでしたくない感じなんですか?

 

特に子どものベビーシッターとかは、第三者が入るからね。だからある意味、シェアハウスとかの方がいいかなっていう。「シェアメイトの友達とかがちょっと見てくれるのはどう?」とか聞くと、「それはいい」って言ってます。

それに、子育てに対して「つらい」とか「夜泣き本当に大変…」とかは、意外と友達には相談しにくい。ちょっと親として失格なんじゃないか、みたいな部分もあるから。だから、シェアハウスのような暮らしで、さらけ出せる人がいるというのは重要なことかなと。

“家族の暮らしは問題だらけでもいい”

大みそかには、かつてシェアハウスに住んでいた福岡さん一家が遊びに来ました。妻・梓さんと夫・達也さんはここで出会い結婚。5年間暮らす中で、出産・子育ても経験しました。
ここで過ごした時間は、今の家族観に大きな影響を与えているといいます。

福岡達也さん
「ここのベースは、どんな人も受け入れたい、っていう感じ。みんな違うし、みんな違って問題だらけなことを楽しいと感じて、それが、生きてるって感じしない?みたいな雰囲気で。僕なんかもすごい欠けた人間だなという感覚があって。
ここに来た時に、料理もできなければ、みんなで集まった時に一芸みたいにすることもないし。でも、欠けていることで、誰かが手助けしてくれて、それをすごい楽しいなって思えたんです。

いまの家族の暮らしは、決して全部がうまくいってるわけじゃないですけど、問題だらけでもいい、そうやって暮らすのも幸せだと思ってやっていく。ここで暮らした日々が、そんな自分の家族観に影響を与えています」

福岡梓さん
「何か問題が起きると、この人はいい、この人は悪いって結構決めがちになることがあると思うのですが、そういうことじゃなくて。ちゃんとその人の話をよく聞いて、認め合う、それが大切なんだなということをこのシェアハウスで感じました。

いっぱい家族がいて、いっぱい夫婦がいて、みんなけんかのしかたが違うこともすごく勉強になった。隣の芝生は青いんじゃなくて、いろいろあるんだなと思って、お互い励まし合って、生きていくのがいいなあと思って」

福岡さん一家は、3年前、子どもが1歳半になったときにもっと自然に囲まれた土地で暮らしてみたいと千葉県の鴨川に家族3人で引っ越しました。いまも年に6回は遊びに来ていて、「第二の実家」と呼んでいます。シェアハウスの住人も年に3、4回は鴨川を訪ねるなど、シェアハウスを出てからも交流は続いています。

福岡達也さん
「部屋はないけど、居場所だよね。自分のルーツはどこかって考えると、ここから始まっているって感じがすごくするので。そういう意味でも、ここに確認しにくる感じもあります」

福岡梓さん
「人に迷惑をかけないことがいいことじゃなくて、かけ合える人間関係をどうやって構築するか、それがすごい大切だなあと思っています。人は絶対に完璧じゃないし、助け合って生きてるから。だから、困った時に助け合える、血縁じゃなくてもね」

シェアハウスで感じた「結婚」「家族」「子ども」

堀江ディレクター
住人として生活しながら取材を進める中、私、堀江自身もさまざまな発見をし、自分の中での家族や子どもに対する価値観が変わっていきました。
例えば子ども。目を合わせれば最初逃げ出していた1歳半の男の子が、だんだん自分に慣れてくれて、目を合わせれば笑ってくれる。「あーうー」と言っていたのが、1か月でさまざまな言葉を覚え「どーじょ」と自分にお菓子をくれたりする。どちらかというと子育ての大変さをSNS上で目にしてネガティブになっていましたが、これまで知らなかった子どもを近くで見て、育っていくことの喜びを感じることができました。
そして、働き方が多様化する時代、暮らし方や子育てのしかたも多様にあって、よりよい形を模索することができる。その過程には失敗もあるかもしれないけど楽しさもある。そう感じられた時間でした。

實ディレクター
私は、シェアハウスに住む皆さんの暮らしや、たどってきた道のりについて知る過程で、自分がとらわれていた「家族のあるべき像」が少しずつ「緩んだ」ように感じています。取材を通して気持ちが救われることが何度もあり、自分にも、こうした、「家族が開かれた場所」が必要なのだと思いました。
先日、第2子を出産。落ち着いたらまたシェアハウスに子どもたちと遊びにいきたいと思います。夫婦だけで子育てをこなすのではなく、家族を開いていくことを意識して暮らしていきたいと思います。

高瀬ディレクター
私が、今回の経験を通して一番実感したのは、結婚も家族も「暮らし」の延長にあるものだということでした。暮らしはいつでも問題だらけです。常に全員が心の底からいいと思える瞬間であり続けることは難しいし、全員が同等に幸せを感じているわけでもないという大前提を改めて感じました。
結婚をするかどうか。子どものいる家族を築きたいのかどうか。あまりに大きな「問い」への決断を迫られているような感じがしていましたが、その先にある「暮らし」を見たことで、抽象的な概念ではない生活と地続きの選択だと感じました。

今回はシェアハウスで「結婚」や「家族」について話を聞き考えましたが、シェアハウスで暮らせば、全員のすべての問題が解決するわけではなく、シェアハウスにはシェアハウスだからこそ抱える問題もあるのだなと思ったのが率直な感想です。そして、それはどこで暮らしてもきっと一緒なのだろうと。
だからこそ、すべての問題をきれいに解決しようとしない「暮らす英知」に触れたことは、これから誰かと暮らしていくかもしれない自分にとって肩の荷が下りるような、逆に背筋が伸びるような、大きな学びになりました。自分の中の答えは出ませんが、「問い」に向き合うことが、少しだけ楽しみになったような気がします。

  • 堀江凱生

    首都圏局 ディレクター

    堀江凱生

    神奈川県鎌倉市出身。2016年入局。仙台局を経て2021年から首都圏局。山登りとゲームが趣味。

  • 高瀬杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

  • 實絢子

    首都圏局 ディレクター

    實絢子

    神奈川県鎌倉市出身。2017年入局。福井局初任。ことし第2子を出産。

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