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101歳も学ぶ渋谷区の高齢者スマホ講座 無料貸し出しで情報届ける

  • 2021年12月14日

101歳の女性が向き合っているのは渋谷区が無料で貸し出したスマートフォン。使い方はスタッフが丁寧に教えてくれます。「90歳の人でも使っているから、私もできたらいいな」と関心は高いようです。

区がここまでするきっかけの一つが2年前の台風19号。避難所を開設し、ホームページやSNSで呼びかけましたが、避難してきた高齢者はほとんどいませんでした。
なんとかして命を守る情報を届けたい。渋谷区の取り組みの現場です。
(首都圏局/ディレクター 立花江里香)

101歳のスマホデビュー

渋谷区が始めたスマートフォンの講習会。
取材のために区役所を訪ねると、ストックを手にしゃきしゃきと歩いてやってきた参加者に出会いました。渋谷区在住の村田千恵子さん、なんと101歳です。

家族や友人と、もっと簡単に連絡ができるようになりたいと講座に申し込みました。これまではガラケーもなく、固定電話とパソコンのメールでやりとりをしてきたそうですが、指導役のスタッフと一緒にLINEやメールの練習を重ねています。

村田千恵子さん
「ふつうの電話よりずっといい。今どき、なかなか人に会うことができないから。健康でいるのをお互いに確かめ合えたら、ありがたいと思いますね。90歳の人でも使っているから、私もできたらいいなと思って。だからしっかりと覚えなければ」

この日は、顔を見ながら電話ができる「ビデオ通話」の使い方を教わっていましたが、スマホを触っているうちに、間違えて電話をかけてしまいました。相手は、同居している息子。仕方ないのでそのまま実践練習に突入!

千恵子さん

今ね、これができるかどうかのテスト検査なんです。姿が映るようにしていいですか?ちょっと待ってください。

担当者

この画面だったら直接、『ビデオ』のボタンを押してみましょう。

67歳の息子とのビデオ通話は無事に成功。
声を聞くために、思わず画面を耳元に持っていってしまって顔が見えなくなる場面もありましたが、使えるスマホの機能が増えたとうれしそうでした。

渋谷区の新事業!高齢者のデジタルデバイド(=情報格差)を解消したい

千恵子さんが使っているこのスマートフォンは、渋谷区が無料で貸し出しているものです。
ここ数年、渋谷区ではインターネットやSNSを活用することで、区役所まで足を運ばなくても手続きができる“非来庁型”のサービスを推進してきました。
自宅からでも行政のサービスが受けられるようになれば、移動時間や待ち時間を減らすことができるからです。

例えば、国民健康保険に関する手続きや、税証明書の申請、出生通知票の提出などは渋谷区のLINEから行うことができます。

しかし、高齢者の多くがそれを十分に活用できていないことが課題でした。その理由は昨年度の調査で明らかになりました。区内に住む65歳以上の高齢者4万3000人のうち、4人に1人がスマートフォンを持っていないと分かったのです。

区の危機感 命守る情報が届かない

この状況を区が深刻に捉えるようになったきっかけがありました。
それは、2019年の台風19号です。

渋谷区神宮前では道路が冠水した(渋谷区提供)

区内でも、一部道路の冠水や倒木があり、警戒レベル4「避難勧告」が発令されました。
区では12の避難所を開設し、その情報をホームページやSNSを使って発信しましたが、避難してきた人の中に高齢者がほとんどいなかったのです。

避難所の様子(渋谷区提供)

さらにその半年後には新型コロナウイルスの感染拡大で、これまでの対面型サービスが困難になりました。高齢者の安心・安全を確保するためにも、オンライン申請やキャッシュレス決済などのデジタルサービスの利用を推進していく必要があると区は考えたのです。

そこで、今年4月に、高齢者の“デジタルデバイド”、いわゆる“情報格差”を解消する事業をスタートさせました。

スマホの無料貸し出しスタート!

区は対策を検討した結果、スマホを持っていない人に2年間無料で貸し出し、講習会を重ねて利用方法をしっかり学んでもらう体制を整えました。
使い方を教えるスタッフは、業務委託をした携帯電話会社から派遣してもらう形を取りました。

区民に配布している広報誌や地域の掲示板など、ネット環境がない人にも伝わるよう参加者を募集したところ…。
集まったのは、約1750人。半数以上が80歳以上でした。今年9月、多くの「高齢者スマホユーザー」が誕生したのです。

講習は悲喜こもごも 簡単ではない高齢者DX

参加者は全員、約3か月かけてグループ講習を3回受け、さらに、分からないところを個別講習で学んでいきます。

1回目と2回目では、基本的なスマートフォンの設定や、カメラ、メール、LINEなどの使い方を学びました。3回目は、いよいよ応用編。約2時間の講習で、防災/ニュース/ラジオ/マップ/乗り換え案内/YouTube/脳トレなど、さまざまなアプリの使い方を学びます。

しかし、80歳を過ぎてからのスマホデビューは簡単ではありません。さまざまなハードルが明らかになってきました。

(1) スタッフの説明が聞き取りづらい
(2) 押す場所を見つけるのに時間がかかる
(3) タッチしても反応しづらく、スクロールはもっと難しい
(4) 「ホームボタン」「戻るボタン」など基本動作に慣れるのが大変
(5) スマホ用語は初めて聞く言葉ばかり

担当者も、一人ひとりに合った工夫を求められていました。

渋谷区の職員
「同じ説明をグループ内でお一人ずつ繰り返し、聞き取りにくいキーワードは紙にメモしながら説明するなど工夫しています。また、高齢者の方は指に静電気が起きにくく画面が反応しづらい傾向があるため、タッチペンがあると便利だと紹介しています。
テキストをスマートフォンに表示されている画面と完全に一致させることで、講習のあと、ご自宅でお一人でも練習しやすい環境を整えました」

使いこなせるようになるまでには、自宅での反復練習が欠かせません。皆さん自分なりのメモを残していました。

それでも、使えるようになりたい!

いつも活気にあふれている講習。少しでも長く学びたいと、開始時間の1時間前に来る人も少なくありません。
切実な理由でスマホが使いたい人、新たな世界を楽しもうとする人、それぞれがそれぞれの理由でスマホと向き合っていました。

81歳

社会に置いてかれちゃいますからね。息子と一緒に住んでいますが、今までわれわれ中心だったのが完全に逆転している。少しでもいいからついていくために勉強しよう。そんな感じでやっています。

80歳

電話の印があるから押してみようと思ったら通じちゃって、「あら、ちょっと押したら通じたわ」って相手に失礼言っちゃってね。でも簡単に電話できるようになっておもしろいです。

72歳

今回学んだ防災アプリ、大事だと思いました。最近入れたのは、星座のアプリ。素晴らしいですよ。今日は月食があるって教えてくれました。

86歳

友達を増やしたいのよ、これで。100歳まで生きる楽しみができた!借りているものだと緊張するから早く自分のスマホでやりたいな。どんなことがあってもやりきる。頑張ります!

目指すは人生100年時代のQOL(=生活の質)向上

渋谷区は、高齢者がスマートフォンを日常的に活用できるようになれば、デジタルサービスの恩恵を享受できるようになり、生活の質も向上すると期待しています。

高齢者デジタルデバイド解消担当課長 阿部圭司さん
「実際に皆さんがアプリを使いこなせるようになれば、健康増進につながり、災害時に区が迅速に情報を発信することで、皆様の安全安心の確保にもつなげられるのではないかと思っています。2年間の実証事業ですので、この間にいろいろな課題や要望を得る機会があると思います。それを踏まえて、2年後からどんな事業を行えばデジタルデバイドの解消につながるのか、検討していきたいです」

取材後記

私の祖母は86歳で“ガラケー”利用者です。
写真を送ったりチャットをしたり、スマートフォンを持ってくれたらもっと簡単に連絡が取れると思って勧めてみても、「難しい」と言って断られることがしばしば。
一方、取材したみなさんは、自らの意思で参加している方ばかりだったので、どんなに難しくても諦めずに学ぼうとしていると感じました。

まずは、「祖母が何をしたいか」に耳を傾け、スマホならどんなふうにそれを実現できるのかを伝えていくことで、「覚えたい!」と思ってもらうことが重要なのだと教えてもらいました。

  • 立花江里香

    首都圏局 ディレクター

    立花江里香

    2016年入局。名古屋局を経て2020年から首都圏局。社会保障や経済などをテーマに番組を制作。

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