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観光を諦めない!徹底調査で“伊香保バリアフリーマップ”作成

  • 2021年10月12日

首都圏からのアクセスが良く、毎年多くの観光客が訪れる群馬県渋川市の伊香保温泉。そのシンボルとも言えるのが長い石段ですが、障害者や高齢者には訪れにくい場所でもあります。そんな伊香保温泉を“誰でも楽しめる観光地”として発信しようと、渋川市はことし9月、バリアフリーマップを作りました。そのマップ、車いすの人の視点をとことん生かしたつくりとなっています。
(前橋放送局 沼田支局/記者 阿部未和)

伊香保温泉はハードルの高い観光地?

宿泊者だけでも年間に100万人以上が訪れる伊香保温泉。関東有数の人気の温泉地の一つですが、そのシンボルとなっている石段の長さは365段。

高齢者や障害者が上るのは難しく、実際に訪れる人を見ても、若い人が目立ちます。

観光客

久々に上ってきて、やっぱり息がとぎれますね。

観光客

さすがに体力が落ちているのできついですね。コロナで運動不足もあるので。

こうしたなか渋川市は、東京オリンピックパラリンピックの共生社会ホストタウンに登録されたことをきっかけに、どんな人でも観光を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」を実現しようと、伊香保温泉のバリアフリーマップを作成しました。石段をう回できる道路のほか、多機能トイレや優先駐車場の場所などが細かく描かれています。

車いすユーザーの視点を盛り込んで

マップの作成にあたって、市は、車いすユーザーの視点を生かそうと、障害者などさまざまな人でつくる団体「DET群馬」に協力を求めました。団体の代表を務める飯島邦敏さん(49)は10年前、10万人に1人とされる神経難病を患い、現在は電動車いすで生活しています。飯島さんも伊香保温泉には昔から「ハードルが高い」とのイメージを抱いていたといいます。

DET群馬代表 飯島邦敏さん
「伊香保温泉は坂と階段がきついから車いすでは大変だし、自分が大変なだけじゃなくて、一緒に行った方に迷惑をかけたり、大変な思いをさせたりして、一緒に行った人が楽しめないのではないか。だったら違う場所を選んだ方がいいのかなっていうのをすごく感じていました」

坂の傾斜をとことん計測

地図を作る前、飯島さんたちと市の職員は、実際に温泉街を見て回りました。その際に重点的に調べたのが石段の、う回路となる脇道の坂の角度です。

例えば、角度が5度の場合、短い距離なら車いすの人も自力で移動できますが、8度だと、介助者がいないと上れないなど、ちょっとした違いで、移動できるかが変わってくるといいます。このため、温泉街にある30か所の坂道で地面にスマートフォンをおいて角度を測り、マップに載せました。

DET群馬代表 飯島邦敏さん
「傾斜がバリアフリーマップに出ているのは、私も見かけたことがなかったんですけど、あえて示すことで、自分はこのぐらいの傾斜なら、1人で上がれる、もしくは介助者や家族がこの角度なら押せるねということで、旅を楽しんでもらう一つの目安にしてもらえると思って、マップに入れました。車いすだけじゃなくて、ベビーカーとかシルバーカーを使っている高齢者の方も、脇道をうまく利用すれば、楽しめることを知ってほしいと思います」

多機能トイレの設備も徹底調査

坂道の角度のほかにも、こだわったのが多機能トイレの設備の詳しい情報です。温泉街にある7か所の公共の多機能トイレを見て回り、オストメイトに対応しているかや、温水洗浄便座があるかどうかなどはもちろんのこと、便器の脇についているL字型の手すりは右側と左側のどちらについているかなどを徹底して調査し、地図に記載しました。

DET群馬代表 飯島邦敏さん
「やっぱり旅を安心して楽しむ時に、車いすユーザーってトイレがあるかないかとか、使えるか使えないかとかって非常に気になるんですよね。右まひ、左まひの方とかもいらっしゃったりして、手すりはどっち側が使いやすいというのもあるので。手すりの位置の表記は、ぜひ他のマップでトイレを表記する時にも参考にしてほしいと思って入れました」

観光はみんなで楽しむもの

飯島さんたちは、温泉街だけでなく周辺の美術館や遊園地、牧場など市内11の観光施設も調査し、多機能トイレの設備やスロープの有無、車いすでも観覧車に乗れるかといった情報も盛り込みました。

旅行はみんなで楽しみ、思い出を共有すること。そして「誰も諦めずに旅行を楽しんでほしい」という思いからです。

DET群馬代表 飯島邦敏さん
「観光に来たときに、温泉に入っていただくのももちろんいいんですが、いろんな観光施設を回って、一日とか二日っていう旅を満喫していただきたいので、車イスでも回れるかというのを改めて調べました。思ったほど傾斜もきつくなかったので、ご家族で来ていただくのにいいかなと思いました」

知っていれば車いすでも来られる!

「ここいいよね」「ここ最高!」
取材の途中、飯島さんたちが自然に声を上げた場面がありました。石段街を上から見下ろせる場所です。

調べてみると車いすユーザーでも、石段街の上まで来られるルートがあり、上からの景色を眺めることができる。飯島さんはマップの作成に参加する中で、それを知る手段が今までなかっただけなのだと、気づいたといいます。

DET群馬代表 飯島邦敏さん
「群馬に住んでいますけど、365段の石段の一番上に車いすで来られることは正直知らなかったんですよね。でも、ちゃんとルートを知っていれば、車いすでも来られる。高い所から車いすで眺望を見られることって少なくて、日頃の疲れや嫌なことがすっとんじゃう感じですね。こういうことは情報発信をうまく活用して、伊香保の新しい楽しみ方をたくさんの方に知ってもらって、訪れてもらえたらと思っています」

取材後記

飯島さんは、「今回のマップが、これから新たにマップづくりを計画している人たちのヒントになればうれしいです」と話していました。私たちは必ず年をとります。また、いつ立場や環境が変わるかも分かりません。だからこそ、“誰もが快適に暮らせる社会”を目指すことは、“自分や大切な人を守ること”にもなるのだと思いました。少し想像の幅を広げて社会を見つめることで、きっと新たな気づきが生まれます。その小さな気づきが、社会を動かす波となることを願わずにいられません。
このバリアフリーマップは渋川市内の観光施設や旅館で配布しているほか、市のホームページでも公開しています。

  • 阿部未和

    前橋放送局 沼田支局 記者

    阿部未和

    渋川市など主に群馬県北部の取材を担当。

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