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食品ロス減らす秘策は“盛り方”とアプリ ホテルビュッフェの挑戦

  • 2022年9月22日

「余ったものは全部捨てていました」
こう打ち明けるのは、好きなものを好きなだけ食べられるのが魅力のホテルビュッフェを支えてきた調理長の男性です。その食品ロスをなんとか減らそうと調理長たちが考えたのが、盛り方の工夫とアプリを通じた食品の販売。ホテルならではのおいしさと安全を確保しながら「もったいない」をなくすアイデアです。
(映像センター/菅原紀子、河南良太)

余った料理は全部捨てていた!

朝6時。都内にあるこのホテルでは、宿泊客などに提供する朝食の準備が行われていました。ここで提供される朝食はビュッフェ形式。ご飯や味噌汁、パンなどだけでなく、ハンバーグや鶏料理など手の込んだ料理も、次から次へと並べられていきます。

このホテルでは、朝食で提供した料理が余った場合、衛生面などを考えてすべて廃棄していました。

どの時間に来たお客さんでも楽しんでもらえるよう、料理の量や種類を、多めに用意していることから、作った量のおよそ5割もの料理を廃棄処分とせざるを得ない日もありました。調理長の元小出満さんはその苦しい胸の内を、こう語っていました。

元小出調理長
「まだ十分に食べられる食材なんですけど、役目が終わったというだけで捨てる。心を込めて作った料理を、自分たちで捨てるというのは、つらいです。廃棄する量が多いことで、スタッフのモチベーション低下にもつながっていました」

食品ロスをなくせ!秘策(1)小皿盛り

料理の並んだテーブルを見渡すと、ビュッフェならではの大皿料理が、サラダやフルーツなど、なま物を中心に見当たりません。その理由を元小出さんに尋ねてみたところ、この盛り付けこそが食品ロス対策なのだといいます。

元小出調理長
「大きくきれいにみせることはビュッフェの魅力なのですが、1人前ずつ盛ることで食品ロスが減るというのが理由です。もしも大きいお皿で盛ると最後まで、同じ量をお客様に見せなければならないので、食品ロスが増えてしまいます。お客様の人数や時間に合わせて個別に盛ったり、器を小さめにしたりするなどして、食品ロス対策に取り組んでいます」

利用する人にもお話を伺ったところ「ビュッフェはついつい取り過ぎてしまうが、小皿盛りなら食べ残す心配がなくてうれしい」と、小分けにする方法を歓迎する声が聞かれました。

食品ロスをなくせ!秘策(2)アプリの活用

料理の質は決して落とさない、と決意する一方で、食品ロス対策も一層強化したい。

そんな思いから、ホテルではことし7月から、食品ロス削減対策アプリの活用を始めました。これは飲食店などが店で発生してしまった食品ロスを、このアプリを通じて販売できるようになっていて、現在およそ53万人が登録しています。さまざまなものを割安で買えるだけでなく、気軽に参加できる環境問題への取り組みとして人気を集めています。

ホテルではビュッフェで余ってしまった料理をお弁当やパンの詰め合わせにし、お弁当は600円、パンの詰め合わせは500円で販売することにしました。

この日、朝食の営業が終わった午前10時には、弁当2個分とパンの詰め合わせ2箱分になるぐらいの料理が余っていました。手は付けられていないとはいえ、一度は並べられた料理であることから、そのまま販売することはできません。食中毒などを防ぐために保健所と相談して独自のルールを作りました。料理の中心温度が90度になるよう、90秒の再加熱を行ってから提供しています。

ごはんに魚、肉、野菜がぎっしりと詰まったお弁当。この日は出品からわずか15分ほどで売り切れとなりました。

買いに来た
女性客

子どもが生まれてから、地球のことや環境のことを考えるようになりました。できるだけ子どもたちにとって住みやすい地球であったらいいなと思っています。これはお得だし、食品ロス対策でCO2の削減にもなるということで、利用しました。

ホテルではこの取り組みによって、これまで廃棄していた量を1~2割減らすことができました。しかし、再加熱のできない食品は衛生面での管理が難しく廃棄せざるを得ないことなど、課題はまだ残っています。今後も蒸したり炒めたりといった調理の工夫をするほか、客に安心して提供できる仕組みを考えるなど、模索を続けています。

食品ロス対策は国も後押し

これまでの取り組みを経て、国内全体で廃棄される食品の量は年々減少傾向にありますが、国は2030年までに2000年度比で半減させることを目指しています。2020年度の食品ロス発生量は522万トンと、過去最低を記録しましたが、目指すところまではさらに30万トンの削減が必要です。

そんな中、環境省は飲食店などで「食べ切れなかった料理は持ち帰る」という意識の普及と啓発を図るため、mottECO(もってこ)と呼ばれる取り組みを後押ししています。

この取り組みに参加する企業の1つ、大手レストランチェーンです。メニュー表にも、mottECOを案内する記載がありました。

この取り組みは現在、全国各地で飲食店やホテルなどを経営している複数の社が一体となり、希望者に専用の持ち帰り容器を用意しています。

私も持ち帰ってみた

私もmottECOを利用してみることにしました。

店員に依頼すると、持ち帰るための箱と一緒に、注意点が書かれたチラシを渡されました。
箱は小ぶりで、厚紙で出来たシンプルな作り。チラシには▼早めに食べること ▼再加熱してから食べること などの注意が書いてありました。

大手外食チェーン 水野多孝哉さん
「実際の声として、残すことなく持ち帰れて、嬉しいという声を頂戴しております。一方で実際にお客様自身が安全に問題なく取り扱えているか、という事に対して確認がとれないところが現状の課題です」

「食品ロス」はみんなで削減できる

今回の取材では、外食業界で働く皆さんの「食品ロスを減らしたい」という強い思いが印象的でした。
おいしい料理が私たちの元に届くまで、食材の生産者、それらを運ぶ人、料理を作る人など多くの人たちが関わっています。私たち、ひとりひとりの意識が少し変わるだけでも、食品ロスを大きく減らすことにつながることを、お店でも自宅でも、忘れずにいようと改めて思いました。

  • 河南良太

    報道局 映像センター カメラパーソン

    河南良太

    2015年キャリア入局。宮崎局、姫路支局、神戸局を経て2021年から報道局。 昨年娘が生まれ、環境への意識が高まっています!

  • 菅原紀子

    報道局 映像センター カメラパーソン

    菅原紀子

    2013年入局。大阪局、神戸局を経て2019年から報道局。どこへ行くにもマイボトル持参!

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