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教育評論家 尾木直樹さん コロナ禍で学校生活を送る子どもたちへ

  • 2022年2月21日

学校の休業やオンラインによるリモート授業。頑張ってきた部活動の大会も中止。
楽しみにしていた文化祭や修学旅行も中止や延期・・・。
この2年間、子どもたちはさまざまな学びや体験の機会に制約を受けながら過ごしています。
そんな子どもたちや周りの大人たちへ、教育評論家の尾木ママこと尾木直樹さんからのメッセージです。
 (首都圏局/記者 氏家寛子)

子どもの成長という視点が欠落していた

氏家記者

コロナ禍で変わった学校生活。どう見ていますか?

尾木直樹さん

密になること、人と触れ合う、人としゃべる、あるいはけんかしたり…。
成長していくのに原点というか、すべてですよね。本来、教育でいちばん大事にしなきゃいけないのは、密になること。でも、おしゃべりをいっぱいすることや鬼ごっこは接触するからというので禁止です。大事な行事も全部なくなってきたわけですね。
ないないづくしで、あるのは時間や時数だけこなしていく授業とそれからどれだけこなしたかというテストの連続なんです。これははっきり言って地獄ですよ。とんでもないことになりました。

 

感染対策だからしかたないことなのでしょうか?

 

感染予防から言えば誰もが納得することなんですね。
そこで考えてほしかったのは、子どもたちの発達、成長にとってはどうなのかということです。子どもの成長という視点に立って、感染防止とどのように折り合いをつけていくかということが欠落していたのではないかと思いますね。

先生たちだけでふんばらないで

 

学校行事の中止も相次いでいますが…

 

先生たちだってやってあげたいんです。運動会にしても密になるなというので、いちばん盛り上がる全員リレーができなかったりとか。玉入れができなかったりとか。そういう時に、ある学校では子どもたちに相談したんです。
「先生たちは、やりたいんだけれど、どうしたらいいか」と。そうしたら子どもたちからは、すぐに反応が返ってきて具体的な策を出してくれたというんです。
玉入れも密にならないために、はじめから2個ずつ持って、ポールを立てた中心にディスタンスとって丸くなってね。ピストルで「よーいドン!」と同時に、2個ずつ投げ入れて、どっちが多かったかを競うというアイデアがありました。
全校生徒がグラウンドに出られないなら、学年ごとにやったらどうかとか。あるいは、全員リレーでバトンが20センチ、30センチでぶつかり合うからダメだと言うんだったら、2メートルのバトンを作って担ぎながら走ったりとか。子どもたちによるアイデアがいっぱい出てくるんです。

いちばん大事なのは何かといいますと子どもに相談する、子どもに頼るということなんです。ときには保護者にも頼る。先生たちだけでふんばらないということが大事なんです。

どう切り開くかは“みんなで力を合わせる”こと

 

頼ると想像以上にアイディアが出てくるということでしょうか?

 

そう、知恵が湧いてくるんです。それから子どもに頼るというのは何がいちばん力になるかというと、子どもたちは自分たちの問題なんです。当事者だから必死になって考える。だから「先生こういう方法もある、ああいう方法がある」と。次々に出てくるというのが実践をされた学校の先生の感想ですね。

保護者も子どもたちがかわいそうだというのをいちばん分かっているわけで、なんとかしていきたいというのでアイデアは次々と出してくれますね。
保護者が300人いる学校だったら、300人のプロなんです。それぞれの仕事があり、全部プロなんです。だから、そのプロフェッショナルを発揮してくれるんですよね。八百屋さんなら野菜のプロで、テレビのカメラマンはカメラのプロだし。それぞれいっぱい知恵が出ますよ。

だからアフターコロナとかウィズコロナ時代をどう切り開くのかというのは若者とか当事者を中心に据えてみんなで力を合わせるということだと思いますね。

子どもたちへ「自分の考えをどんどん発信してください」

 

子どもたちにどんなことを呼びかけたいですか?

 

今回こういう困難な状況の中で子どもたちの持っている可能性とかエネルギーというのを私たち大人も本当によく分かりました。大人も未経験のことに遭遇していますから、ぜひ子どもたちも社会の一員として、一緒になってこの活力のある日本を再建したいなと。皆さん遠慮なく、異議申し立てでも提案型でもどんな形でもいいので、自分の考えを発信してください。それを受け止めていく度量を大人や社会は持っていると思いますよ。

コロナ禍で子どもたちに育った力は何かというと「主体性」というのがキーワードですよね。自分の内面と向き合って、足場を固めた。その力は将来、大きな力になると思います。
例えば、運動部に所属している子は、今まで放課後になって部室に行くとメニューが決まっていて、順番に先輩に言われるようにこなしていくだけだった。何も自分の頭で考えなかったけれども、学校にも行けないし部活も中止になっていると、自分はどういうメニューを作ろうかとかどういうルーティーンで過ごしていこうかというのを自分で考えるようになった。この力は大きいですよね。

悪い表現をすると、当たり前に行われていたことに流されているだけ、乗っているだけだったのが、乗るものがなくなっちゃったら自分で考えるようになったと。これはなかなか経験できないことで、それを経験したコロナ世代というか、その子どもたちや若者は大きな力を発揮していくと思います。そういうところへの信頼感を社会は持たなきゃいけないと思いますね。

“ピンチをチャンスに切り替える”

尾木直樹さん
“ピンチをチャンスに切り替える”といわれます。そこの瞬発力というか柔軟性、そこが問われています。いちばんそれがあるのは、子どもたちだと僕は思います。先生方もそういう子どもたちのすばらしさをどんどん社会的に発信してください。よろしくお願いします。

  • 氏家寛子

    首都圏局 記者

    氏家寛子

    2010年入局。岡山局、新潟局などを経て首都圏局に。 医療、教育分野を中心に幅広く取材。

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