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ヤングケアラー支援 東京・埼玉の取り組み事例“気づき支え続ける”

  • 2022年11月21日

家族の介護や世話を日常的に担うヤングケアラー。国は今年3月、ヤングケアラー支援に関するマニュアルを策定し、各地で取り組みが始まっています。ヤングケアラーの存在に気づくために、区立中学の生徒全員に個別面接を始めた東京都江戸川区。子どもだけでなく家族とも信頼関係を築き、子どもが人生の岐路に立ったときに支えようとする埼玉県の団体など、支援の最前線を取材しました。
(全2回のうち2回目/第1回を読む
(さいたま放送局/記者 二宮舞子、首都圏局/記者 桑原阿希・ディレクター 岩井信行)

支援のポイントは「気づく」「つなぐ」「支える」

前回の記事では、ヤングケアラーの人たちが「進路選択の際に、自分が家からいなくなっていいのか」と悩んでいる実態を紹介しました。

子どもたちに厳しい選択を迫らせないためにはどうしたらいいのでしょうか。国が策定したマニュアルでは、支援を「気づく」「つなぐ」「支える」の3つの段階に分けて考えることが重要だとしています。

まずはヤングケアラーの存在に「気づく」。これを担うのは、大勢の子どもと接する学校などです。
そして適切な支援先に「つなぐ」のは、学校に出入りしているスクールソーシャルワーカーなど。
さらに、実際に「支える」を担うのは、民間団体や行政などです。

いち早く「気づく」ために 公立中学で全員面接

東京・江戸川区では、ヤングケアラーの存在に「気づく」ために、今年9月から区立中学校の全生徒、約1万5000人に個別面接を始めました。東京23区で初めての取り組みです。

取材に訪れた中学校では、教員が生徒と1対1で向き合い、家族関係や家事の負担などを聞き取っていました。

教員

困ったときに家族にも相談する?

女子生徒

きょうだいに相談します。お互いにいろいろ話しています。

家の中の仕事はみんなで分担しているの?

男子生徒

たまに自分がご飯作ったり、お兄ちゃんたちが掃除したりしています。

面接で聞き取った生徒の情報は、教員などの間で共有します。なかには、きょうだいの世話に加えて日常的に食事や掃除なども担い、負担を感じていると訴えた生徒もいました。

教員

家事をやっていて、午後11時くらいに寝るということで、自分の時間はとれないと言っていました。

こうした取り組みを通じて、この中学校ではヤングケアラーの可能性がある生徒が複数いることが分かりました。

区立中学校 校長
「家庭の事情に私たちが足を踏み込むのは難しいと思っていました。今回、ヤングケアラーに特化して面接を行い、ヤングケアラーの可能性がある生徒がいることに気づけたのは、非常に大きな成果だと感じています」

支援に「つなぐ」ため奔走するスクールソーシャルワーカー

ヤングケアラーの存在に気づいたあとに必要となるのが、支援を行う適切な機関に「つなぐ」こと。それを担うのが、学校現場と支援先の橋渡しをする、スクールソーシャルワーカーです。

スクールソーシャルワーカー(都立高校などではユースソーシャルワーカーと呼称)は、ヤングケアラーの可能性のある生徒と直接面談。家族の介護や看病など、学校だけでは対応が難しいケースについて、行政や児童相談所、NPOなど適切な支援につなげます。

ユースソーシャルワーカー(左・中央)と生徒(右)

この日、話を聞いたのは、近い将来、祖父母の介護を担うことに不安を抱える生徒です。

女子生徒

おばあちゃんと、おじいちゃんの分のごはんの準備や介護が、私に回ってくるかもしれないと言われている。

ユースソーシャルワーカー

食事の準備は、いろんなサービスがあるから、必ずしも負担を1人で背負わなくていいよ。部活をやるのも今から諦めないでね。

負担が大きくなった場合、ヘルパーの派遣など、介護サービスが利用できることを伝えました。今後も悩みを聞き、希望があれば支援機関につなぎたいと考えています。

継続的に「支える」ため 家族とも信頼関係築く

支援につながったあと、継続的に「支える」ためにカギとなるのが、家族へのアプローチです。

経済的に苦しい家庭の子どもの学習や生活支援を行っている、埼玉県の彩の国子ども・若者支援ネットワーク(通称:アスポート)の黒田真さんです。この日は、通信制の高校に通うかなこさん(仮名)の家庭を訪れました。

黒田さんとかなこさん

かなこさんは両親ときょうだいのあわせて7人暮らし。病気の母親の体調が優れないときに、週3回ほど料理や掃除などを担っています。

かなこさんには、家事が負担だという認識はありませんが、黒田さんの団体では継続的なサポートが必要だと考えています。勉強だけでなく、日々の生活の相談や悩みにも耳を傾けます。

黒田さん

朝方のバイトがやりたいの?

かなこさん

うん。

 

履歴書は書いたことある?

 

ないです。

 

一緒に書いてみようか。

黒田さんは、かなこさんの母親の体調も気にかけます。家族とも信頼関係を築くことで、子どもが人生の岐路に立ったときに支えようとしているのです。

黒田さんとかなこさんの母親

母親

日ごろの状況を知ってくれている人に相談できるのは、心強いです。

彩の国子ども・若者支援ネットワーク(通称:アスポート) 黒田真さん
「本人を見るということは、お母さんやお父さん、世帯を見ることにつながる場面が多くあります。節目、節目で相談に乗ってもらえるような関係性を構築、継続していく必要があると考えています」

子どもたちが自己決定できるように 社会に求められること

ヤングケアラーの支援には、どのような視点が重要になってくるのでしょうか。スクールソーシャルワーカーとしてヤングケアラーを多く支援してきた、聖徳大学准教授の横井葉子さんに聞きました。

聖徳大学准教授 横井葉子さん
「『家族の世話は家族がやるのが当たり前』という文化は、子どもの自己決定を妨げることになります。それは変えていかなければなりません。
子どもが『家族か自分か』という二者択一に引き裂かれるような状況ではなく、第3の道、子どもの自己決定を一緒に探る大人を増やす必要があります。子どもが高校を卒業するタイミングだけでなく、中学校など早めの段階から進路に関して大人が関わって考える、助走期間があるといいですね。人生の節目節目でケアの体制を組み立て直して、最終的には子どもが自分で将来を決められるように支援をしていくことが重要だと思います」

さまざまな機関が連携してヤングケアラーを支えようという取り組みは、まだ始まったばかりです。見えてきた課題を解決しながら、今後、支援を各地で根づかせていくことが求められています。

前回の記事ヤングケアラーの葛藤「家族か自分の人生か」迫られる選択』を読む

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 二宮舞子

    さいたま放送局 記者

    二宮舞子

    2017年入局。愛媛県出身。盛岡局で東日本大震災からの復興や障害者支援などを取材。ことし8月からさいたま局に赴任し県政や福祉を担当。

  • 桑原阿希

    首都圏局 記者

    桑原阿希

    富山局を経て、2020年から首都圏局。 福祉や子どもの問題を取材。

  • 岩井信行

    首都圏局 ディレクター

    岩井信行

    2012年入局。さいたま局などを経て2021年から首都圏局。子どもの貧困や社会的養護、ヤングケアラーなど、家族に関わるテーマで取材を続ける。

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