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公立中学で入学時13万円出費も! 教育費見直す学校や家庭の最前線

  • 2022年4月22日

制服、体操着、副教材費…。春の入学シーズン、入学金や授業料以外にかかる費用の大きさに頭を抱えたご家庭は多いのではないでしょうか。中には入学時の出費が13万円以上になったという人も。コロナ禍で収入が減少し、より負担が重いと感じている保護者も少なくないといいます。いま、教育現場ではこれまで当たり前とされてきた費用を見直し、家庭の負担を減らそうという動きが始まっています。
(首都圏局/ディレクター 高瀬杏・堀江凱生・有賀実知)

こんなにかかるの? 授業料以外の教育費

埼玉県在住のAさんです。この春、長女が中学校に入学しました。

長女が通うのは公立中学校。義務教育のため授業料はなく、入学金もありません。
それでも13万円以上が必要だと知り、驚いたといいます。
その内訳は…

【学校指定用品】 
・制服上下 4万3,780円 
・夏用スカート 1万1,100円
・体操着 長袖長ズボン上下 7,400円×2着
・体育着 半袖半ズボン上下 4,920円×2着
・背負い鞄 7,750円
・スポーツバッグ 5,300円
・ウインドブレーカー 1万2,900円
・通学用の運動靴 4,180円
・上履き 3,050円
・名札 210円

【その他 購入が必要なもの】
・長袖Yシャツ 2,970円×2枚
・半袖Yシャツ 2,860円×2枚
・靴下(3足) 1,000円
・レインコート  7,600円

合計 13万3170円

Aさん

10万円くらいはかかるかなと思っていたんですが、予想以上に高かったですね…

Aさんの家は夫婦共働き。絶対に払えない額ではないといいます。しかし、調べてみると、それ以外にも、「給食費」や教材などの購入のために徴収される「学年費」が年間で12万円余かかるほか、通学のための自転車購入や部活にかかる費用など、さまざまな出費があることが分かりました。

Aさんは節約のため、制服のブレザーとスカートは制服リユース店で購入。新品より2万3,000円近く安く買うことができました。リユース店によると、Aさんのような家庭は近年、急速に増えているといいます。

制服リユース店に訪れた人

Aさん

新品を買うことも考えていましたが、娘が塾に行きたいと希望していて、部活動にもお金がかかるので、抑えられるところは抑えようと、リユース店で購入しました。本人がやりたいことはなるべくやらせてあげたいし、下にきょうだいもいて、今後のために貯金もしておきたいので。

コロナ禍で負担感が増している?

文部科学省の「子供の学習費調査」によると、2010年から2018年までの間に、学校での学習のために家庭が負担する費用(学校教育費と給食費)は小学校で約5万9000円、中学校で約4万7000円、高校では約13万5000円増加しています。

内訳を見てみると、ランドセルなどの「通学用品費」や、クラスで使う紙やマジックなどの購入などに使われる「学級費」、「給食費」などの項目で増加していることが分かります。

その一方で、ことし3月に発表された民間の生命保険会社による調査では、大学生以下の子どもがいる20歳以上の男女1,000人のうちコロナ禍の影響で「家計が悪化した」と答えた人は65.3%、「教育資金に対する不安が増した」と答えた人は70.8%。
コロナ禍によって家庭の教育費に対する負担感がさらに高まっているとみられています。

この負担ホントに必要? 始まった見直しの動き

こうした中、教育現場では家庭に求める教育費の見直しが始まっています。
その1つ、7年前から見直しを始めた、埼玉県の川口市立小谷場中学校では…。

1)校内用の靴を1種類に
2年前まで、校内で履く靴は上履き(1,900円程)と体育館シューズ(2,600円程)の2種類ありました。保護者から「2種類ある必要はないのではないか」との声が上がり、検討の結果、衛生面や機能面に問題はないということで、体育館シューズに統一。

廃止した上履き(左)と体育館シューズ(右)

2)教材を共用に
これまで美術の資料集(750円)は、1人1冊ずつ購入するよう求めていましたが、それを教室の備品として共用に。音楽の授業で使う歌集も同様に備品として学校が購入することにしました。

こうした積み重ねの結果、1人当たり1万4,000円の負担を減らすことができました。

この見直しを進めてきたのが、今年3月まで事務職員として小谷場中に勤めていた栁澤靖明さんです。子どもの就学援助や学校の予算管理を行う事務職員として、義務教育でも家庭の負担が少なくないことを目の当たりにしてきた柳澤さんは、そうした学校運営を変えたいと考えてきました。

栁澤靖明さん
「学校現場は、制服や計算ドリルのように生徒個人が所有するものについては、自分で購入して当たり前という、“受益者負担”の考え方が定着しています。しかし、憲法では義務教育は無償とうたわれており、子どもが教育を受ける権利を保障するために保護者が負担しなければならない費用があることは本来の姿ではありません。すべてを公費で賄うのは難しい財政状況ですが、一歩でも二歩でも、理想に近づいていきたい」

教育費をしっかり仕分け!「検証シート」とは

栁澤さんが教育費負担の見直しを進める中で導入したのが「費用対効果検証シート」です。
教科書や家庭で購入してもらう副教材の費用と効果を検証し、「費用相当の効果が得られた」「費用の割には得られた効果が低かった」「どちらともいえない」「費用対効果の検証にふさわしくない」の4つに仕分けます。それを元に、次の年度も購入するかどうかを各教科の教諭と事務職員で相談して決める仕組みです。

英語担当の舟橋岳見教諭は、このシートを使って、授業で使っていた副教材の購入を見直しました。
舟橋さんが赴任した5年前、英語の副教材は4種類ありました。しかし、シートで検証したところ、リスニングの副教材はデジタル教材の導入で不要に、語順を学ぶ副教材は自作したプリントを活用することで代替可能なことがわかりました。
さらに、宿題用に使っていた単語練習のノートは生徒への負担が大きくなりすぎていると判断して、最終的に1種類の副教材のみに絞ることに。4冊で1人あたり1,990円かかっていた副教材費は650円まで減らすことができたのです。

舟橋岳見教諭
「これまでは忙しさもあって、前年度を踏襲して同じものを買えばよいだろうという考えに陥ってしまっていたと思います。『費用対効果シート』が導入されたことで、指導法の変化や生徒の学力に即して、授業に必要なもの・必要でないものを自分でも考えるようになりました。そのことが保護者の方の負担軽減にもつながっていると思います」

教育費負担 保護者と一緒に考える

さらに小谷場中では、毎年、学校評価アンケートを行って保護者にも意見を求めてきました。保護者からは「少ししか使わない柔道着は共用にしてほしい」「林間学校へ行くのに指定のジャージだけでは足りないが買い足すべきか」など、さまざまな意見が寄せられています。意見を受けて、1人1着の購入を求めていた柔道着を学校の備品として共用にすることなどが新たに検討されているといいます。

栁澤靖明さん
「保護者の方が『子どもを修学旅行に行かせてあげたいけど、一気に6、7万かかる』とか『他にも旅行用のバッグを買ってあげなきゃ』など、費用を心配しながらなんとか家計をやりくりするという必要がないようにしたいです。子どもも家計を心配することなく学校に通えるようにしてあげたいです」

各地で広がる負担軽減の取り組み

こうした負担軽減の取り組みは、他の学校や自治体でも始まっています。

同じ埼玉県内では、今年度からユニクロの既製服を制服として導入、一式1万5,000円以内でそろえることができるようにした高校や、定価よりも20%ほど安く制服をレンタルできる取り組みを始めた高校もあります。
また、神奈川県海老名市では、4年前から、授業で使う頻度の少ない彫刻刀や柔道着を学校の備品として購入し、無償で貸与しています。

さいたま市立大宮北高校はユニクロ製品を制服に採用

名古屋大学大学院教授で、教育社会学者の内田良さんは、教育費の負担の重さは少子化の一因にもなっており、これからの日本が早急に取り組むべき課題だと指摘します。

内田良教授
「日本は海外と比べても国が教育にかける予算が少なく、私費負担が常態化しています。その結果、子どもを持つ世帯の多くが、経済的な理由から希望の人数の子どもを持つことをあきらめている実態があります。日本の教育現場は『子どものためなのだから』『お金のことなんて言うなよ』という世界観が保護者にも教員にも背負わされてきた傾向にあり、財政問題が深く語られてきませんでした。実態を調べることをタブー視せず“見える化”すると同時に、学校や保護者の問題にするのではなく、国や社会全体で取り組む課題として、公費負担を増やしていく必要があります」

  • 高瀬 杏

    首都圏局 ディレクター

    高瀬 杏

    2017年入局。大阪局を経て2021年から首都圏局。 ジェンダーや多様性の問題に関心を持ち取材。

  • 堀江凱生

    首都圏局 ディレクター

    堀江凱生

    2016年入局。仙台局を経て2021年から首都圏局。 自然が好き。取材で教育費の高さを実感、両親に感謝伝えたい。

  • 有賀実知

    首都圏局 ディレクター

    有賀実知

    2021年入局。貧困や人権の分野に関心を持つ。

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