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調布市の住宅街陥没から1年 亀裂と隙間の家に今も暮らす住民

  • 2021年11月6日

去年10月、東京・調布市の住宅街で突然陥没が発生しました。地下47メートルでのトンネル工事が原因でした。
それから1年。ある住民は、基礎などに約50か所以上のひび割れや隙間などが生じた住宅に、今も暮らし続けています。
地表への影響は生じないと説明され「大深度地下」で行われてきたトンネル工事は、人々の暮らしだけでなく、工事そのものへの信頼性も大きく揺るがしています。
(首都圏局/ディレクター 三島康生・社会部/記者 内山裕幾)

亀裂と隙間、傾きの家は今も

かつて文豪・武者小路実篤も愛し晩年を過ごした静かな街が一変した陥没の発生から1年。
トンネルの真上から東に9メートルほど離れたところに住む河村宏さん(74)の家を訪ねました。

一見、庭木の手入れが行き届いたきれいな住宅に見えますが、河村さんは、赤い丸がびっしり記された図面を見せてくれました。
 

河村さん
「これが、去年12月に家の外側から調べた亀裂などが生じた場所を示した図面です」

家の周辺を見せていただきました。

玄関では、コンクリート製の踏み台と住宅の壁面との間に隙間が生じていました。
住宅を支える基礎にもひび割れが目立ちます。まるで地震に襲われた家のようです。いずれも陥没が起きてから見つかったものだと言います。

河村さんは、トンネル工事で家の地盤が緩み住宅に亀裂が入ったのではないかと考え、工事を行った東日本高速道路に説明を求めました。57か所の異常を記した図面は、会社側が去年12月に行った調査の結果です。
会社側は家屋の補修費用は負担するとしています。一方で、トンネル工事によって河村さんの自宅の地盤は緩んでいないとしています。簡易な調査の結果、トンネルの真上以外では地盤の緩みはなく、特に異常はないと説明されたというのです。
家の窓から眺める庭が気に入って、手入れをしながらこの家に住み続けたいと思っている河村さんですが、原因が明確になるまで住宅の補修工事は出来ないと考えています。

河村さん
「家を買うというのは、人生の一大事です。それを乱された。人生設計が台無しになったということです。この一帯、全く同じような現象が起きています。会社側や国にはちゃんと向かい合って質問に答えてほしい。誰の責任でこうなったのか説明してほしい。到底納得できない」

東京外かく環状道路と「大深度地下方式」

住宅街の地下で行われていたのは、東京外かく環状道路=外環道のトンネル工事です。建設計画が持ち上がったのは、昭和41年。関越道、中央道、東名高速といった大動脈を結ぶもので、当初は高架式での建設が計画されていましたが、地元住民などの反対で昭和45年に計画は凍結されました。
その工事を可能にしたのが「大深度地下方式」での建設です。国は「大深度地下使用法」=大深度法を制定するとともに、平成15年には正式にこの方式での工事の実施を表明しました。
地表から40メートル以上の深さの地下などを「大深度地下」と定義し、開発の際には基本的に用地買収や土地の所有者の同意を得ることは必要ないと定めました。
背景には、地上、地下ともに過密化する大都市圏で新たなインフラ整備を行う空間が足りなくなってきたことなどがあります。

「地表への影響は生じない」

トンネルの掘削工事は、4年前に始まりました。直径16メートルの巨大シールドマシンが世田谷区から掘り進み始めました。

外環道のシールドマシン

工事について東日本高速道路は、「適切に工事を行えば、地表への影響は生じないと考えている」と説明してきました。
しかし、陥没が起きる以前から、付近の住民は、朝から夜まで続く振動や騒音といった「影響」に悩まされてきました。

河村さんの家族は陥没の1か月前程前、家の中で聞こえる振動や騒音を録音していました。食器棚の食器が音を立てて揺れていたと言います。

※録音された音 静止画は揺れていた食器棚

河村さんの妻 晴子さん
「食器が、ほかのものより一番鳴り響いていました。チャリチャリと短時間だったらいいのですが鳴り続けるものですから、精神的に非常に耐え難いものでした」

不安は現実に

そして、住民の不安は現実になりました。
去年10月18日、シールドマシンが4キロほど掘り進んだところで、陥没が発生したのです。

河村さん
「いやな予感が現実になったという感じです。それまでずっと振動や騒音に悩まされていていました。ようやくシールドマシンが通り過ぎたらしいと聞いていた矢先に、陥没したと聞いて、これは大変なことになったと思いました」

以降、掘削工事はすべて中断されています。

調査結果「トンネル工事が陥没 空洞の要因」

東日本高速道路は有識者委員会を設置して原因調査を進めました。その結果、トンネル掘削工事が原因だったことを明らかにしました。

会社側は、地盤が緩んだとされるトンネルの真上、幅およそ16メートル、長さ220メートルほどの範囲について地盤を補修する方針を示し、その範囲にある約30世帯について、移転の費用補償の交渉を進めています。

この30世帯の中には、土地を離れる決断をした住民もいます。

17年ほどに建売住宅を購入し、家族4人で暮らしてきた50代の男性は、植物を育てることが趣味で、もともと駐車場だった南向きのスペースに庭や温室をつくってサボテンなどを育ててきました。

しかし去年11月、自宅の地下4メートルほどのところに長さ約27メートル、幅約3メートル、高さ約4メートルの空洞が見つかりました。空洞は埋め戻されたものの、将来の地震への不安などから家の買い取りに応じ、住み慣れた土地を離れる苦渋の決断をしたと言います。

男性のメールより
「サボテン栽培の趣味は、日当たりが大切ですが、日照にも恵まれ、毎年花も咲き満足していました。まだまだ使える綺麗な家でした。あきらめです。しかたがなかったと諦めます」

影響はトンネル真上以外の可能性も

一方で、会社が地盤補修を行う範囲の外に暮らす河村さんたちは、独自に専門家に調査を依頼しました。

調査を行ったのは地盤工学が専門の芝浦工業大学・稲積真哉教授。同じように亀裂や隙間が生じている4軒の家で深さ5メートルほどまでの地盤の強度を測定しました。

その結果、すべての地点でもともと地盤が軟弱であることが確認されました。このうち1か所で、トンネル工事の前よりさらに地盤の強度が弱くなった可能性があることが分かりました。
地下をカメラで撮影すると、1~2センチほどの亀裂のようなすき間、「空隙(くうげき)」が多数点在しているのが確認されました。

地盤工学が専門 芝浦工業大学 稲積真哉教授
「この一帯はもともと地盤が弱く、振動を増幅させやすい。こうした地盤に工事の振動によって『空隙』が生じてしまったのではないか。表層数メートルの補強をしなければ、今後の工事だけでなく、想定される首都直下地震や、豪雨で被害が出るおそれもあります。早急な対策が必要です」

東日本高速道路の対応は

10月15日、東日本高速道路の小畠徹社長は、調布市長のもとを初めて訪れ陳謝。稲積教授の調査で地盤の緩みが指摘された、トンネルの真上以外の場所の周辺で、追加の調査を行う考えを示しました。

 

小畠徹 社長(左から3人目) 長友貴樹 調布市長(右から3人目)

東日本高速道路 小畠徹社長
「どういった調査を実施していくべきか、有識者にも相談しておりまして、検討状況がまとまりしだい、皆様にもご報告させていただきたいというふうに考えております」

11月1日、河村さんの自宅前で「追加の調査」に向けた作業が始まりました。ここを含む3か所でボーリング調査を行うということです。

静かな暮らしを足下から脅かされた陥没から1年。河村さんは憤りを交えながらこう語ります。

河村さん
「この1年、この場所を離れることを考えなかったわけではありません。でも、いくら探してもここと同じような場所はありません。庭を見ながら広い空を緑の中で見ていたい。そうした希望が狭いながらもここでは叶えられています。約束通り地上には何の影響もありませんと言って工事が終わっていれば、これからも普通にここで生活を楽しめたはずなのです。本当に生活をかき乱されたということです」

大深度地下開発に与える影響は…

大深度の地下開発工事はほかにも計画されています。
リニア中央新幹線の建設でも大深度地下によるシールドマシンの工事が予定されていて、予定地では住民から不安の声も上がっています。
国は、シールドマシンの工法に関する専門家の検討会を立ち上げて、地上への安全対策も含めた指針作りに取りかかりはじめました。

大都市の地下を有効に活用するために進められてきた大深度地下の開発。今後、調布市の陥没のような事態が起きないよう、国や事業者には、徹底した地盤調査に加え住民が納得できる説明と対応が求められています。

 

  • 三島康生

    首都圏局 ディレクター

    三島康生

    1991年入局。名古屋放送局、報道局、高知放送局、国際放送局などをへて昨年より首都圏局で「首都圏ネットワーク」の制作に従事。大学・大学院では土木工学を学ぶも、この1年は、住民の皆さんの勉強量に圧倒された日々でした。

  • 内山裕幾

    社会部 記者

    内山裕幾

    2011年入局。社会部災害担当。大阪局などを経て報道局社会部。主に災害報道に従事し、現在は国土交通省担当。「家の安心」が脅かされることの重大さを取材を通して思い知りました。引き続き取材を続けます。

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