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ヤングケアラーは“もっと身近にいる” 調査した研究員の思い

全国調査から見えたこと(前編)
  • 2021年11月24日

国はヤングケアラーをめぐり昨年度、初めて全国的な実態調査を行いました。この調査を実際に行ったのは政策研究などを行う民間企業で、背景にはひとりの研究員の“引っかかり”があったといいます。
「ヤングケアラーが“もっと身近にいる存在で、支援が必要なんだ”ということを明らかにしたい」
そんな思いから調査に当たった研究員に、調査に至るまでのいきさつや結果から見えたことなどについて、話を聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

実態調査に取り組んだのは

今回話を聞かせてもらったのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員、山田美智子さんです。
山田さんは調査をするにあたって、過去に関わった子どもに関する調査から、どうしてもヤングケアラーの実態を明らかにしたいという強い思いがあったといいます。山田さんの話は、前編・後編の2回に分けてお伝えします。

国の調査に応募した理由は?

大西記者

国の調査に取り組んだきっかけは何ですか?

山田美智子さん

会社ではこれまでも生活保護の受給者や、児童養護施設の利用者など、社会的な支援を必要とする人たちについての調査を実施してきました。こうした人たちの中には、ヤングケアラーと思われる子どもたちや、昔そうした経験をしたという人たちがいて、元々関心を持っていました。今回、厚生労働省の補助事業としてヤングケアラーの子どもたちに関する調査ができると知って、「ぜひやりたい」と応募し、採択されました。

「身近にいるはずなのに、いない」子どもたち

 

調査を行う前から問題意識を持っていたとのことですが、ヤングケアラーの子どもたちはどのくらいいると感じていましたか?

 

これまで関わった調査の中で感じていたのは、ヤングケアラーの子どもたちは「意外と身近にいるのではないか」ということでした。しかし、社会的な保護を必要とする子どもたちなどへ支援を行う団体「要保護児童対策地域協議会」に調査を行うと、管轄する地域にはヤングケアラーは「いない」と答える所も多かったのです。「身近にいるはずなのに、いない」ということに、とても違和感を覚えていました。
今回、子どもたちへ直接調査ができることになり、全国的な実態を明らかにすることで、ヤングケアラーが「もっと身近にいる存在であり、支援が必要なんだ」ということを明らかにするため、どうしたらよいのか考えました。

 

なぜヤングケアラーは「いない」ことになっていたと思いますか?

 

1つは「子どもが家族の介護やケアをしている」という視点が無かったことです。2つめは、子どもが抱えるトラブルについては、どうしても虐待など命に関わるケースが優先されるケースが多いことです。
ヤングケアラーの子どもたちは、日々大変な思いをしているものの、命に関わるケースだと認識されていなかったことから、結果的に大人の目からこぼれてしまっていたのだと思います。家庭の状況の把握だけでなく、子どもがふだんどのような生活をしているのかという視点がもう少しあれば違ってくるのではないかと感じています。

子どもが求めていることに耳を傾けて

 

調査をするにあたり、気を付けた点はありますか?

 

今回一番こだわったのは「あなたはヤングケアラーですか?」という質問を、全ての質問の最後にしたことです。ヤングケアラーの事例の絵を見せて質問すると、子どもたちは先入観を持って答えてしまいます。
具体的に言うと、子どもたちは「自分はそこまで大変な思いをしていないから違う」といった感じで、当事者であるにも関わらず「違う」と回答する子どもたちが多いのです。
このため、「家族の誰かの世話や手伝いをしているのか」、「1日何時間ぐらいしているのか」など、事実を淡々と聞いていくことにとてもこだわりました。
ひととおり事実を確認をした上で、「自分はヤングケアラーに該当すると思うかどうか、また日常の介護やケアを負担に感じているかどうか」を聞きました。

 

最近では、いくつかの自治体でも同様の調査が行われるようになりました。

 

それぞれの自治体が実態を把握することはとても大事だと思います。ただ、調査は「ヤングケアラーの子どもが何人いるのか」「全体の何%なのか」ということだけではなく、「子どもたちが何を求めているのか」ということに耳を傾けてほしいと思っています。
また各学校では、学期ごとに生活のアンケートをしている所が多いと聞きます。大規模な調査が難しい場合、このようなアンケートの中に項目を盛り込むだけで、困りごとの気づきになると思います。
大人たちが子どもたちの「求めている」ことを聞きっぱなしでは子どもたちもがっかりしてしまうので、「こういう相談窓口があるよ」「一緒に考えよう」と声掛けをすることも必要だと思います。

“子どもたちの声”が現状を変える大きな一歩となった

 

アンケートに協力した子どもたちへメッセージはありますか?

 

まずは「勇気を出して、答えてくれてありがとう」と伝えたいです。子どもたちがアンケートに回答し、自由記述などで率直な思いをぶつけてくれたからこそ、社会全体で考えるひとつのきっかけになったと感じています。
その結果、国も支援策を検討し、自治体や民間団体も少しずつできることに取り組み始めました。アンケートに答えてくれた子どもたちの声がなければ、できなかったことなのでとても感謝しています。

次回の「『全国実態調査』を行った担当者に聞く子どもたちのリアル」では、山田さんたちが行った実態調査の結果を通して見えてきた課題をお伝えします。

 

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。
ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから

  • 大西咲

    さいたま放送局 記者

    大西咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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