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ジェネリック医薬品が相次ぐ欠品 持病の薬が値上げも…背景に何が?

  • 2021年12月10日

「いつものお薬が足りなくなったので、代わりのお薬に切り替えさせてください」
いま、薬局の窓口でこう言われて戸惑っている人が数多くいます。
背景にあるのは、ジェネリック医薬品を中心に薬の供給が不安定になっていること。欠品や出荷停止などの状態に陥っているのは3000品目以上。都内の薬局では“発注したとおりに納品されている”と答えたのは1046軒中、わずか1軒のみという衝撃的な調査結果も。
私たちの身近な薬に何が起きているのか、調べてみました。(首都圏局/ディレクター 山根拓樹)

“ジェネリック医薬品が足りない…” 都内の薬局では

11月下旬、東京・練馬区にある薬局を訪ねました。
子どもからお年寄りまで幅広い年齢層が訪れる地域の薬局で、約3000種類の薬を扱っています。

薬剤師が見せてくれたのは、医薬品卸売会社から届く欠品の連絡です。毎日、10種類程度のジェネリック医薬品が不足しているという知らせが来ます。さらに連日、製薬会社からの医薬品回収や欠品、出荷調整の情報が届き、欠品する薬の種類は日々変化していくといいます。

薬剤師
「ことしの2月頃から欠品の連絡が届き始め、7月頃には欠品やその恐れがある薬は常に20品以上ある状態です。状況が良くなる気配はなく、ずっとピークが続いている状態。患者にきちんと薬が渡せるのか、常に不安です」

ジェネリック医薬品は、後発医薬品とも呼ばれ、先発医薬品の特許が切れたあとに販売されます。
開発費が低く抑えられるため、先発医薬品に比べて価格が安く、患者の負担が軽減できます。さらに、医療費の削減にもつながるとして国はジェネリック医薬品の使用割合を去年の9月までに80%に高めるという目標を打ち出して利用を後押ししてきました。

この薬局でも患者の大半がジェネリック医薬品を利用します。特に高齢者は医療費の負担も重くなりがちなため、ジェネリック医薬品を優先的に処方してきました。しかし、その状況が困難になっているといいます。

中でも、慢性的に不足しているのが、骨そしょう症の治療薬「エルデカルシトール」。カルシウムの吸収を助け、骨を丈夫にする効果がある薬で、骨密度が低く骨折しやすくなっている患者は毎日服用する必要があります。この薬局でもほぼ毎日、患者に処方してきた薬です。

3000円の負担増 影響は患者に

ジェネリック医薬品の不足の影響は患者の負担増となって現れています。
この薬局に通う、骨粗しょう症を患う80代の女性です。夫ともに2年前から「エルデカルシトール」を毎日服用してきました。しかし、薬局の在庫が不足したため、代わりに処方されたのは薬価の高い先発薬。治療を止めるわけにも行かず、3か月のあいだ先発薬に切り替えることになった結果、約3000円負担が増えました。

80代 女性
「費用が安いほうが良いけど、薬がないなら受け入れるしかない。治療を止めるわけにはいかないですから。いつになったら元に戻るのでしょうか」

他にも別の薬局では、先発薬も不足し、患者に薬を処方できない期間があったという例や、血圧を下げる薬が不足し、別の後発薬に切り替えたところ、血圧が下がらず、めまいの症状が出るなどして体調を崩した例もあったといいます。

ぜんそくの治療薬も不足しがちだという

背景に大手メーカーの不祥事とコロナ

なぜ、ジェネリック医薬品の供給に支障が起きているのか。その背景にあるのが医薬品メーカーで相次いだ不祥事です。
国が承認していない工程で製造していたなどとして、去年からことしにかけて福井県の小林化工と富山県の日医工が国や県から立ち入り調査や業務停止命令を受けました。日医工はジェネリック医薬品の製造では大手といわれるメーカーです。
さらに、不祥事が明らかになったあとに業界団体が呼びかけた自主点検で、別の複数のメーカーでも問題が見つかるなどしたため、供給停止や出荷調整は実に3000品目以上のジェネリック医薬品に及んでいます。

 

厚生労働省などによる日医工への立ち入り調査(2021年3月)

欠品や出荷調整は新型コロナも影響しています。薬の製造には有効成分となる「原薬」が必要で、ジェネリック医薬品の約半分はインドや中国など海外から輸入した原薬を使っています。しかし、感染拡大に伴って海外の工場の操業が止まったり、航空便が減少したりして原薬の輸入が滞る事態になりました。

“納品が滞る”“発注ができない” 薬局の9割に影響が

骨粗しょう症の治療薬、「エルデカルシトール」はこれまで日医工と沢井製薬の2社が製造してきました。しかし日医工が生産体制の整備の遅れを理由に、6月に供給を一部停止。沢井製薬も7月、設備の保守点検などを理由に出荷を制限しました。

練馬区のこの薬局では「エルデカルシトール」の在庫が徐々に不足し始め、9月にはゼロになりました。そのため、薬価が3倍ほど高い先発薬で対応していましたが、次第に先発薬も需要が集中して出荷が調整されるようになり、患者に十分に薬が処方できなくなる事態に陥りました。

薬剤師
「30日分処方するところを20日分にして、残りの10日分はこの間に確保するとお伝えし、改めて別の日に取りに来てもらうこともあります。1回目は納得してもらえるが、何度も続くと患者さんからすると不安ですよね」

こうした厳しい薬の供給不足は全国の薬局で起こっています。
今年の8月から9月にかけて、東京都薬剤師会が都内1046の薬局を対象に実施した調査。
「納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある」「製品が流通していないため発注ができない場合が多くある」と回答した薬局は94%に及びました。

東京都薬剤師会の永田泰造会長は、供給不足に現場が翻弄され続けている状況に警戒感を強めています。

東京都薬剤師会 永田泰造会長
「6月にも同様の調査を行いましたが、比較すると医薬品の流通状況がさらに悪化しています。薬局側の供給は綱渡り状態で、年度末での改善は無理だろうと思わざるを得ない最悪の状態です。欲しい薬が手に入らない患者の負担は大きくなり続けています。不安感を取り除くために、個々の薬局、薬剤師のコミュニケーション能力が必要となっていて、薬剤師の業務量や精神的負担は増加の一途をたどっています」

安定供給はいつ? 情報公開して混乱を防げ

安定して薬が処方されるようになるのはいつなのか。ジェネリック医薬品に詳しい、医師の武藤正樹さんに聞きました。

日本医療伝道会衣笠病院グループ 相談役 武藤正樹さん
「大手メーカーが出荷調整を続けている穴が大きく、大手の供給が通常通りにならないと、供給不安は解消されません。完全な正常化は2~3年かかるともいわれています。これ以上供給不足が起きないようにするため、他のジェネリック医薬品企業も品質管理を徹底すべきです」

正常化には時間がかかるとされている中、大規模な供給不足問題を受けている現場の混乱を解消するためにはどうすればいいのでしょうか。

“どの薬がどれだけ足りてないのか”という情報を企業が医療関係者に速やかに届けることが重要だと思います。情報提供の義務化するには法的な位置づけが必要になるので、国が果たすべき役割もあります。国は全国で何の薬がどれくらい足りていないか定量的に把握し、解消の見込みはいつなのか、増産はできるのかなど現状を把握した上で、現場の医療機関などに情報を公開するべきです。

取材後記

流通が不安定な状態が続く、ジェネリック医薬品。12月現在、骨粗しょう症の薬は全国の薬局へ安定に供給されはじめています。一方で、血圧を抑える薬や胃薬など、より多くの人が使う可能性のある薬さえ不足するという異常事態になっています。そんな状況下にあっても、厚生労働省は依然として「2023年度末までに後発医薬品の数量シェアを、全ての都道府県で80%以上」とする目標を示しています。

「成分は同じなので、安心して飲んでくださいね」
取材中、患者に薬の変更を真摯に説明する薬剤師の姿を何度も目にしました。しかし、現状は薬局薬剤師の努力の範ちゅうを超えているとも感じました。
安全に薬を飲むためにジェネリック医薬品はどう変わっていくのか、引き続き取材を続けます。

  • 山根拓樹

    首都圏局 ディレクター

    山根拓樹

    2016年入局。ドラマ、静岡局を経て、2021年から首都圏局。主に子どもの貧困問題について取材を続けています。趣味は散歩と銭湯巡り。

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