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横浜市 中学校の「完全給食」実現なるか 期待と課題は?

  • 2021年10月4日

全国の政令指定都市で、唯一中学校の給食がなかった横浜市。この春から民間事業者の配達弁当を「給食」と位置づけスタートしましたが、利用は選択式で、一部にとどまっています。
こうした中、新たに就任した山中市長は、全員に給食を提供する完全実施の方針を表明。
横浜市の学校給食をめぐる経緯と課題をまとめました。
(横浜放送局/記者 有吉桃子)

学校給食ってそもそも?

学校給食はいつごろから始まったのか、調べてみました。
文部科学省によると、「学校給食」は明治22年、山形県鶴岡町、今の鶴岡市の私立小学校で貧困家庭の子どもを対象に始まったとされています。

その後、昭和7年に国による助成が始まり、全国に広がっていきましたが、戦争で一時、中断。
戦後、給食が再開し、昭和29年には学校給食法が制定されました。

現在の学校給食法では食育の観点からも義務教育の学校の設置者は給食が実施されるように務めなければならないとされています。平成30年度の調査では全国の公立の小学校では99.3%、中学校では93.2%で給食が実施されていましたが、神奈川県では、人口の多い横浜市で実施されていなかったこともあり県内の中学校での実施率が、全国で最も低い44.5%にとどまっていました。

始まりは“ハマ弁”でした

横浜市では、なぜ給食が実施されてこなかったのか。市によると「子どものことをよく知っている保護者が作る弁当の良さがある」という意見が根強く、長年、家庭で作る弁当を持参することが基本とされてきたというのです。

それでも共働き世帯の増加など時代の変化を受け、平成28年度には家庭の弁当を基本としつつも業者による配達弁当の「ハマ弁」も選べるようになりました。

この「ハマ弁」。ごはんと汁物は温かい状態で提供されますが、おかずは19度まで温度を下げて提供されます。
この「ハマ弁」について

「周りが食べていないから頼みにくい」

 

「味付けが好みに合わない」

 

などの声もありましたが、昼食は自由に選択できるほうがいいという意見が多かったことから、ことし4月、横浜市は、この配達弁当を「給食」に位置づけたのです。横浜市の中学校で、初めて給食が始まった瞬間でした。

 

給食に位置づけると何が変わるのでしょうか。
市によりますと市の栄養士が献立や食材を管理するようになり、食材の質が向上した上、1食あたりの価格も安くなったということです。しかし、ここである疑問がでてきました。

そもそも「給食」って、みんなで同じものを食べるものではないでしょうか。これって給食なんでしょうか?

その疑問を文部科学省に聞いてみると、「学校給食実施基準では、在校するすべての児童生徒に原則として週5日、実施されるものとしています。ただ、それ以外の形ではだめというわけではなく、自治体の実態に応じた形で可能なかぎり、実施と充実に努めていただきたい」と話していました。

“全員が食べられる給食が望ましい”

選択制とはいえ、ようやく中学校での給食が始まった横浜市。しかし、保護者からはさらなる希望が出されています。
横浜市内の保護者などで作る「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」が、ことし4月からインターネット上でアンケートを行いました。その結果、10代から70代以上までの1500人余りから回答があり、このうち88%が“全員が食べられる給食が望ましい”と答えました。

寄せられた意見
「ほかの自治体と同じように温かくおいしい給食を食べたい」
「家庭のお弁当だと子どもは好きな物しか食べない」
「経済的な問題を抱える家庭の子どももいるなか、みんなで同じ物を食べられる給食にすべきだ」など。

会のメンバーの1人で、中学生の子どもがいる父親
「共働きで朝の弁当づくりはとても負担になっていたので、給食が始まったこと自体はありがたいのですが、毎日、この弁当を食べている子どもは、どうしても小学校の給食と比べてしまい、『おかずが冷たい』などと不満を抱えています。保護者や子どもの意見を聞いてよりよい給食を目指してほしい」

市長選でも争点に

こうした状況を背景に、ことし8月の横浜市長選挙でも中学校給食は争点の1つとなり、8人の立候補者のうち6人が見直すべきとしていました。

そして、選挙で見直しを訴えた山中竹春市長は、ことし9月に初めて出席した市議会で、こう述べました。

山中市長
「栄養バランスの整った給食を提供することは市の責務。学校給食法の趣旨に則り、全員が食べられる給食の実施を目指したい。どのような給食が望ましいかアンケートなどを速やかに実施したい」

これにより、これまでの方針が一転。給食の完全実施を目指して検討が進められることになりました。実は、横浜市教育委員会では、令和元年度にも中学校での給食実施をめぐり検討を行っています。

このときは、次のような場合が想定されました。

・「自校方式」…各中学校で給食を作る
・「親子方式」…近隣の小学校で作った給食を運ぶ
・「センター方式」…給食センターでまとめて作る
・「自校方式」+「親子方式」+「センター方式」の3つの方式の組み合わせ

しかし、センターを建設する市有地や学校内の場所の確保が困難なうえ、施設の整備だけで最大でおよそ370億円かかるとされ、配達弁当以外での実施は困難というのが結論でした。
山中市長は就任後、連日、この「給食」を食べているということで、今後、ほかの都市の給食を食べてみたり、生徒へのアンケートを行ったりして幅広く検討を進めていきたいという考えを示しています。

神奈川県内のほかの自治体は?

神奈川県内のほかの自治体でも中学校給食は課題の一つとなっています。
横浜市のお隣、政令指定都市の川崎市では、平成25年に中学校給食の実施を掲げた市長が当選し、平成29年から全校で中学校給食がスタートしました。自校方式の学校は一部で、多くはセンター方式での提供が行われています。

一方、相模原市では一部の学校をのぞいてデリバリー型の選択制の給食が実施されています。将来的には、全員に提供したいとしています。

また、横須賀市では、9月29日からセンター方式による給食がスタートしました。市内に23ある中学校のすべての生徒に提供されます。市によりますと、センターの建設や学校の改築にかかった費用はおよそ57億円。初日は、カレーなどが提供されました。

「みんなが同じ物を食べられるので、『これおいしかったね』と言い合えて思い出になる」

 

「親の作った弁当を食べられなくなるのは悲しいけど、早起きしなくてすむので給食のほうがいいと思う」

 

財源をどう確保するかなど難しい課題がある中で、これまでの方針を転換し、給食の完全実施に向けた検討を始めた横浜市。
「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」の朝見幸子共同代表は次のように述べ期待を示しています。

「横浜でも全員制の中学校給食が『いいね!』の会」朝見幸子共同代表
「食育の観点や、家庭できちんとした食事をすることが難しい場合の補完という意味でも給食の果たす役割は大きい。自校もしくは親子方式で、あたたかくおいしい給食をすべての子どもが食べられるようにしてほしい」

取材後記

去年9月に2歳と5歳の子どもを抱えて横浜市に転勤となり、引っ越してきた私も、中学校給食がないという事実にはとても驚きました。
全く給食がない状態から検討を積み重ね、部分的とはいえ、給食が出来たこと自体は評価されるべきことだと思います。ただ、子どもたちにとって給食は、成長期の体を作る基盤となる食事でもあります。常によりよい物になるよう検討を続けてほしいと感じました。

  • 有吉桃子

    横浜放送局 記者

    有吉桃子

    宮崎・仙台局を経て政治部、ネットワーク報道部。去年9月から横浜市政を取材。

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