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横須賀市 虐待で避難 生活保護が受けられない大学生などへ新たな支援

  • 2022年1月28日

経済的に困窮する人の最後のセーフティーネットと呼ばれる生活保護ですが、国の通知で大学生は対象外になっています。虐待を受け保護者から避難している場合も例外ではありません。
神奈川県横須賀市は、新年度から生活保護と同程度の金額を支給する独自の制度を設けることにしました。8割以上の人が大学や専門学校に進学する時代となったいま、国の制度の運用見直しを求める声も出ています。
 (横浜局/記者 古賀さくら)

生活保護の対象外「大学を辞めなければ…」

去年、横須賀市内のシェルターに避難した女子大学生から市に生活保護の申請がありました。この大学生は、入学後も両親から虐待を受け続けて親元から逃げ出しました。体調が安定しないためアルバイトもできず、「生活保護を受けられなければ、大学を辞めなくてはならない」というのです。

しかし、国の通知で、生活保護は昼間の大学や専門学校に通う学生は対象外になっています。横須賀市は国と協議した上で、病気療養中に限り、短期間の受給を特例的に認めましたが、いずれ打ち切られます。

虐待を受けた学生を支援 横須賀市が独自の制度

このため、横須賀市は独自の支援制度を設けることにしました。対象になるのは、大学などに進学したあと、保護者から虐待を受けて自立援助ホームに避難する18歳から19歳の学生で、市の児童相談所が関与したケースに限られます。
単身の世帯に支給している標準的な保護費と同じ、月7万円余りの生活費と、学校に通う交通費を、生活が安定するまで最長1年半支給することにしています。

新たな制度は1月24日、横須賀市議会の教育福祉常任委員会で説明され、議員からは「国に生活保護の運用を変えるよう要望してはどうか」などの意見が出されました。

横須賀市 上地克明市長
「制度のはざまで困っている目の前の人に対して、何か出来ないかという思いで知恵を絞りました。ただ、自治体独自の取り組みでは対応に限界があるので、国に対しても、生活保護制度の運用の改善を求めていきたい」

“対象外” 根拠は59年前の通知

なぜ学生が生活保護の対象外になっているのか。根拠となっているのが1963年(昭和38年)に当時の厚生省が出した通知です。
当時の大学や専門学校への進学率は15.5%(1963年度)だったのに対し、今は83.8%(2021年度)と、大きく増えていますが、制度の運用は変わっていないのです。

虐待被害の大学生は支援の狭間に

経済的に困窮する大学生や専門学校生については、2020年度から、授業料の減免や返済不要の奨学金を支給する、国の「修学支援新制度」が始まったり、各大学が独自の支援策をもうけたりと、ここ数年支援制度が拡充されています。

しかし、支援団体や専門家によりますと、こうした制度は支給までに時間がかかったり、進学する前に申請が必要だったりするため、進学したあとに保護者から虐待を受けて避難した学生が、すぐに利用するのは難しいのが現状です。

虐待を受けた男性「同じ思いをしてほしくない」

中村舞斗さん(画像右)

かつて自身も虐待を受け、現在はNPO法人で、同じ境遇にある若者たちの支援にあたっている中村舞人さん(32)は横須賀市の制度を歓迎しています。

中村さんは、虐待を受けて親元を離れたあと、働きながら学費を貯めて大学に通っていました。看護師を目指して、アルバイトを掛け持ちしながら生活費や学費を工面していましたが、2年生の時に虐待された記憶がよみがえり、体調を崩して働くことができなくなりました。
役所に療養中だけでも生活保護を受けられないか相談しましたが、「大学はぜいたく品です」「大学に通うか、生活保護を受けるか選んで下さい」と言われ、退学せざるをえなかったといいます。

中村舞斗さん
「ほかに選択肢はありませんでしたが、大学は辞めたくなかったです。『誰も助けてくれないのか』と絶望の気持ちでした。今回のことは画期的なことだと思います。これをきっかけに支援が全国に広がってほしいし、大学生だからといって生活保護を受けられない現状は変えてほしい」

虐待を受けた若者の支援にあたっている飛田桂弁護士によりますと、経済的理由で進学を諦めたり、退学せざるを得なかったりする学生は少なくないということです。
虐待を受けた子どもは通常、児童相談所に保護されたり、児童養護施設で生活したりしますが、18歳以上になると利用できる施設や制度はほとんどなくなります。
虐待で親元から離れた大学生が、最後に頼った生活保護を受けられず、勉強を諦めたケースをこれまでも見てきたということです。

虐待を受けた若者を支援 飛田桂弁護士
「横須賀市の取り組みは、その子の夢・魂・人生を救ったと言っても過言ではなく、素晴らしいことだと思う。『学びたい』という気持ちを実現できる社会にしてほしい」

制度の見直しを求める声も

専門家からは、生活保護の運用見直しを求める声があがっています。

生活保護行政に詳しい立命館大学 桜井啓太准教授
「横須賀市の独自の支援制度は非常に画期的で、ほかの自治体にも広がることを期待したい。大学などへの進学率が80%を超える今、大学生だという理由で生活保護が利用できないのはおかしい。
経済的に困窮する学生について、すべてを生活保護で対応する必要はなく、奨学金や授業料の減免措置など、さまざまな手段で経済的な負担を取り除いていくべきだ。ただ、生活保護が今の硬直的なままでいいというわけではなく、何かあったときに一時的にでも利用できる制度であるべきだ」

  • 古賀さくら

    横浜放送局 記者

    古賀さくら

    横浜局、前橋局を経て、現在は横浜局で主に県政を担当。新型コロナウイルスへの対策をはじめ、医療や介護福祉分野を精力的に取材。

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