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コチョウランで “働きがいも経済成長も” 千葉 我孫子の企業の挑戦

  • 2021年12月3日

12月3日は「国際障害者デー」です。
千葉県我孫子市には、担い手不足の「農業」と就職して自立することが難しい障害者の「福祉」の問題を同時に解決しようと試みる会社があります。純白のコチョウランを、障害がある人が丹精込めて栽培し、SDGsの目標「働きがいも経済成長も」を達成しようという取り組みを取材しました。
(千葉放送局/記者 金子ひとみ)

コチョウランで黒字をめざす「農福連携」

74歳の誕生日を迎えたひとり暮らしをする女性のもとに、娘からフラワーアレンジメントのプレゼントが届けられました。真っ白なコチョウランがアクセントになっています。我孫子市の会社で働く、知的障害や精神障害のある人たちが作って届けました。

 

うわぁー。きれい。すばらしい誕生日になるわ

 

黒木貫智さん(20)
「うれしそうだった。また運びます」

 

浅井孝文さん(36)
「初めて配達に来て緊張したんですけど、渡したときに喜ぶ顔を見られて、ああ、届けてよかったなあという気持ちになりました」

この会社は、2019年に大手繊維メーカーが障害者雇用率を引き上げるために設立しました。千葉県内や茨城県に住む知的障害や発達障害、うつ病などの精神障害のある18歳から54歳までの15人が働いています。

会社設立当初から運営の中心で動いているのが、取締役の鈴木崇之さんです。担い手不足の農業で、障害者の雇用を拡大することに、可能性を見いだしたといいます。

帝人ソレイユ 取締役 鈴木崇之さん
「『障害者雇用と農業の相性がいい』と聞いて、この会社を作ればハンディキャップがある人の働く場にもなるし、障害者雇用率達成にも貢献できると思えたんです。うちの親会社の工場は、海外に行ったものが多いから工場仕事は少ないし、AIが出てくる中で事務仕事も先細りしていくんじゃないか。農業での障害者雇用拡大、マーケットとして可能性があるところだと思いました」

鈴木さんはかつて、うつ病を発症し、家庭菜園に出会ったことで、病を克服していったことが、農業にこだわる理由です。会社には“農作業が好き、農業を希望して働きたい”と来てくれる人がたくさんいるといいます。

畑で野菜を育てる一方、コチョウランの栽培に力を入れています。同じ農業でも、利益を確保するのが難しい野菜づくりに比べ、コチョウランは安定した収益を確保できるからです。昇進祝いやオフィス移転など贈答用の需要が高く、大企業ならではのネットワークをいかして直販することでコストを抑えています。顧客は法人70社、個人100人にまで増加しました。

台湾から輸入した苗を、半年間かけて20以上の工程で手間暇かけて一級品に仕上げていきます。障害の特性に応じて、細かく分業することで、生産性を上げています。

帝人ソレイユ 取締役 鈴木崇之さん
「収益性を確保しなくてはと、しいたけ栽培を検討したこともありました。紹介もあって、コチョウランにたどりついたときには、『あ、これだ!』って思いました。何かが導いてくれたというインパクトがありました」

“やりがいを感じる”働き手の思い

自閉症で知的障害のある山家颯馬さん(19)は、ことし春、特別支援学校の卒業後に入社しました。集中力と器用さが売りで、水やりや花の角度を整える作業を担当しています。

花の角度をスポンジと洗濯ばさみを使って調整する工程は、花びらを傷つけるおそれがあり、おそるおそる取り組む人も多い中、山家さんはちゅうちょなく、思い切りのいい手つきで進めています。

山家颯馬さん

楽しいです。水やりが、楽しいです。

茨城県取手市から通う廉谷貞治さん(43)は、中学時代にいじめられた経験などが引き金となり、強迫性障害を発症し、合わせて10年間ほど家にひきこもっていた時期もありました。1年半前、この会社に入社後は症状も落ち着き、「最高技術者」として、見栄えを整える仕立て作業を担当しています。

廉谷貞治さん

強迫性障害というのを理解してもらいながら、のびのびと働けています。コチョウランの花がとにかく傷つきやすく、傷ついたら工程がすべてだめになるので難しいです。これまでの仕事で専門性のある仕事をしたことがなく、こちらに来て初めて任せてもらえたので、やりがいを感じています。

営業黒字の達成をめざす理由は

コチョウランを手がけるこの会社では、障害者の雇用率を上げて終わりではないとしています。
2025年度に売り上げを1億5000万円にして、障害者を雇用する事業では難しいといわれる営業黒字を達成することをめざしています。

お礼状や定期的な手紙を送ってファンを増やし、リピート利用してもらうことを狙っているほか、販路拡大のためウェブサイトを通じた販売も始めました。

取締役の鈴木さんは、収益の黒字化によって働く障害者の処遇を向上させ、SDGsの「働きがい」と「経済成長」を両立させたいと考えています。

帝人ソレイユ取締役 鈴木崇之さん
「黒字化目標は、ハンディキャップ持って働いている方々の誇りのためなんです。やはり、赤字事業、赤字製品を作って仕事をすることは、仕事の意義を感じにくいと思います。非常に難しく苦しいですけれど、そこはがんばらないといけない。彼らは「戦力」なんです。障害者雇用として成功モデルになりたいと思っています」

取材後記

障害のある人が農業分野での仕事をするという「農福連携」は、さまざまな会社や事業所が進めています。その中で、私がこの会社を取材しようと思ったのは、取締役の鈴木さんの「黒字化を達成したい」という強い思いに心を動かされたからでした。
「雇用率引き上げのため、多少赤字になっても、とにかく障害者を雇えばいい」という発想ではなく、「障害の有無にかかわらず、みんな『戦力』。この事業で黒字を目指すことが経営側の責任だ」という発想が、かっこいいと思いました。

コチョウランの花言葉は「幸福が飛んでくる」だそうです。自分たちと社会をつなぐ純白の花を通して、「幸福」を届けようと働く山家さんや廉谷さんの姿を見ながら、私自身も「働きがい」について考えさせられました。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    2006年入局。札幌局などを経て社会部。いったん退職し、18年に4年ぶりに再入局。千葉県政担当を経て遊軍。障害のある人に関連したニュースをよく取材しています。

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