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ヤングケアラー 高校は“最後の砦” 動き出した高校は

  • 2021年12月15日

「ヤングケアラーにとって、高校は“最後の砦”だと感じています。学校として家庭への支援をしていくことで、生徒たちが次に進むためのステップや目標を見つけてくれたらいいなと思っています」

こう話すのは、埼玉県内の高校の教頭です。この高校では、ヤングケアラーと思われる生徒たちの情報を教員の間で共有し、具体的な支援につなげる取り組みを始めています。

全国的にも先進的と言えるような取り組みをなぜ始めたのか。また、どんなことをしているのか。話を聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

生徒たちの“背景”にあるものを理解する

今回話を聞かせてもらったのは、埼玉県立川越初雁高校で教頭を務める福田哲也さんです。
川越初雁高校では、ヤングケアラーと思われる生徒たちの情報を、教員の間で共有する取り組みを始めています。

大西記者

なぜヤングケアラーと思われる生徒の情報の共有を始められたのでしょうか?

福田教頭

まず、教員としては生徒たちに高校生活を楽しんでほしいという思いを持っています。その上で、一人ひとりの生徒が持っている力を発揮できるようにするためには、単に「勉強や部活を頑張れ」というだけではなく、生徒たちの背景にあるものをしっかりと理解した上で、個性や特性に合った指導を行っていく必要があると考えました。

 

 

具体的にどんなことをしているのでしょうか?

 

学年ごとに生徒の情報を共有し、特に発達障害があったり家庭の支援が必要だったりした際には、会議の中で取り上げて、通常の学習指導では補えない部分をケアすることを目指しています。例えば、精神的に不安定な生徒に対しては、校内にいるスクールカウンセラーの予約を取って生徒と面談してもらいます。そして、家庭への支援が必要ということになれば、スクールソーシャルワーカーに来てもらい、どの関係機関と連携したらよいか、アドバイスをもらいます。

「みんなであなたのことを見てるよ」

 

実際に取り組みを始めて、どんなことを感じていますか?

 

埼玉県が行っている事業を活用して、精神科の医師に来てもらうこともしていて、対象の生徒を診断してもらい、どういった指導や声かけがその生徒に有効なのかを探ることができるようになり、これまで教員が担えなかった部分をカバーできるようになったと感じています。

 

 

生徒の情報を「共有する」という点に力を入れているとのことですが、なぜでしょうか?

 

教員が1人で生徒を指導すると、2人だけの関係になりますが、生徒の必要な情報をほかの教員全員が知っているという状況を作ると、組織として「みんなであなたのことを見てるよ」というメッセージが生徒たちにも伝わると思っています。また、情報を広く共有するということは、生徒をいろいろな面から捉えていくことになるので、非常に大きなメリットがあると思っています。

 

 

「ヤングケアラー」の存在が、少しずつ認知されるようになりましたが、学校の現場で変化してきたことはありますか?

 

去年までは、「ヤングケアラー」という言葉自体、話題に出ることがありませんでしたが、今では「この子はヤングケアラーじゃないか」と、教員たちから日常の会話の中で出るようになりました。実際に指導の場面でも、例えば生徒から課題が提出されない時に、生徒個人の問題で片付けず、家庭の問題や背景を見ようということが、これまで以上に意識できていると思います。その意味で、「ヤングケアラー」という言葉が広まってきたことに大きな意味を感じています。

手を差し伸べれば次につながると信じている

 

現場の意識が変わりつつあるということですが、ヤングケアラーと思われる生徒を見つけることは難しいと感じることはありますか?

 

学校に知られたくない、“一般的な高校生”を演じていたいという生徒もいて、表面化してこないケースが非常に多くあります。家庭への支援といっても、強制的に学校が介入できるわけではないので、家庭の協力や助けてほしいというシグナルがないと、どこまで介入していいのか、限界があるというのは感じています。

 

 

生徒たちの中には、家庭のことに入ってきてほしくないと考える生徒もいますか?

 

家庭や本人に特段自覚がなく、家族の問題は家族で解決すればいいと考えているケースもあります。また、本人が喜んで家族の介護やケアをしたり、生きがいを感じていたりすると、なおさら関わり方が難しいです。例えば、こちらから連絡をしても「なんで学校がそういうことにまで口を出してくるんだ」と伝えてきたこともあります。そうすると余計、家庭との関係がうまくいかなかったり、不信感につながったりしてしまい、非常にもどかしさを感じています。

 

 

支援を続けることの難しさというのはありますか?

 

いったん話し合いをしたり、適切な行政機関に入ってもらったりすることで、問題が解決したように見える場合があります。しかし、家族構成は突然変わることはないので、時間がたつと元のような状況に戻ってしまうこともあり、非常に時間がかかりますし、なかなか根本的な解決には至りません。ただ、それでも外から手を差し伸べてくれる場所があるんだということを知ってもらうことで、次につながるものがあるのではないかと信じています。

高校は“最後の砦”

 

ヤングケアラーの生徒たちにとって、高校生活の3年間をどんな期間にしたいと考えていますか?

 

生徒たちが自立していくための最後の本当に手厚い“訓練の場”だと考えています。大学や専門学校に進学するにしても、就職するにしても、成人として社会に出ていくための最後の準備段階になるので、家庭環境のもとで自分ではどうすることもできない状況を、どうやったら自分の心の中で処理できるのか、そういうことを見つける場として、3年間の教育が重要であることは間違いないと思っています。

 

 

家庭環境は簡単に変えられないので、学校としてできることはすべてやっていくということでしょうか?

 

生徒たちの中には、学校に通って自分の夢や目標を実現したいと思っていても、家に帰れば幼い妹や弟の世話をしなければならず、自分の勉強が思うようにはかどらない。あるいは、病気の母親の介護やケアをしないと母親の病気の状態が心配だということで、家庭内でヤングケアラーとして期待され、学校生活との両立がなかなかうまくいかない。こうした現状に対して、学校としてできる限りのことをしたい。その意味で、ヤングケアラーにとって、高校は“最後の砦”だと感じています。学校として家庭への支援をしていくことで、生徒たちが次に進むためのステップや目標を見つけてくれたらいいなと思っています。

 

 

今後の展望をどのように考えていますか?

 

生徒との面談の機会をもっと利用して、一人ひとりの悩みや考え方、家庭の状況の把握に努めていければと思っています。学校としても、教員の研修などを通して、生徒との向き合い方、家庭への対応のしかたを学んでいき、これまで手の届かなかった部分に手が届くような支援を目指していきたいと考えています。

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

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