WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. コロナ特別休暇制度が復活も 「使えない!」の声が相次ぐワケ

コロナ特別休暇制度が復活も 「使えない!」の声が相次ぐワケ

  • 2021年10月6日

「保育園がコロナで休園になった。20日以上あった有給はどこに消えたんだ!」
「有給の残日数が一桁」

子どもへの感染が広がった第5波では、突然の保育園休園に翻弄された親の叫びがSNS上に飛び交いました。こうした声を受けて、先週、厚生労働省は臨時休園や臨時休校に伴う“コロナ特別休暇”の制度を再開させました。しかし、制度の復活を求めていた子育て中の親たちからは落胆の声が。制度が使いづらく、周知も不十分なため利用できなかったという声が少なくないのです。
コロナ禍の仕事と育児の両立を補償するとうたっている制度を“絵に描いた餅”ではなく、必要な人に届くものにするために何が必要なのでしょうか。制度を利用するためのアドバイスも紹介します。
(首都圏局/ディレクター 熊谷百合子)

待ち望まれた制度再開 でも使えない?

先週9月30日、厚労省は「小学校休業等対応助成金」の受付を再開しました。この制度は、昨年度の全国一斉休校を受けて作られたもので、子どもの通う保育園や小学校が新型コロナで臨時休業となったとき、仕事を休まなければならなくなった保護者に対して正規・非正規雇用にかかわらず“コロナ特別休暇”を付与するものです。
有給休暇とすることで、仕事を休んでも収入の影響を心配せずに子どもの世話をできるようにするためにととのえられた制度でしたが、昨年度いっぱいで終了。今年4月からは後継制度として「両立支援等助成金(コロナ特例)」が運用されてきました。しかし支援規模が小さく、制度として使いづらいという声が上がっていました。こうした声を受けて、9月上旬に厚労省が昨年度の制度を再開することを公表すると、SNS上でも歓迎の声が上がっていました。
 

「まさに待ち望んでいた」

 

「再開される。めっちゃありがたい」

 

「復活するっぽい 休園しんどいけど良かった」

 

制度の比較

  昨年度
「小学校休業等対応助成金」
今年4月~
「両立支援等助成金」
(対象期間:4月1日~9月30日)
再開した
「小学校休業等対応助成金」
(対象期間は8月1日~12月31日)
助成額

1人1日あたり15,000円上限

1人あたり50,000円

1人1日あたり13,500円上限
(緊急事態宣言・まん防地域は15,000円)

人数の制限

事業主あたりの人数制限なし

1事業主につき10人まで
(上限50万円)

事業主あたり人数制限なし

予算

1,719億円

他の支援制度含め113億円
(男性の育児休業取得・介護離職防止など)

前年度予算の繰り越し


制度の再開が決まったことを私がまっさきに伝えたいと思ったのが、前回の取材で話を聞かせてくれたAさんです。都内の中小企業で正社員として働くAさんは、今年6月と8月、子どもたちが通う保育園が新型コロナで臨時休園になり、年次有給休暇(いわゆる勤労休暇)を切り崩しながら対応してきました。休園のために使った有給はあわせて20日間。有給休暇は残り4日となっていました。その後、子どもがRSウイルスに感染し、手持ちの有給休暇は1.5日にまで減っていました。

ディレクター

今回の厚労省の見直しで、8月分の有給休暇に関しては、特別有給休暇で対応できそうですよ。申請してみますか?

Aさん

申請したいです!

翌日、勤め先の上司に相談したAさんから思わぬ返事が返ってきました。

Aさん

「8月分の休みを特別有給休暇に変更するなら“欠勤扱い”になり、査定に響く」と言われてしまいました。

なぜ欠勤扱いになるのかとAさんが尋ねると、上司は「『特別有給休暇を取得できる』という規定が就業規則にないから」と答えたといいます。一体どういうことなのでしょうか?

Aさん
「職場の上層部に聞くと『特別有給休暇制度が使える就業規則にしていない』ということでした。就業規則を変えるには社会保険労務士に依頼する必要があり、20万円の費用がかかるらしいです。『子育て中の社員の割合が少ないから、コストをかけて規則を変えるメリットがない』とも話していました。私が保育園の臨時休園で仕事を休んだぶんの業務を他の同僚がカバーしてしているので、不公平感を感じさせてしまうとも言われました」

厚生労働省は、特別有給休暇制度を使えるように就業規則をととのえるのが望ましいとしていますが、必ずしも就業規則を変えなくても制度を利用できるとしています。また、就業規則に特別有給休暇の制度を足す場合も、手続きの費用は数万円程度で済むケースもあるといいます。
結局、Aさんは特別有給休暇を申請することを諦めました。

Aさん
「『査定に響く』っていう言葉は重かったです。しかも8月中は、コロナの臨時休園とRSウイルスで会社に出勤できたのは6日ほどで、在宅勤務が3日。全然、仕事に行けなかったんです。休んだ日をすべて欠勤にしたら、8月分の給与へのダメージは大きいです。年次有給休暇を取らせてもらえただけマシだと思うことにしました」

予算は4割しか使われず なぜ利用が広がらない?

制度の再開を知らせる厚労省の通知文書には、会社側に制度を導入するように働きかける文言が加えられています。

赤字で強調された「保護者が希望に応じて休暇を取得できる環境を整えていただけるようお願いします」の文言。しかし実際にはAさんの勤め先のように、制度を活用することに消極的な企業が少なくありません。

実は、昨年度の制度も利用の広がりには課題がありました。多くの働く親に利用してもらおうと1719億円という潤沢な予算が組まれたにも関わらず、実際に使われたのは659.4億円。予算の執行率は4割未満にとどまっています。なぜ、利用が広がらないのでしょうか。

職場が制度を勘違い 利用できず

勤め先が制度を十分に認知していなかったために利用できなかったと話すのは、都内在住のBさんです。
保育園に通う子どもと、個人事業主として自営業で働く夫と3人で暮らしています。
昨年6月の最初の緊急事態宣言が明けたあと、住んでいる自治体からの登園自粛のお願いに協力したBさんは、仕事を2週間休んで家庭保育に切り替えていました。退勤表ではいったん欠勤と登録し、あとから特別有給休暇の申請手続きをする心づもりでいました。しかし、制度を利用したいと申し出た時、職場の担当者の認識はBさんとは全く違っていました。

Bさん
「担当者はコロナで業績が悪化した企業が従業員を休業させたときに利用できる『雇用調整助成金』や『休業支援金・給付金』という別の制度のことと勘違いしていました。『うちは業績が悪化しているわけじゃないからこの制度は使えない』の一点張りで、取り合ってもらえませんでした」

「小学校休業等対応助成金」と「雇用調整助成金」、そして「休業支援金・給付金」。制度の違いが理解されなかったために、Bさんの勤め先が制度を導入することはありませんでした。
Bさんは諦めきれず、SNSで「小学校休業等対応助成金の個人申請を求める親の会」とつながって、勤め先が制度を導入していない場合でも個人単位の申請で利用できるようにしてほしいと、署名活動に参加しました。今年3月、個人申請は認められることになりましたが、Bさんは申請を思いとどまりました。手続きの要件として職場の同意が求められていたからです。

Bさん
「私の場合、職場に制度の導入を求める段階で労使関係が悪化していたので、個人申請の手続きで再び対立してしまうと、今の職場で仕事を続けることが難しくなると感じました。これまで家庭保育していたぶんの賃金が戻ってこないのは悔しいことですが、職を失うことと天秤にかけたときに、これ以上揉めるのは得策ではないと判断しました」

なぜ教えてくれないの? 非正規雇用の女性は蚊帳の外に

一方、制度を必要とする親の側にも情報が届いていないことも分かってきました。首都圏在住の女性は、去年の秋、子どもの通う幼稚園が新型コロナで臨時休園になりましたが、パートで働く職場では欠勤扱いとされ、何の補償も受けられなかったといいます。

女性
「こんな制度があって、個人申請すれば私も使えるということをまったく知りませんでした。勤務先は自治体の委託を受けている民間企業で、従業員には『公務員と同じ仕事をしているという自覚をもって職務にあたるように』と言いますが、公的な制度があっても何も知らせてくれないし、使わせてくれません。そのことにモヤモヤした気持ちをかかえています」

課題は残されたまま…復活した制度は必要な人に届くのか?

せっかく制度が再開したのに、コロナ特別休暇を使いたくても使えないという歯がゆい状況。首都圏青年ユニオンとともにこの制度を見直すように働きかけてきた名城大学准教授の蓑輪明子さんは、制度が復活したことは評価するものの、利用できる人がどこまで広がるのか注視する必要があると指摘しています。

名城大学准教授 蓑輪明子さん
「第5波の感染急拡大による臨時休園や小学校の夏休み延長、その後のオンライン授業に対応して仕事を休まなくてはならない保護者が続出する状況だったので、制度の復活は当然だと受け止めています。しかし、再開する時期があまりにも遅すぎます。個人申請のハードルが高いこともあって、昨年度は執行率(利用した人の割合)が低くなりました。今年度、個人申請にハードルがあるという制度の欠陥を解消しないまま再開させたので、必要な人が利用できないのではないかと懸念しています。どこまで必要な人に届くのか、そもそも有給休暇を付与されていない非正規の女性たちがコロナ特別有給休暇を使うことができるのか、注視していかねばと思っています」

蓑輪さんは105日、改めて厚生労働省に対して緊急声明を提出しました。非正規労働者が制度を利用しやすくなるよう、個人申請の要件を緩和するなどの措置をとるように求めています。

企業には“アメ”を 必要な人に制度届けるために

制度の利用が広がらないという課題が解決されないままに復活した「小学校休業等対応助成金」は、このまま“絵に描いた餅”になってしまうのでしょうか。
必要な人に支援が届く制度とするためには、企業がこの制度を導入したいと思えるように政策誘導する工夫が必要だと指摘する研究者もいます。労働経済学と社会保障政策が専門の日本女子大学教授の周燕飛さんです。

日本女子大学教授 周燕飛さん
「利用が想定よりも少ない理由としては、制度を導入するかどうかが企業の判断に委ねられたことが大きいと思います。コロナ特別有給休暇の付与を事業主に義務づけるものでもなく、導入しないことに罰則規定があるわけでもないので、企業側には制度を活用する動機がありません。制度を実行力のある有効なものとするためには、アメとムチのどちらかが必要だと思いますが、私は必ずしもムチ、罰則が必要だとは思いません。制度を導入すれば税制面で優遇されるとか、代替要員を雇用する費用に一部助成を受けられるなどのアメを用意することで、企業にとって受け入れやすい制度にする工夫が必要だと思います」

また、制度の名称が難解で支援の中身を想像しにくいという問題も影響していると指摘します。

周さん
「厚生労働省のホームページで制度内容を読んでみましたが、一般の親には理解しづらい制度だと感じました。保育園や小学校の掲示板など、親たちの目がよく届く場所にはり紙をするとか、若い世代がよく見るSNSに情報発信するとか、もっと周知を工夫するべきだと思います。企業に対しても、労働局を通じて補助金が使える制度だと知らせる通知文書を出すなど、導入を働きかける工夫をすべきです」

コロナ特別有給休暇をとるためのポイントは?

制度を利用したくても企業が導入していない、個人申請したいが労使関係のトラブルに発展するのは避けたい、と二の足を踏んでいる人も少なくないと思います。復活した制度を使う際のポイントを弁護士の長谷川悠美さんに聞きました。

▼勤務先の総務や人事に「小学校休業等対応助成金」制度を導入しているか確認する
▼導入していない場合は導入を働きかける(同じ悩みを持つ同僚と一緒にするとより効果的)
▼労働組合があれば組合を通じて使用者側に求めてもらう

それでも企業側が制度を導入しないという場合には、個人申請の手続きをすることになります。個人申請には事業主の記載を必要とする書類があるため、申請することを勤務先に認めてもらう必要があります。長谷川さんは、労使関係の悪化を防ぐために事前に勤務先に手続きの内容を伝えておくことが大切だといいます。

長谷川悠美弁護士
「個人申請の手続きを始めると、労働局側が勤務先に制度を使うよう働きかける流れになります。労働局から連絡がくると、企業側は労使間のトラブルに労働局が介入してきたと誤解する可能性があります。
個人申請をする場合は、(1)労働局から連絡が入ること、(2)あくまでも個人申請のために必要な手続きで、労使対立をあおる意図はないこと、(3)申請には事業主記載欄の記入や給与明細などの証明書の提出に協力してもらう必要があること、の3点をあらかじめ勤務先に伝えておくことがポイントです」

最後に長谷川さんは、制度を使えずに困っていても諦めないでほしいと話しました。

長谷川弁護士
「法律家の立場からみても今の制度には欠陥があると感じます。今後、感染症による休校や休園に対応した保護者への特別有給休暇の付与を法制化することが必要です。制度が利用できず困っている人は、日本労働弁護団をはじめとする相談窓口に助けを求めてほしいです」

取材後記

昨年度から指摘されてきた個人申請の課題が改善されないまま制度が復活したことに、制度の改善を求めてきた母親は「厚生労働省は考えることを放棄しているように感じた」と話していました。
企業に制度を導入する義務もなく、周知も進まないなかで何度も企業や労働局に掛け合わなければならない状況は、とりわけ非正規という弱い立場で子育てをしながら働く保護者にとって大きなハードルです。
取材を通じて感じたことは、職場も社会も子育て中の女性たちに対するまなざしがあまりにも冷たいのではないか、ということでした。去年春の最初の緊急事態宣言以降、非正規で働く多くの女性が働く場を失っています。コロナ禍の女性の非正規労働の実態を調査した周燕飛さんは、保育園や小学校の休園・休校が女性の休業や労働時間減少に与えた影響は大きく、ジェンダーギャップは明らかだと指摘していました。「すべての女性が輝ける社会」と言われながら、制度を利用することさえ難しい状況に理想と現実の差を感じてしまいます。必要とする人に届く制度にしてほしい。そして働く親と子どもたちにとって、ほんとうの意味で生きやすい社会であってほしいと感じました。

【相談窓口はこちら】
首都圏青年ユニオン
https://www.seinen-u.org/
日本労働弁護団 新型コロナウイルス労働問題ホットライン
http://roudou-bengodan.org/covid_19/
厚生労働省「雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、小学校休業等対応助成金・支援金コールセンター」
(フリーダイヤル)0120-60-3999

  • 熊谷百合子

    首都圏局 ディレクター

    熊谷百合子

    2006年入局。福岡局、報道局、札幌局を経て2020年から首都圏局。 未就学児の2人の子どもを子育て中。 感染リスクの高い高齢の親にサポートを頼めず、コロナ禍の育児の大変さを身をもって実感。

ページトップに戻る