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男女別定員制「約800人不合格」の衝撃 生徒も親も消えない悔しさ

  • 2021年10月27日

9月24日、東京都教育委員会は都立高校の今年度の入試で「男女別定員制」の影響により、およそ800人が不合格になっていたと明らかにしました。この数はかつての受験生や保護者に驚きをもって受け止められています。
「制度がなければ合格できた?」「子どもに志望校を諦めさせた…」
都は、今後段階的に制度を見直し、撤廃する方針を示しました。これからの受験生にはどんな影響があるのでしょうか?(首都圏局/ディレクター 村山世奈・木村桜子)

約800人不合格の衝撃 9割近くは女子

この衝撃のデータは、ことし9月に都教委が男女別定員制を見直す方針を公表した際に、今年度の入試を分析した結果として示しました。男女別定員制で女子生徒の方が高い点数をとらないと合格できない状況はわかっていたものの、都が具体的な数字を明らかにしたのはこれが初めてです。

それによると、全日制普通科の74校で、点数だけで評価すると合格になるはずの生徒786人が、男女別定員制によって不合格になっていました。このうちおよそ9割、691人が女子生徒で、男女別定員制が女子にとってより不利な仕組みになっていることが改めてわかります。

また、最大でひとつの高校で32人の女子生徒が不合格になっていたそうです。しかし、具体的にどの高校で何名の不合格者がいたかなど、詳細は明らかにされていません。自分が男女別定員制の影響で不合格になったのかどうかを受験生は知ることができないのです。

男女別定員制がなぜ女子生徒にとって不利なのか? 詳細はこちらの記事で

志望校あきらめた娘 悔い残る母

受験生や保護者にとって、目的や影響が見えづらい男女別定員制。わが子が高校受験したときの納得できない思いが今も残っているという人がいます。

「うちの娘は、ランクを下げて男女別定員でない高校を受験して合格しました」
首都圏ナビの投稿フォームにこう送ってきた、40代の女性です。

女性の娘が入学を希望していた都立高校は、地域の上位校でした。校舎が新設されたこともあり、見学に行って気に入り、志望校に決めました。募集定員は男女別。女子の方が10人少なく設定されていました。模試会社の資料によると合格ラインは女子が800点。男子の欄をみると、それより低い785点となっていました。

女性
「私は他県出身なので、男女別なんだって驚きましたね。偏差値も別なので、女子はより頑張らなきゃなと思いました。言っても変わることではないので、粛々と受けとめて」

娘は受験勉強に打ち込んだものの、入試直前の模試では思うように得点できませんでした。男子の合格ラインは上回っていたものの、女子の合格ラインには数点届かなかったのです。

娘の下にはきょうだいが2人います。今後の教育費など、家計の問題から私立高校には通わせられないと娘には伝えてきました。都立高校に確実に合格するため、娘は志望校の変更を決めました。

「自分の模試が悪かったせいでランクを下げざるを得ないということで、そのときは納得していました。ただ、男子でけっこう上の学校に行けた人を見て『いいな』と言ってましたね。『やっぱりちょっと行きたかったな…』と。女子は頑張っても報われないのか、男子だったら入れたかも知れないと思うと悔しさが残ります」

もし制度がなかったら…割り切れない思い

もしも男女別定員制がなかったら。そう考えて割り切れない思いでいるという人もいます。

都内の定時制高校に通う生徒です。戸籍上の性別は女性ですが、自分自身では性別をどちらかに決められたくないと感じているといいます。中学校では制服など校則の厳しさがつらく、登校できない日が少なくありませんでした。

生徒
「高校は制服がないところもあり、通えるのではないかと思いました。中学で十分に経験できなかった学校生活に憧れていたので、次こそはと思っていました」

全日制普通科への進学を中学校の先生に相談しましたが、返ってきたのは「不登校だったから内申点が低いので、女子の枠では点数が足りない」という言葉でした。諦めて定時制高校に入学しましたが、男女別定員の報道を目にして、男女合同の合格ラインであれば、目指せる全日制高校があったかもしれないと思ったそうです。

「いまは定時制高校でも友達ができました。それでも、全日制に行っていたら別の未来もあったのかなと考えてしまいます。憧れの世界でがんばりたいと思っていたのに、なんだかなと思います」

制度の今後は

都は9月、今後段階的に男女別定員制を見直し、性別で定員を分けない入試に移行すると発表しました。制度を撤廃する方向にかじを切った形です。なぜいま、こうした方針を示したのか。都の担当者に聞きました。

東京都教育委員会の担当者
「多様性の尊重、男女の障壁をなくすことがより一層重要視される社会へと変化しています。東京都としても、男女平等参画社会について強力に推進しているところです。そうしたことを踏まえて、すべての都立高校で男女合同により入学者を決定することに移行する方針を決めました」

都は、定員の一部で性別に関係なく得点順に合格を決める「緩和措置」を段階的に拡大していくとしています。
今年度入試では、定員の10%の緩和措置を110校のうち42校で行いました。この措置を来年度入試は全校で実施します。その後、緩和措置の定員の割合を20%に増やすということです。

撤廃の時期については明らかにされませんでした。都は男女合同の定員に完全移行した場合、全体では女子の合格者が今年度より約600人増え、男子の合格者は約600人減少すると試算しました。

受験生への影響は 学習塾はこうみる

今後、都立高校を受験する生徒たちにはどんな影響が出るのでしょうか。都立高校受験の進学指導を行う大手学習塾に今回の動きをどう見ているか、聞いてみました。

ena中学部長 鈴木和智さん
「今回の動きは大歓迎です。頑張った人が性別を問わず正当に評価されるという意味では非常にいい流れなのではないでしょうか。指導方針には大きな変更はありません。ただ、合格最低点は緩和措置が進むことによって、男女別定員9割の合格ラインと、緩和による男女合同定員の1割でどういった子が合格するか、データ分析が出てきます。それに応じて女子がんばれ、男子がんばれと進路指導の時にデータを生かしていく場面は出てくるでしょう。男女で異なる進路指導をしていた学校も、緩和によって同一化する必要があるかもしれません。女子の方が今より有利になる高校があれば、男子にも頑張れと言わないといけない。男子だから女子より楽に入れるという感覚は捨てさせないといけないですね。男子だったらこれぐらい点数を取っておけばいいだろうと思っていたところが、残り1割のところで戦って入らないといけなくなると考えると、やはり学力はしっかり高めておかなければなりません」

取材後記

およそ800人が男女別定員制の影響で不合格になっていたことは、大きな驚きでした。そこには95人の男子も含まれています。点数の多寡ではなく性別が結果を左右する。男女で定員を分けるという、全国で東京だけに残る制度が受験生に及ぼした影響を思わずにはいられません。

娘が志望校をあきらめたという女性は、就職氷河期世代。なんとか入社した会社で「女性は顔の好みで採用した」と言われ、正当に評価してもらえないと感じた経験があるそうです。
「次の受験生のためにも、できるだけ早くジェンダー平等の土台をつくってほしい。女子が学力に見合った評価を受けて、高いレベルの教育を受ける道を閉ざさないでほしい」

男女が分け隔てなく得点で評価される都立高校入試がいつ実現するのか、これからも見つめていきたいと思います。

  • 村山世奈

    首都圏局 ディレクター

    村山世奈

    長崎県出身 2015年入局。沖縄局で戦争や米軍基地問題を取材し、2019年から首都圏局で災害や新型コロナを取材。

  • 木村桜子

    首都圏局 ディレクター

    木村桜子

    2012年入局。大阪局、神戸局などを経て2020年から首都圏局。保育や教育、ジェンダーの問題に関心を持ち取材中。

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