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低い山で遭難?丹沢の道迷いポイント行ってみた 身近な山に危険

  • 2021年12月2日

「どっちに行けばいいんだろう?」
関東で人気の神奈川県丹沢山地の登山道です。

新型コロナの影響で、3密を避け自然の中で楽しめる登山やハイキングが人気を集めていますが、標高がそれほど高くない身近な山にも、遭難につながる危険が潜んでいることが明らかになりました。
多くの人が迷うポイントに行ってみました。

全国道迷いポイント5選

上の地図に示された場所は、全国の山の中でも迷いやすいとされる場所5選です。データを集め分析したのは、登山者にアプリを通して地図や情報を提供している会社です。
この会社では、全国の280万人を超えるアプリの利用者から山での行動記録を提供してもらい、さまざまな分析を行っています。今回、道に迷った場所のデータを集め分析したところ、上記の5か所が浮かび上がりました。

そして、そのいずれの場所も、3000メートル級の高山ではなく、1000メートル前後の比較的身近な山にありました。

増える身近な山での遭難

実際、標高の高くない身近な山での遭難が増えています。
2か所の道迷いポイントがある丹沢山地、この山域を抱える神奈川県では、2020年、県内の山での遭難者数は176人。過去10年で最多を記録しました。
また、警察庁のデータ(2020年)でも、全国の山岳遭難者の4割以上は「道迷い」という結果になっています。

実は身近な山には、私たちの想像以上の危険が潜んでいるのです。

迷いやすいのはどんな場所?丹沢に行ってみた

迷いやすい場所5選のうちの2か所は、神奈川県の北西部に広がる丹沢山地にあります。
いったいどんな場所なのか、さっそく訪ねてみました。

はじめに訪れたのは、丹沢でも人気のある鍋割山(なべわりやま)の登山道の途中です。登山口の寄(やどりき)から歩き始め、眺めの良い櫟山(くぬぎやま)を超えた標高850m付近の地点です。
なだらかな尾根状の杉林を登っていくと、登山道が2手に分かれる場所がありました。(動画でも見ることが出来ます)

一方は、登ってきた道からほぼまっすぐに尾根の右斜面に延びていて踏み跡も明瞭です。
もう一方は、左にほぼ直角に曲がり尾根の上に向かって急に登っています。先がどうなっているか見通すこともできません。

少し立ち止まって考えた末、先が見通すことができるまっすぐな踏み跡をたどってみることにしました。

しかし、100メートルほど進むと踏み跡がなくなってしまい、道は途切れてしまいました。
どうやらこれは正しい登山道ではなかったようです。

来た道を引き返し、左に曲がるもう一方の道を登ってみると、すぐに道案内の看板が見えてきました。こちらの道が正しかったようです。

データを集めた会社によると、この場所で道を間違えた件数は、昨年の12月までの1年間で270件。全国で最も多かったということです。(※YAMAP調べ)

人里近くの山には多くの「道」

どうして山の中には登山道以外の踏み跡があるのでしょうか? 
登山者が使うのは登山道ですが、実は山の中には登山道以外にも多くの「道」が行き交っています。

今回の道迷いポイントは杉林の中にありましたが、例えば林業に携わる人たちは植林や伐採のため登山道と関係なく林の中を歩きます。

また、町と町をつなぐ山中には多くの送電線が張り巡らされていて、それを支える鉄塔が数多く存在します。その保守管理にあたる人たちも同様に登山道以外の山中を歩きます。
さらに人里近くの山では、椎茸栽培や山菜採り、狩猟など、さまざまな用事で山に入る人たちの踏み跡が残ります。

また、イノシシやシカ、クマなど動物が移動する際にできる獣道は無数に存在するなど、身近な山であればあるほど、山の中には縦横無尽に道が行き交っていると考えられるのです。

2人に1人が迷う?遭難者が語る

2か所目は、神奈川と山梨の県境にある大界木山(だいかいぎやま)です。
大界木山の山頂から峠に下りていく道の途中に、迷いやすいポイントがありました。(動画でも見ることが出来ます)

急な尾根道を下っていくと、道は尾根上にまっすぐ続いているように見えます。
しかし、右へ曲がるようにうながす案内板が現れました。とりあえずその方向に進んでみると、尾根から離れていく道が続いていました。

後で調べてみると、およそ2人に1人がまっすぐ下ってしまう(YAMAP調べ)という指摘を受けて、この場所を管理する地元の水道局がことし9月に案内板を設置したことがわかりました。

実際にこの場所を訪れてみて、もし案内板がなければ、きっと自分もまっすぐに下ってしまっただろう、と感じました。

この場所で、実際に道を間違えた男性に話を聞くことができました。
男性は、コロナ過の運動不足を解消しようと、去年から登山を始めました。3密を避けるためにも、比較的登山者が少なく、静かに山登りが楽しめそうなこの山を選んだといいます。

訪れたのはことし2月。天候も良く大界木山の山頂に予定通り到着し下山を開始、問題の尾根を下り始めました。

しかし、当時この場所に案内板は設置されておらず、男性は何の疑いもなく尾根道をまっすぐに下ってしまったのです。道迷いに気づいたのは、正しい道への分岐点を過ぎかなり下ってしまってから。踏み跡が徐々に不明瞭になり、何かおかしいことに気づきました。

100メートルほど来た道を登り返してみましたが、急な登りで体力を消耗し、夕闇が迫るのも気になり始めました。

男性
「自分が正しいと思って歩いてきた道でスマホの位置情報を見たときにルートから外れていて、すごく動揺しました。あれなぜ外れているんだろうとこのまま引き返しても体力も持たないし、日が暮れてしまう。戻るという選択肢が消えてしまって、斜面を下るしかないのかなっていう判断になってしまった」

焦った男性は、登山道があると思われる方向に見当をつけ、道のない斜面を下りはじめます。
しかし、傾斜はどんどん急になり、足を滑らせては斜面をずり落ち周囲の草木を必死に掴んで止まる、という状況に追い込まれます。

男性
「遭難が頭をよぎりました。滑り落ちてしまうと命も厳しいかもしれないと、すごく怖かったです。戻ることは、自分の気持ちを後ろ向きにさせてしまう。時間のロスや、体力のロスなど、戻ることは勇気がいると思いますが、道に迷った時には、分かるところまで戻ることが最善の策と思います」

男性は、その後運良く林道にたどり着くことができましたが、遭難してもおかしくない状況でした。

山岳ガイドが語る道迷い遭難防ぐポイント

標高が高くないからと侮ってはいけない。道迷いによる遭難を防ぐポイントを、低山歩きに詳しい山岳ガイドの渡辺佐智さんに話を伺いました。

(1)時間に余裕を持った行動計画 
「これからの季節は、日の出が遅く、日没が早いため、行動時間が短くなります。 
登山中の行動時間だけでなく、自宅から登山口までの行き帰りのアクセスも含めた行動計画をたてることがとても大切です。
例えば、登山の初心者であれば、“日没の2時間前”を目安に下山するスケジュールを立てるのがいいと思います。2時間前と聞くと早く感じるかもしれませんが、山の中で何かアクシデントがあった場合、1つのアクシデントでも対応していると1時間はあっという間に過ぎてしまいます」 

(2)地図で自分のいる場所を確認する 
「地図は必ず持って行きましょう。地図には、紙の地図や携帯の地図アプリなどがありますが、大事なことは、常に自分が地図のどこにいるのか分かるようにすることです。自分が地図上のどこにいるのか、確認しながら行動することを心がけて下さい。
また、道迷いのほとんどは“下山中”に起きています。下山を始める前や、分岐点にさしかかったら地図を必ずチェックし、自分のいる場所や向かう方向をこまめに確認してください」 

(3)それでも、もし道に迷ったら 
「もし万が一道に迷ってしまった場合には、迷わず来た方角に戻りましょう。 戻らないでこのまま進めばどこかで自分の道迷いが解消されるのではないだろうかという甘い予想は大体外れます。
それでも登山道に戻れなかったときは、救助を要請しましょう。救助要請には何度もやりとりが発生するため、携帯電話のバッテリーが消耗します。予備バッテリーは生命線だと思って必ず持参してください。
また、山の中で一晩を安全に過ごす備えも欠かせません。寒い夜を暖かく過ごすための防寒具、雨風をしのぐ雨具、暗闇を照らすヘッドライトは欠かせない装備です
また、ツエルトと呼ばれるコンパクトに収納できる簡易テントは、木々の間に張れば雨風をしのぐことができ、万が一の時にとても役立ちます」

ツエルト

冬は低山歩きのベストシーズン

夏の間、低山は気温が高く、木が生い茂っているため眺望も良くありません。
しかし、これからの季節は木々の葉が落ちて眺めが良くなり、ひんやりとした空気の中で山歩きが楽しめる低山歩きのベストシーズンです。道迷いに気をつけるだけでなく、十分な防寒対策や地域によっては積雪や凍結に備えた装備も欠かせません。
十分な装備と余裕を持った日程、最新の気象情報を入手して、山歩きを楽しみたいですね。 

  • 奥田悠

    首都圏局 カメラマン

    奥田悠

    ライチョウの保護活動や尾瀬の学術調査、登山道整備など"山”をテーマにした取材を続けています。

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