群馬県の上信電鉄・高崎駅に、大正時代から活躍してきた貴重な電気機関車があります。鉄道ファンからは「上州のシーラカンス」と呼ばれ愛されてきました。老朽化で長らく走っていませんでしたが、5年ぶりに動く姿を見せ、地元の人を喜ばせています。
(前橋放送局/ディレクター 横田麻莉)
上信電鉄の電気機関車「デキ」。98歳を迎えた今年、5年ぶりに動く姿を見せました。
上信電鉄 社長 木内幸一さん
「なんとか100歳を迎えられるような態勢に持っていきたかったんですね。こういったかたちにリフレッシュされて、すばらしいデキが仕上がったということで非常にありがたく思っています」
デキは大正13年にドイツから輸入されました。群馬県の高崎駅と下仁田駅の間を走り、生糸や石灰石などを運びました。
「ピー」という甲高い音が特徴的なデキの警笛は、地元の農作業をする人たちにお昼の時間を知らせ「お飯(めし)列車」と呼ばれて親しまれました。貨物を運ぶ役目を終えたあともイベント列車として走り続けたデキ。動く化石のようだと、鉄道ファンからは「上州のシーラカンス」と呼ばれ愛されてきました。
しかし、2017年にブレーカーが故障し、それ以来走ることはありませんでした。鉄道会社も修理したいと考えていましたが、コロナ禍で利用客が30%減ったこともあり、手つかずのままとなっていました。
そうしたなか出てきたのが、コロナ禍で観光庁が始めた補助事業でした。
会社は、デキを直して観光の目玉にしたいと応募。補助金を受け取れることが決まり、去年12月に整備を開始しました。
上信電鉄 鉄道部長 小島博さん
「塗装をいったん全部剥いでから、下地の鉄板をきれいに磨いてそこから下塗り中塗り上塗りと3回して行ったんです」
さらに、安全面も考慮して、動力は連結する電車が担い、ブレーキなどの操作は「デキ」で行うように改造しました。そして今年2月、新しくなった「デキ」がついに姿を現しました。
地元のファンも喜んでいます。富岡市に住む大日方康博さんは、子どものころからデキが大好きで、家の近くの踏切によく見に行っていました。
大日方康博さん
「つらい時にここに来て、小兵ながら10両ぐらい引っ張る貨物に本当に勇気もらったんです」
大人になってから庭に模型のデキを走らせるほどほれ込んだ大日方さん。27年前にデキを愛する会を発足させ、各地のイベントで模型を走らせました。
さらに漫画家の松本零士さんの協力も得て、子ども向けの本も作るなど、魅力を多くの人に伝えてきました。
予定されていたデキの一般公開は、コロナの影響で延期されたままです。それでも、オンラインで配信されたデキの雄姿に大日方さんは再び胸を躍らせています。
大日方康博さん
「動くようになったんだねえ。やっぱりデキはこの姿がないとね。わずかな区間だけどやっぱり動くようになってよかったですよ」
1世紀近くたつ今も多くのファンに愛されるデキ。鉄道会社は、コロナの感染拡大が収まったら、デキの姿を多くの人に見てもらいたいと考えています。
上信電鉄 社長 木内幸一さん
「イベントの時にお客様に車内の乗車体験していただいたり、写真撮影をしていただいたり、お披露目していきたいというふうに思っております」
「デキ」の一般公開の日程は未定ですが、動く様子は動画サイトで見ることができます。今後、公開イベントなどが決まったら、上信電鉄のホームページに掲載する予定だということです。