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東京 調布の小学校 一斉オンライン授業の4日間 教員たちの奮闘記

  • 2021年9月16日

コロナ禍に対応した、タブレット端末を使ったオンライン授業。 
しかし、授業が始まって10分ほどで、子どもたちは教員から通信を切るよう求められます。 東京・調布市の小学校で4日間にわたって行われた、一斉のオンライン授業。 
現場で見えてきたのは、制限のある通信量の問題と、限られた時間の中でどうやっていつもの教室での授業に近づけるか、悪戦苦闘する教員たちの姿でした。 
(首都圏局/記者 山内拓磨)

一斉でオンライン授業に

調布市立第一小学校の川島隆宏校長のもとに、教育委員会から「一斉のオンライン授業を行う」と連絡があったのは、8月25日のことだったといいます。 

調布市立第一小学校 川島隆宏校長
「市内では子どもの感染も広がっていると聞いていたので、そうなるかなとは思っていましたが、準備を急がないといけないと感じました」 

この学校で、児童1人にタブレット端末1台が配付されたのは、今年1月。 
授業の中で使うことはありましたが、自宅と教室をつないで一斉に授業を行ったことはありませんでした。 

調布市は、感染拡大を受けて夏休みの期間を延長し、本来8月27日だった2学期の始業式を延長しました。オンラインでの一斉授業は9月7日から。教員たちは、この“延びた夏休み”の期間を、授業の準備にあてることになりました。 

模擬授業 “映像が” “音声が”トラブル多く

8月27日、授業まで11日。教室に集まっていたのは、教員たちです。 
川島校長は、「いっぱい問題が出てくると思うんです、そこを見つけていきましょう」と呼びかけました。 

この日は「模擬授業」を実施。「教員役」と「児童役」に分かれて、それぞれの教室に向かいました。 
授業をオンラインでつないでみると、早速トラブルが起きました。 

“児童側のタブレット端末に、授業を進める教員の姿が見えない“

“姿は見えるが、話している声が聞こえない”

教員は気づかずに授業を進めてしまいますが、児童側からは「聞こえていない」ことが伝えられないなどのケースがおきたのです。 

教員が教室を回って状況を確認したり、しまいにはアナログ方式で、校内アナウンスを通して指示を出したりするなどドタバタの中で準備が進められていました。 

授業をする教員の側も、オンライン授業をする際の問題が確認できました。 
ホワイトボードに映し出す資料を手元の端末で操作しながら、できるだけ子どもたちに目線を合わせようと、授業を撮影する端末のカメラを見ながら授業を行うと、子どもたちの様子が確認できなかったのです。 

“授業の内容を高めたい”

模擬授業を終えて集まった教員たちからは、多くの課題を指摘する声があがりました。 

 

1人で授業をすると、授業を受けている子どもの様子が見られないし、子どもが技術的に困っている時に対応できない。

 

子どもたちの応答も、うなずきもない中でやっていくのは難しかったと思う。間の取り方とか、指導力がすごく問われる。

 

結果を予想する場面では、やっぱり子どもの意見が知りたい。何とか工夫して、授業の内容を高めたい。

自身の機器の操作に不安を残す教員もいましたが、どの教員も、どうすればふだんの教室での“双方向”の授業に近づけることができるのかを考えていました。 

そうしたなか、「100何人を一気につないだ時に、みんなにちゃんと共有されるのか心配です」 という声も。 

“100何人を一気につなぐ?なぜそんな想定に?” 
校長に尋ねたところ、教育委員会から届いたという書面を見せてくれました。 

通信量に限界! 1度に100人で授業

そこには「容量(通信量)には制限があります」という記載がありました。校長は、意味は2つあると説明します。 

1つは、学校側の通信量です。各教室に無線LANを整備していますが、1度に多くのデータを転送することは難しいため、これまでのようにすべてのクラスで一斉に授業を行うことはできないといいます。
そのため、学年ごとに行う授業は1つにすることにしました。学年全員のおよそ100人の児童が参加するため、一人ひとりの児童にどう対応するかが課題となります。 

もう1つは、子どもたちに配られたタブレット端末の通信量です。端末ごとに制限があるので、授業をすべてオンラインでつなぐことができません。もし6時間の授業すべてをオンラインでつなぐと、数日で上限に達してしまいます。 

そのため、つなぐのは授業の始めと終わりの、合わせて20分ほどとし、途中の時間は、 出された課題に児童が1人で取り組まざるを得ないといいます。

「オンライン授業」と言っても、学校現場にとっては通信量という“越えられない壁”があったのです。

川島隆宏校長
「オンラインとなると、授業もこれまでとは組み立て方を変えていく必要があります。子どもたちのために、理想は高くいろいろなことをしたいのですが、現在の環境の中でどういう工夫を考えないといけないかというのは、私たちに突きつけられた課題であると思っています」

模索する教員たち

9月1日、授業まであと6日です。 
制約がある中で、子どもたちが授業の中で質問があった場合にどうするか、検討が続けられていました。 
通信を切って1人で取り組む時間であっても、分からないことがあった子どもは質問できるようにしたい。しかし、この質問を全員で共有できるかという点では、通信量の問題が立ちはだかります。 

校長
「その場合は、オンラインを切ったほかの児童は質問が聞こえないの?教室だとほかの子の質問とか会話が聞こえるけど」 

 

教員
「それは難しいですね」 

 

校長
「全員がつなぎっぱなしにするとギガ問題なんだよね。無線LANがつながっていれば質問しやすくなるけど、難しいね」

 

教員
「無線LANの環境がある子とない子で差が出てしまう」 

 

図工は? 音楽は? 苦悩する「専科」の教員たち

模索を続けていたのは、図工や音楽、家庭科といった「専科」を担当する教員たちも同様です。
専科は「実際に触れる」ことが重要になることが多く、オンラインで行うことが、ほかの科目以上に難しいといいます。 

例えば図工の授業では、のこぎりや彫刻刀を使った作品を作る予定でした。 
家庭科の授業ではミシンを使おうにも、ミシンは家にないという家庭もある中で、やり方だけをオンラインで紹介したままでいいのか、答えが出ませんでした。 

「家庭にいて1人でリコーダーを吹かせることが学習なのか。みんなで合わせることが音楽なのに、それを子どもたちが感じられないことが心苦しい」

「図工も、材料に触る感覚が大事。みんなが同じ棚を作るのが授業ではなく、一人ひとりデザインが違って、友達の作品も見て刺激を受けながら学び合っていくのが望ましいと思うんだけど…」

「知識だけ入って技能が付いていかないっていうところが、オンラインで専科を行うことの難しい点だと思う」

それでも、音楽の教員は事前にリコーダーを吹いた動画をアップして、子どもたちが確認できるようにしようとするなど、それぞれが工夫を重ねていました。 

始業式 子どもたちには“攻略表”

9月6日。オンライン授業を翌日に控えたこの日は、2学期の始業式が行われました。 
最大の課題は、子どもたちがタブレット端末を使えるようにすることです。

1年生の教室では、パスワードなどの設定が分からない子どもたちが、担任の教員のまわりに集まり、順番を待っていました。 

6年生の教室では、「授業の間、ずっと接続したままではない」ということを伝えていました。 

「気をつけてほしいのが時間ね。接続しっぱなしじゃなくて、最初にこういうことやるんだよという時につないで、それから1度切って、自分で学習をする。学年全員で同じクラスルームに入って、100人で学習します」

端末の設定に手間取らないように、教員たちは学年別のマニュアルを作っていました。 

1年生に対しては、ミュート設定を教える際は「マイクのマークを1かい おす」、接続を切る際には「でんわマークを おす」のように、ひらがなと絵と組み合わせた易しい表現に。 

一方、6年生には授業の基本的な流れを示した上で、うまく接続ができない時などトラブルを並べて、その際に取るべき対応を「攻略法」としてチャートで示しました。 

授業初日!教員たちの工夫の成果は

そして迎えた9月7日。オンラインによる一斉授業の初日です。 

保護者の仕事の都合などで一部の児童は学校に来ましたが、自宅にいる児童と同じように教室でタブレット端末を出し、オンライン授業を受けます。 

接続に戸惑う子どもが多かった1年生の教室では、教員が漢字の成り立ちを説明していました。教員の合図に合わせて、「1、2、3、4」。一緒に書き順も学習します。 

教員に「分かりましたか?」と聞かれた子どもたち、「はい」と書かれた緑の紙をカメラに向けました。

この紙は、教員の問いかけへの子どもたちの反応を少しでも把握しようと、教員たちが手作りしたものです。緑色で「はい」、茶色で「いいえ」にしておくことで、一人ひとりの反応は確認しにくくても、視覚で傾向を捉えようという工夫の1つです。 
 

6年生の教室では、模擬授業の時にはなかった端末が1台増えて、3台になっていました。
授業を映す端末、パワーポイントを操作する端末、そして、授業を受ける子どもたちの様子を見る端末です。
授業を映すカメラを見ることで、目線を子どもと合わせながらも、子どもの反応も把握できるようにしたのです。 

さらに、授業に1度に100人が接続する問題を逆手に取って、その分、授業を行わない教員を「サポート役」として配置。子どもたちの機器のトラブルなどにすぐに対応できるようにしたのです。

子どもたちの反応を、教べんをとる教員に伝えるなど、二人三脚で授業を進めていました。 

この日の社会の歴史の授業では、貴族が隆盛を極めた時代から、武士がどのように力を伸ばしていったのかがテーマでした。 
教員が、当時の絵巻物の画像を示して、必要な教科書のページ数を説明したところで、オンラインの時間が終わります。 

「では、やることが分かった人から端末を切って1人で調べてみてください。もし分からないことがあったらまた戻ってきてください」 

オフラインの間、子どもたちに課題を課しますが、進め方が分からないなど、質問したい児童にはオンラインで個別に対応しました。 

さらに、子どもたちの質問を受ける仕組みとして、「振り返りシート」を活用。
感想や、各自で書いたノートの写真を添付して送ってもらうほか、質問があれば書き込めるようにしていました。このシートを一人ひとりに送信してもらうことで、より細やかに児童の声を拾っていくのが狙いです。 

この日の感想には、「源氏と平氏の違いが分かりにくかった」という記載がありました。 

オンライン授業の準備を引っ張ってきた植松拓也教諭は・・。

植松拓也教諭
「教科書に載っていない部分も交えながら、時代背景を次の授業でも話ができたらいいのかなと思いました。準備や想定してきたことはできたつもりで、それなりに手応えはありました。課題を挙げたらきりがありませんし、子どもたちの感想が気になりますが、分かりやすい授業を心がけたいと思っています」

オンライン授業を終えて 子どもたちの反応は

こうした工夫を重ねて、4日間のオンライン授業を終えた小学校。 
週明けの13日、市内の子どもの感染状況も改善したとして、ふだん通りの対面授業が再開されました。授業の前に、子どもたちはオンライン授業の良かった点や改善点を話し合いました。 

 

ほかのクラスの人たちともやったから、けっこう楽しかった。

 

ノートとか授業中に取り忘れちゃったりしても、あとでパワーポイントとか見返して自分で取れるからいいな。

 

いつも、普通の授業だったらみんな普通にしゃべれるから意見とか出し合えるけど、オンライン授業ってずっとマイクがオフになっているからなんか…。

 

オンラインだと静かすぎて授業にかえって集中できない。

 

理科が映像を見る授業で、実験の方法とかを見ただけだった。


ほかにも、きょうだいが同じようにオンライン授業をしていて、集中しにくかったという意見もありました。 

4日間の経験をどう生かすか 教員たちの考えは

子どもたちの声を受け止め、これからどう生かしていくのか。放課後、教員が集まって意見を交わしました。 

「理解できたかの“はい” “いいえ”のカードを持たせて色で示してもらったが、どうしても手元の画面に表示される子どもの数は限られてしまって、全部の子どもの顔が見えるわけではなかった。ふだんは子どもたちの反応を見ながらもう1度言ったり、言い方を変えたりしていたが、本当に伝わっているのかなと思いながらの授業になった」 

「1番困ったのは理科の実験だった。子どもたちが予想したり、体験する中で知識や気づきを得たりしてほしかったが、実験は教室でしかできない部分だったので苦戦した。動画を活用して『こうやれば確かめられるんだよ』という紹介に持って行かざるを得ず、定着の度合いという点ではちょっと不安が残ってしまった」 

オンライン授業でも、さまざまなやり方があると指摘する教員もいました。 

「パワーポイントの画面を共有するやり方と、教員の姿を映して行うやり方と、片方だけではないと思った。授業の内容などに合わせていろいろな型を私たちが知っておくと、今後に生かせる面もあると思う」 

「分かりやすい授業をしたい」と話していた植松教諭は、久しぶりに対面で授業をしたことで、気づいたことがあったといいます。 

植松拓也教諭
「オンライン授業では分かりやすく、いかに知識を獲得させるかに重きを置いてパワーポイントや資料を提示したけれど、同じことだけを対面授業でやっても意味がないと気づいた。対面授業ならば子どもたちにより考えさせて、面白いってお尻がイスから上がっちゃうような授業をしないといけない。オンライン授業と対面授業はイコールではないということを感じた」 

オンライン授業は子どもたちに「考えさせる」ことになるのか。3年生の教員は、思わぬ発見もあったと話します。 

「私はあえて考えさせるような授業を意識してやってみた。振り返りシートを見ると、児童によって差はあるものの、ふだんはあまり自分で考えないで、クラスの友達の意見で動こうかなって思うような子どもも、自分で考えてシートを書けていたという発見もあった」 

分かりやすさを追求して使った教材を、これからの対面授業の中で子どもたちに提示して活用してもいいといった意見も出されました。 

4日間のオンライン授業を終えた小学校。
対面授業を原則としながらも、不安を抱える子どもたちのために教室での授業を配信することにしています。川島校長は、4日間で得た経験を生かしていくことが重要だと強調します。 

川島隆宏校長 
「教員が工夫や努力を重ねてきて、子どもたちにも伝わったことは達成感につながったと思います。今後の感染状況によりますが、これからも学級閉鎖レベルのことは起きる可能性はあると思っています。その時に、登校できない子どもたちの学習をどう保障していくかというのは、公立学校としてやっていかないといけないと思いますし、今回得られたノウハウを授業の中で生かしていくことが大切なんだと感じています」 

取材後記

去年春に全国で行われた一斉休校から、コロナ禍での学びのあり方は問われ続けてきました。その経験から1年半が経過しましたが、通信量が限られるなど、いまだにオンライン授業が支障なく行える環境が広く整ったとは言えません。 

いま、感染者数が再び減少傾向にはありますが、今後の感染拡大の懸念がなくなったわけではなく、「新しい学びのあり方」を模索していく必要があることは明らかだと思います。 

大人たちが右往左往している間も、子どもたちが学ぶべき時間は進んでいきます。 
オンライン授業の善し悪しはありますが、調布市のように実際に取り組んでみた学校の現場で、大人と子どもが意見を交わしていくことが、将来の教育の形につながっていくのだと感じました。 

  • 山内拓磨

    首都圏局 記者

    山内拓磨

    2007年入局。長崎局、福岡局を経て報道局社会部。検察担当などを経て、2020年から首都圏局。憲法やコロナ取材を担当。

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