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  • 2021年10月21日

東大が悩む女子学生「3割の壁」 世界に遅れるジェンダーギャップ解消

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「2020年までに学生の女性比率30%の達成を目指す」 
10年前、東京大学が掲げたこの目標は、2021年の今、まだ達成できていません。世界の主要大学と比べても東大のジェンダーギャップの大きさが目立ちます。

女子学生への奨学金や家賃補助、女子中高生向けの説明会を開くなど、東大は取り組みを強化してきましたが、状況はなかなか好転しません。その背景には、東大を目指す女子に対する無意識の偏見=アンコンシャス・バイアスの影響があるという声も。「東大」と「女子」をめぐって今も残る偏見とは一体どんなものなのでしょうか。 
(首都圏局/ディレクター 村山世奈)

2020年までに3割 目標は達成できず

東京大学 藤井輝夫総長 
「私たちも本当にいろんな工夫、ありとあらゆる努力をしてきましたが、女子学生はなかなか増えないですね。むしろ皆さんから『こうやったら高校生がもうちょっと東大受けたくなる』いいアイデアがあればぜひ教えていただきたい」

これは10月10日、女子中高生向けに行われた東大の説明会(今年度はオンラインで開催)での藤井輝夫総長の言葉です。 
女子学生の比率を高めようと対策を打ってきた東大。しかし、在学の女子学生は24.2%。学部生にいたっては19.7%と2割を切っています(2021年時点)。 
9月に出された大学の基本方針では再び「学生における女性比率30%を目指す」とし、女子中高生だけでなく、教師や保護者にも働きかけを行っていくとしています。

女子中高生向け説明会(2019年)

東大のジェンダーギャップ 世界との大きなずれ

東大が女子学生比率の低迷に危機感を抱いているのは、多様性の面で海外の主要な大学に大きく遅れをとっているためです。

多様な属性の学生が集まることで、研究やイノベーションも多様性を増すというのが世界的な常識になる中で、女子学生の比率が2割台にとどまる東大は、やはり多様性が乏しいと言わざるを得ない状況です。 
さらに、女子学生が少ないことによる問題は他にもあると男女共同参画室の高橋美保教授(教育学研究科)は指摘します。

東京大学男女共同参画室進学促進部会長 高橋美保教授 
「これから国際化が一段と促進していくので、海外の優秀な学生たちに東大に来たいと思ってもらうために『選ばれる大学』である必要があります。今のように女性が少ないという偏りがある状況で、果たして『ここに行こう』と思っていただけるかどうかよく考えなければなりません。逆に本学からも留学制度を使って世界に学生が学びに行っていますが、学生たちが一般教養として多様性や包摂性というものを身に付けていなければ、海外の学生たちと国際人としての対話がきちんとできないのではないでしょうか」

女子学生比率向上の重要性が高まる一方で、さまざまな対策を講じてもいまだ3割に届かない理由には何があるのでしょうか。

高橋さん 
「この状況に大いに危機感を持っています。2006年から活動を行ってきましたが、なかなか数が増えません。女子高校生に『東大に来てほしい』と伝えるだけでは難しいのではないかと感じています。もしかすると家族、学校、社会といった周りの考えや価値観が相当影響しているのではないか。東大進学を応援してもらえない、抑制するような意見があるように感じますし、地方にいる女子高生には、それが特に強いのではないかと思います」

私たちが直面した「壁」現役東大生に聞いてみた

東大を目指す女子を取り巻く“抑制”。現役の東大生たちもその存在を感じてきたのでしょうか。東大に通う女子学生のリアルな声を発信するフリーペーパーを作る活動をしている学生団体『biscUiT』のメンバーに話を聞くことにしました。

河紐羅(は・ゆら)さん 
「両親の影響が本当に大きいと思います。私が受験生のときも、地元から出ることや浪人することを反対されている女の子が周囲に何人もいました。東大に来ている女子は『両親にはあなたが好きなようにしてと言われた』という人が多数派。そうでない両親を持ち、東大に来たかったけど他の大学を選んでいってしまったっていう人は必ず存在すると思います」

『biscUiT』が分析した女子学生の少なさの要因の一つに「地元志向・現役志向」があります。浪人することや地元を出てひとり暮らしをすることを「女の子だから」やめさせたいと考える親が今も少なくないというのです。その親の意向が東大に挑戦する際の足かせになっていると指摘します。

メンバーの中にはこんな経験をした人も。

八尾佳凜さん 
「東大に合格したよって親族に伝えた時に『確かに合格したことはおめでたいけど、在学中に良い人が見つかったら結婚してもいいよ』という趣旨のことを言われたんです。私が学問的に頑張ろうと努力していることを認めてはいるけど、一方で『東大女子は結婚できない』と、あからさまな形ではないにせよ、私に伝えているんだなと初めて気付きました」

入学後も女子学生には困難が

女子学生が少ないことで実際の大学生活でも居心地の悪さを感じるといいます。

河さん 
「フリーペーパーのアンケートで『女子が少ない環境』について聞いたことがあるのですが、男子学生の回答の中に『教室の雰囲気を支配できる』と答えている人がいたんです。すべての男子がそうとは限りませんが、一部にそうしたふるまいをする人がいることで、余計に女子学生が居心地悪く感じるのだと思います。女子が常に少数派なので意見を言いづらいし、何か発言したときにそれが女子全体を代表する意見としてとらえられることにすごく不安があり、自分の意見を言いにくいことが結構ありました」

アンケートではこんな声も。

男子学生 
「多くの同級生と男子校のノリで話せる」 
「女子との慣れないコミュニケーションを強いられないので気楽」

女子学生 
「友達が作りづらい。どうしても男性の中に完全に入ることは難しい」 
「授業での議論の際に、男性が多い場では女性の権利に関するテーマがあまり注目されなかった」

東大目指す次の女子へ

東大を目指す女子に向けられる有形無形の“抑制”。この状況を打開するためには、やはり東大で学ぶ女子の数を増やしていくしかないと『biscUiT』のメンバーたちは考えています。

そこで、周囲の声や空気をはねのけて東大に挑戦する女子学生を増やすために、新たな取り組みをスタートさせました。女子中高生向けのフリーペーパーを高校へ配布することで、直接声を届けようというものです。

去年制作した第1号はコロナの影響で配ることができませんでしたが、10月に第2号を制作しました。地方を中心に、全国各地の高校の進路指導担当の教諭に電話やメールで連絡を取り、学校に冊子を置いてほしいと交渉。約100校から了承を得ることができました。休憩時間に気軽に手に取ってもらい、進路の一つに東大を選ぶ女子生徒が少しでも増えればと考えています。

河野凜華さん 
「世の中に男女は半分ずついるのに東大には女子学生が2割で、すごく偏っていると思います。でも私は東大に入って、優秀な人から刺激を受けてパワーアップできましたし、この東大の環境は男女平等に与えられるべきだと考えています。東大の女子学生があまり身近いにいない地方の女子中高生に私たちのリアルな声を読んでもらうことで、自分に正直に、自分が行きたいからここに行くんだという主体的な選択をしてほしい」

取材後記

2019年の東大の入学式。名誉教授の上野千鶴子さんが新入生や保護者の前で読み上げた祝辞の内容が大きな話題になりました。 
東大の女性比率の低さ、親のジェンダーバイアス、そして入学後に女子学生が直面する理不尽さについて赤裸々に語られたためです。

その式辞の中で、上野さんはノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの父親の言葉を紹介しました。娘をどう育てたのか尋ねられた際に「娘の翼を折らないようにしてきた」と答えたというのです。

『biscUiT』への取材を通して、今も多くの女子が「浪人」や「結婚」の心配、「東大までいかなくても」という声の中で進路を決めている現実を知りました。女子が女子だからという理由で翼を折られることなく学び、活躍できる社会の方が誰にとっても良いのではないかと私は感じます。皆さんはどう考えますか?

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