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通学路の安全 対策のカギは「習志野台8丁目方式」千葉 船橋の取り組み

  • 2021年12月2日

速度規制の「ゾーン30」や路面に段差があるように見せかけ減速させる「イメージハンプ」。ガードレールの設置など大きな工事を伴う対策に比べて、低予算でしかも短期間で実現できるとして整備を求める声が各地で上がっています。しかし、その実現にはハードルもあります。利便性の低下を伴うため、住民の反対があると自治体は慎重にならざるを得ないといいます。
こうした中、住民が一体となって要望することで、対策を前に進めている地域が千葉県船橋市にあります。通学路の安全をどう高めるのか、解決のヒントを探ります。
(千葉放送局/記者 渡辺佑捺)

対策のカギは“住民一体”

最高速度を30キロに制限する「ゾーン30」。

「ゾーン30」

 路面に段差があるように見せてドライバーに減速を促す「イメージハンプ」。

「イメージハンプ」

千葉県船橋市の東部にある習志野台8丁目地区でとられている通学路の安全対策です。これらの対策は、住民が要望してからわずか2年余りで実現しています。

対策を要望した1人、栗山正隆さん(76)です。きっかけは町内会長を務めていた6年前、近くに大型ショッピングモールが建設されることがわかったことでした。

地区にある通学路は以前から国道の抜け道になっていましたが、ショッピングモールができれば、交通量はさらに増加します。
子どもたちが事故に巻き込まれるのではないか、と危機感を強めたのです。
そこで、栗山さんは町内会に「交通安全対策委員会」を設置しました。地域の課題の解決に自分たちで取り組もうと考えたのです。

まずは現状を把握しようと、地区の全世帯およそ1700にアンケートを実施しました。すると、道幅が狭く、車と子どもがぶつかりそうになる場所など、特に危険性が高いと思われる箇所が14か所に上ることがわかったのです。

次に考えたのは対策です。注目したのは「ゾーン30」という規制。規制のエリアに指定されると、車は最高速度を30キロに抑えなければなりません。速度を抑えることで、大きな事故になるのを防ごうと考えたのです。

日本大学 小早川教授による交通調査

栗山さんたちは規制の必要性を訴えるため、データの収集に乗り出します。日本大学交通システム工学科の小早川悟教授の協力を得て、地区の交通量や車の速度を調べてもらったのです。
その結果、全体のおよそ60%が、大きな事故につながりやすいとされる時速30キロ以上で走行していることが分かりました。

調査結果をまとめたマップ

さらに、車道と歩道を分けるポールの設置やドライバーに減速を促す「イメージハンプ」の設置を求めることなども決めました。こうした調査結果をもとに船橋市に対策を講じるよう要望したのです。

 

栗山正隆さん
「『事故が心配だ』と叫ぶだけじゃダメで、解決策を具体的に考えなければならない。そして地域全体で要望していくことが大切だと考えました」

“住民一体”が後押しに

要望を受けた船橋市は、すぐに検討を開始しました。警察などと相談し、2年後には「ゾーン30」の指定が決まります。さらに、栗山さんたちが求めていたポールや「イメージハンプ」などの対策も次々に導入。要望を受けた14か所すべてに対策を講じます。
迅速な対応は、対策を住民が一体となって求めていたことも大きな要因だといいます。

当時 対策を担当した船橋市 道路計画課 佐藤智洋 課長
「住民から反対が出れば、市として必要だとわかっていても対策に踏み切ることは困難で、やはり住民の合意形成は重要です。今回は住民が一体となって賛成してくれたため、通常では考えられないほどのスピードで対策を進めることができました」

専門家“課題解決のヒントになる”

栗山さんたちの取り組みについて、交通問題に詳しい専門家は課題解決のヒントになると指摘しています。

交通工学に詳しい日本大学 高田邦道 名誉教授
「交通問題は住民の間で利害が対立しやすく、対策が進まない理由のひとつになっている。打開するには、住民が一体となって要望することが重要で、今回のケースは課題解決を探るヒントのひとつになる」

取り組みは今も続いています

地域一体で通学路対策を進める習志野台8丁目地区。その取り組みは今も続いています。そのひとつが「町会だより」です。

町会だより

委員会の取り組みを定期的に報告し、住民の声が対策に生かされていることを紹介。栗山さんは、通学路への関心を地域で持ち続ける効果を生んでいると感じています。

一方で課題もあります。対策がとられていない場所もあるのです。
栗山さんたちが当初、船橋市に対策を要請した14か所はすでに対策が講じられていますが、実はこのほかにも、対策が必要だと考えるか所が20余り残されているのです。
栗山さんたちは対策を粘り強く要望する一方で、こうした場所を中心に見守り活動を続けています。

栗山正隆さん
「行政も予算に限りがある中、すべての課題を一気に解決させることはできないと思う。だからといって、子どもたちの安全は先送りできないのも確かです。何ができるか、ひとりひとりが考えて取り組むことが、解決につながるのではないかと考えています」

取材後記

今回取材した習志野台8丁目の取り組みは、住民の声をアンケートで集め、その結果をもとに行政に提案をするという、シンプルですが非常にわかりやすい方法でした。住民からは反対の声も出たそうですが、住民どうしでとことん話し合うことで、合意形成を図ることができたということです。
船橋市はこの取り組みを「習志野台8丁目方式」と名付けて、全国の自治体に紹介することを考えています。
栗山さんはきょうも、習志野台8丁目町会事務所で住民の声を聞き続けています。そして私は、記者として様々な現場に足を運び、人々の声に耳を傾けていきたいです。

 
  • 渡辺佑捺

    千葉放送局 記者

    渡辺佑捺

    2021年入局。警察・司法取材を担当。通学路の安全対策について継続して取材を行っている。千葉の人たちが安全・安心に暮らせる情報を発信していきます。

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