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“児童虐待を受けた当事者の声をきいて”サバイバーが求める防止策

  • 2021年12月8日

「児童虐待を受けた当事者の声を聞いてほしい」
児童虐待を受けながらも生き延びた被害者=サバイバーたちが、虐待防止策に当事者の意見を生かしてほしいと各地で声を上げ始めています。
コロナ禍の昨年度、全国の児童相談所で対応した児童虐待の相談件数は20万5000件余りと過去最多となっています。当事者たちが考える児童虐待防止策とは何か、取材しました。
(横浜放送局/記者 佐藤美月)

“親を殺したい” 当事者たちの切実な声

ことし10月から12月にかけて、親からの児童虐待を受けてきたサバイバーたちが、自らの経験を語る集会が、東京や神奈川、群馬など各地で開かれています。
集会は、ライターで編集者の今一生さんが、市民や政治家に直接、児童虐待の被害者から話を聞き、防止策を一緒に考えて政策決定にいかしてほしいと、3年前から毎年各地で開いています。

11月20日に神奈川県平塚市で開かれた集会には、市民と地元の市議会議員、国会議員などおよそ30人が集まりました。

はじめに、幼いころ児童虐待の被害にあった当事者4人が自らの体験を語りました。
神奈川県の50代の女性は、幼いころにベッドの上で実の父親から性器を触られたり、父親が母親に激しく暴力をふるう様子を日常的に見せられていたことを初めて話しました。
虐待が常態化する中で、女性は「怖い」や「悲しい」といった当たり前の感情を感じなくなっていったといいます。

女性が書いていたノート

“苦しい 苦しい 助けて 誰もいない 誰もいない”
ノートには、誰にも気づいてもらえなかった当時の苦しみが刻み込まれています。

「親を殺したい」
この言葉を体の奥からからやっと吐き出せた時、女性は50歳を過ぎていたといいます。

去年、女性は家でひとりで号泣しました。その翌日、カウンセラーの前で、“なぜ、こんなつらい思いをして生きていかなければならないのか。なぜ私を産んだのか”と、初めて気持ちを出すことができたといいます。その後の人生でも、決して消えることがない、児童虐待の傷痕の深さを訴えました。

また、別の女性は、実の母親から受けた虐待について語りました。
母親から目を殴られ全盲になったことや、「私が好きなら行動で示せ」と言われ、母親の尿を飲まされたことなどを打ち明けました。女性は、要求に応じれば、いつか優しいお母さんになるかもしれないと、期待したといいます。
 

 

何かできることはないかなという気持ちになりました。

 

当事者から話を聞いたのは初めてで、想像を絶する内容でした。医療現場にいる立場で児童虐待防止の視点を持ち、取り組みたいです。

当事者のニーズに基づく児童虐待防止策に

サバイバーたちの声を踏まえ、児童虐待なくすために、いま何をすべきなのか。
今さんは100人以上の当事者の声をもとに、23の政策案をまとめています。集会では、これらの政策案について意見を交わしました。

今さんたちの考える政策案には、児童虐待の定義や子どもの人権、親権について子どもたちや教員らが学校で学ぶ機会を作ることが盛り込まれています。

これは、児童虐待や人権について正しい知識がない子どもは、たとえ被害にあっていてもそれに気付かないためです。知識を持つことで、被害を自覚してもらい、子どもの保護につなげようというものです。

また、防止策には、児童虐待の当事者が相談しやすいよう自治体などの相談窓口に当事者を配置してほしいということも盛り込まれています。

これについてサバイバーのひとりが次のように指摘しました。

サバイバーの1人
「虐待について周囲に相談しても、親に育ててもらったのだから感謝しなさいなどと言われ、さらに傷つくことが多かった。二次被害を防ぐために必要だ」

親権に関しても防止策が

また、親権に関しても多くの防止策が盛り込まれています。
親権には、子どもが親権者が指定した場所に住まなければならないとする「居所指定権」や親権者の許可がないと職に就けないとする「職業許可権」などが含まれています。
これらについては、親権者が虐待から逃れた子どもを保護した相手を訴えたり、子どものアルバイトに同意せず、子どもの自立が困難になるケースなどがあるということです。
防止策では、父母以外にも、子どもが役所での手続きや面談を経て、自ら親権者を選べる制度を導入してほしいなどと要望しています。

サバイバーの1人
「児童相談所に保護されたあと、親の承諾を得られず、希望する進学先に進めなかった。親権制度は本当に見直したほうがいい」

防止策では、ほかにも「虐待の影響で精神疾患を患っても、治療費を自己負担しているサバイバーが多いため、治療費をいったん行政が立て替え、あとから虐待した親に請求する仕組みを作ってほしい」など、長期化する児童虐待の後遺症への対策も盛り込まれています。

参加した国会議員
「民法改正には相当時間がかかるが、本当に必要なことは議員立法で迅速に対応できる。子ども庁ができてそういった方向に変わっていくといいと思う」

集会を企画した今一生さん
「障害者や性的マイノリティの人たちについては、当事者の声を聞き社会が変わってきている。児童虐待については、これまで専門家の意見を聞き、政策に失敗してきたと思う。当事者の話を聞き、その痛みを知ったうえで当事者のニーズに基づく児童虐待防止策にシフトチェンジしていく必要がある」

取材後記

自らの体験を打ち明けたサバイバーたちは、凄惨な児童虐待事件が相次ぐ中、ほかの子どもたちに自分たちと同じ思いをさせたくない一心で、虐待の後遺症に苦しみながらも、自らの実体験を発信したり防止策の提言をしたりしていました。
壮絶な体験をしながらも、勇気を出して、社会に発信し始めたサバイバーの声に耳を傾け、当事者の視点に立った児童虐待防止策を考えなければいけないと強く感じました。

  • 佐藤美月

    横浜放送局 記者

    佐藤美月

    2010年入局。甲府局、経理局を経てことし7月から横浜放送局。児童福祉や教育などをテーマに取材。

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