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オミクロン株 全ゲノム解析で判明 “未知の変異”のリスクとは

  • 2022年1月21日

感染が急拡大している新型コロナウイルス。大きな要因の1つとされているのが、新たな変異ウイルス「オミクロン株」です。従来のものと比べて感染力が高いなどとされていますが、その特徴はいまだ未知の部分が少なくありません。
そうした中、東京医科歯科大学では、オミクロン株に感染した患者に対して、すべての遺伝情報を調べる「全ゲノム解析」を実施。その結果からは、私たちが注意すべきことやオミクロン株の流入経路などが見えてきました。
(首都圏局/記者 直井良介・ディレクター 高橋弦)

オミクロン株 およそ30か所の“多重変異”を確認

今回解析を行ったのは、東京医科歯科大学の准教授で、ウイルス学が専門の武内寛明さんです。今月11日までにオミクロン株に感染して東京医科歯科大学病院に入院した患者4人について、全ゲノム解析を実施しました。

その結果、オミクロン株の「スパイクたんぱく質」に、およそ30か所の変異があることが確認されました。スパイクたんぱく質とは、ウイルスの表面にある突起のことで、人間の細胞と結びつく際の「鍵」となる部分です。

第5波の際に感染の主流だった「デルタ株」でもスパイクたんぱく質に変異が見られましたが、その数はオミクロン株の約3分の1にあたる10か所程度でした。オミクロン株は変異の数が多い分、その中には未だ特徴の分からない“未知の変異”が含まれていると、武内准教授は言います。

東京医科歯科大学 武内寛明准教授
「特徴が分かっている既存の変異と、未知の変異が合わさっているのがオミクロン株です。ワクチンの効果の有無など、まだ特徴をつかみ切れておらず、我々に対して非常に悪い影響を与える可能性もあるため、注視していかなければいけないと思います」

「感染力の高さ」示唆する変異

スパイクたんぱく質の3次元構造モデル

およそ30の変異の中でも、武内准教授が特に注視しているものの1つが、オミクロン株の感染力の高さを示唆する「G446S」と呼ばれる変異です。コンピューターによるシミュレーションで、「この変異が起きると人の細胞と結合しやすくなり、感染力が高まる」と懸念されてきましたが、今回のオミクロン株で、初めて現実の変異として現れました。

武内准教授は現時点ではまだ分からないことがあるとしながらも、「G446S」の変異が、国内の感染拡大に影響を与えている可能性は否定できないと言います。

武内准教授
「オミクロン株には、『G446S』のほかに、アルファ株由来の感染伝播性の増大に関わる『N501Y』という変異も入っているし、デルタ株の感染性に影響するそのほかの変異も入っているので、それらとの相乗効果で、感染性がさらに高まっている可能性は十分に考えられます」

「肺の炎症を招きかねない」変異の存在も明らかに

ただ、オミクロン株は感染力が高いとされる一方、“感染しても重症化しない”とする見方もあります。しかし今回の解析から、武内准教授は「そう判断するのは時期尚早である」と指摘します。
デルタ株で、動物を用いた研究で肺炎を引き起こしやすいことが分かっている「P681R」という変異。オミクロン株も同じ681番目の箇所で、「P681H」という変異が起きていたのです。

実際に今回、東京医科歯科大学で全ゲノム解析の対象となった患者4人の中で、基礎疾患のある高齢者が、酸素吸入が必要な重症の一歩手前まで症状が悪化しました。武内准教授はこうした事例も踏まえ、高齢者などを中心に、現在の状況を楽観視してはいけないと警鐘を鳴らしています。

武内准教授
「今、病院での治療を必要とされる方が実際にいらっしゃることが、オミクロン株に感染した方が必ずしも軽症で終わるわけではないことをなによりも物語っていると思います。また、基礎疾患を有している方や高齢者の方々に対してどのような影響を及ぼすかは、世界的にも示されていません。オミクロン株が単純に重症化リスクが低いという形で見て、日々の感染対策を緩めていいということにはならないと思います」

ゲノム解析の結果 今後にどう生かす

こうしたゲノム解析が進むことによって期待されることの1つが、感染対策への活用です。新型コロナウイルスのゲノム解析は現在世界中で行われていて、その結果は「GISAID」と呼ばれるサイト(=世界中の研究機関からウイルスの遺伝子配列が登録されるサイト)上に集約されています。

そこにあるデータ同士を比較することで、どこから日本に流入してきたのかを推定することができるのです。今回行われた解析でも、4人の患者が感染したオミクロン株が、いずれも北米で広がっている系統に非常に近い変異を持っていることが分かりました。

世界のどの地域で流行している変異ウイルスが日本国内で主流となっているのかなどを明らかにすることによって、より効率的な水際対策や、治療方法の選択などにつなげられる可能性があると、武内准教授は言います。

武内准教授
「世界のどこで流行しているものが、日本国内で流行しやすいのかということが分かると、該当する地域へ渡航した方などに対しては、より注意深くフォローアップするなどメリハリをつけていくことができます。それによって、空港検疫に携わる方たちの負担軽減を図ることができると思います。また、どういう変異が入っているかを見ることによって、治療薬や治療法の選択につながる情報にもなってきます。ゲノム解析は、引き続き世界レベルで継続して行う必要があると思います」

  • 直井良介

    首都圏局 記者

    直井良介

    2010年入局。山形局・水戸局などをへて首都圏局。災害などを担当

  • 高橋弦

    首都圏局 ディレクター

    高橋弦

    2017年入局。広島局を経て2021年から首都圏局。教育や不登校、災害・防災について取材。

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