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痴漢被害を目撃したら…傍観しないためにできることは?

#本気で痴漢なくすプロジェクトNO.7
  • 2022年5月16日

エスカレーターに乗っているときに盗撮を目撃したら。
痴漢の被害に遭っている人がいたら。
その場に居合わせたとき、傍観者にならずに、私たちにできることは何かを考えます。
(首都圏局/記者 岡部咲)

痴漢・盗撮被害に遭った、または目撃したことはありますか?
あなたの体験やご意見をこちらの 投稿フォーム にお寄せください

“自分に何ができるのだろうか”

NHKではことし3月から「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として、痴漢被害の実態や対策を取材しています。そのなかで目にとまった動画がありました。

シオリーヌYouTubeチャンネル「#ActiveBystander=行動する傍観者」

その動画のタイトルは「#ActiveBystander=行動する傍観者」。
アクティブバイスタンダーとは、周囲の人が何かしらの行動を起こすことで、性暴力の防止や被害者の助けになるという考え方です。
およそ2分間の動画では、前半に盗撮や通りすがりの痴漢などの性被害を目の当たりしますが、行動を起こすことができない第三者の視線。そして後半には、被害者への声かけなどをする“アクティブバイスタンダー”としての行動がまとめられています。
例えば…。

 

ケース1.【盗撮】

シオリーヌYouTubeチャンネル「#ActiveBystander=行動する傍観者」

エスカレーターに乗っている目の前で盗撮被害を目撃した男性。そのまま視線をそらしてしまいます。

ケース2.【痴漢被害】

シオリーヌYouTubeチャンネル「#ActiveBystander=行動する傍観者」

自転車に乗った人が通りすがりに女性の胸を触る様子を目撃した男性。そのまま女性の横を通り過ぎます。

そして、動画では「そのそらした視線が、性暴力をしやすい社会をつくっています」というコメントが流れます。
この動画の制作に関わったのは、助産師でユーチューバ-のシオリーヌさんです。シオリーヌさんは動画を通して、性教育の推進、そして性暴力をなくすための活動に取り組んでいます。

“傍観者にならないために…”

今回の動画は、痴漢などの性暴力をなくすために、周りにいる人にも意識を変えてもらおうと考えました。
シオリーヌさんは、これまでの性暴力を予防したいと考えた時に“夜遅くに1人で歩かないようにしましょう”とか、“夜道でイヤホンを外しましょう”などといった「自衛」を求める啓発動画が多いことに違和感がありました。身近な友人や制作スタッフから意見を募り、どういう行動だったら自分ならできそうかなど、ひとりひとりのアイデアを持ち寄って作り上げました。

シオリーヌさん
「今は傍観者になっている方々に何かひとつ訴えかけるような、性暴力がしにくい世の中をつくっていきましょうっていうような。そういう映像を作ってみたいなという思いがあって。少しでも取り入れられそうかなって思ってもらえるような選択肢を示したいっていう思いはありました」

動画では、どのような声かけや行動ができるのか、具体的に示しています。

ケース1盗撮に対しての具体例

シオリーヌYouTubeチャンネル「#ActiveBystander=行動する傍観者」

冒頭に紹介した盗撮のケースでは、後ろから近づいて存在感を出すことで盗撮をやめさせる。

ケース2痴漢に対しての具体例

シオリーヌYouTubeチャンネル「#ActiveBystander=行動する傍観者」

胸を触られて立ち尽くす女性に「僕見ていましたよ。警察行きますか」と声をかける。

シオリーヌさんは“寄り添ってくれる人がいて一緒に声を上げてくれる人がいると思うと、その後の回復の過程は大きく変わってくるんじゃないのか”と感じ、その思いを動画に込めたのです。

動画の最後、主人公の男性はカメラ目線でこう問いかけます。
「あなただったら、どうしますか?」

公開された動画はネット上で250万回以上再生され、大きな反響を呼びました。
「こういう経験したことある」という共感の声が届き、「寄り添ってくれる人がいたらもっと救われた」や「これぐらいだったら自分にもできるかもしれないから、自分もアクティブバイスタンダーになろうかな」などといったコメントが多く寄せられたといいます。

最後に、シオリーヌさんに“もしそれでも戸惑ってしまう”という人がいたらどう呼びかけますか?と尋ねました。

シオリーヌさん
「もし気がついたときに、何かすぐにアクションを起こすって、二の足を踏んでしまう気持ちもわかりますし、自分に何ができるだろうって戸惑う気持ちにもとても共感するんですが、でも本当にそのときにたったひと言、知り合いのふりをして声をかけてみるとか、ちょっとの行動で目の前の人の人生が救われるってことって本当にあると思います。電車などで『痴漢に遭いました、誰か助けてください』って声をあげている方をもし見かけたら、自分に何ができるかって悩むと思うんですけど、まず助けを求める声に応じるということだけでも、ぜひしていただきたい。そこで目をそらしていなくならないでほしいことだけはお願いしたいです」

犯行を抑止するために必要なことは

警察庁で性暴力の被害者支援などに取り組み、現在、慶應大学に出向している小笠原和美さんは、加害者にとって“誰かに見つかるのでは”と注意が働き犯行がしにくくなる環境が大事だと指摘します。

小笠原教授によると、日常活動理論(ルーティンアクティビティセオリー)」という犯罪理論によれば、「加害者×ターゲット(潜在的被害者・物)×有効な監視者(制止者)の不存在」の3つがそろう時に犯行は起こりやすくなるということです。

この理論を満員電車で考えてみます。
「加害者×ターゲット」がすでに存在しているという前提で、「監視者(制止者)」を存在させることでしか、抑止できないのだそうです。
ただし、実際に存在していることまでは必要なく、「監視者(制止者)がいる」と加害者に認識させれば良く、「いつ、誰に制止されるか分からないおそれ」を認識させることが、抑止に効果的なのではないかということです。

慶應大学 小笠原和美教授
「第3者の介入や被害者が声を上げやすい環境を整えて、『やったら確実にバレる、捕まる』という状況を作り出していくことが、少なくとも"電車内痴漢をなくす"という課題の解決に直結するものだと考えます。それでも、隙あらばやってやろうと考える、『痴漢』そのものをなくせるわけではありませんが、やりづらい環境を作ることが、犯行を抑止し、社会をより安全なものにするために必要な取り組みだと思います」

今後も「#本気で痴漢なくすプロジェクト」として痴漢についての取材を継続していきます。
痴漢被害に関するご意見をこちらの投稿フォームにお寄せください。

  • 岡部 咲

    首都圏局 記者

    岡部 咲

    2011年入局。宮崎局、宇都宮局を経て、現在は教育などを担当。

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