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“箱庭オフィス”に “長屋スタイル” コロナ禍で変わるオフィス

  • 2021年9月16日

「出社してないのに同僚の様子が手に取るようにわかる」「本社をシェアオフィスに移転」…コロナ禍を機にオフィスが急速に変わり始めています。その最前線を取材しました。(アナウンス室/比田美仁)

心のカベを取り払う!“箱庭オフィス”

千葉市内にある大手建設会社のサテライトオフィス。そこで若手社員が操作しているのはタブレット端末。表示されているのは、直線距離で30kmほど離れた東京本社の今の様子。顔写真のアイコンが動いています。

連絡取りたい同僚がいま、オフィスのどこで、誰といるのかが分かります。
「リモートワークの時に上司や同僚に連絡を取りたい。でも今は会議中かも…」と連絡をとることに躊躇してしまう…そんな”見えないハードル”を下げてくれるというわけです。

このオフィス、大手建設会社が開発し、5月から運用を始めました。いちばんの”売り”は誤差わずか数十センチという社員の位置情報。

東京本社のオフィスの社員は、小型のチップを身につけ、その情報を天井につけたセンサーで読み取って、社員の正確な位置を表示しています。
このシステム、会社にもメリットがあります。例えば、社員の位置データを蓄積して表示すると…

色の濃淡で場所ごとの社員の利用頻度がわかります。社員の位置情報を細かくデータ化することで、レイアウト変更などにも活用することができます。

また、こうしたデータを蓄積することで、「20代の社員は50代の社員とコミュニケーションが少ない」といった具合に、年代ごとのコミュニケーションの傾向などを“見える化”することも可能になります。会社は、これまで見えてこなかった課題を把握し、対策を打つこともできるのです。

大手建設会社 藤本裕之執行役員
「リモートワークをしている社員が、本社の状況を見ながら声をかけるタイミングを計ったり、コミュニケーションをとることの背中を押すようなヒントを与える、そうした機能にトライしてみました。
これを実現するには、非常に精度の高い、位置の情報を取得する必要があります。そこまで精度の高い位置情報が取れるのであれば、いろいろな分析ツールとして使えるのではないか。いろいろ試行錯誤を繰り返しながら、分析ツールを開発して、これを社員に配って、働き方にどう役立てるのかを考えてもらおうとスタートしています。
働き方改革であると同時に、働き方のマネジメント改革、これを一緒に進めていく。そういう大事なツールになっていくのではないかと考えています」

このシステム、将来的には、新たなビジネスとして販売することも視野に入れているということです。

シェアオフィスに本社を!?

東京・渋谷の大手IT企業は8月、本社をシェアオフィスに移転しました。これまで借りていた7フロアのオフィスから、シェアオフィスの1フロアに移転。席数も以前の2800席から700席と4分の1になりました。
コロナ禍でリモートワークが定着して、新しい働き方が進む中、合理的なシェアオフィスを選んだといいます。

大手IT企業 岡村信悟社長
「コロナ禍でリモートワークというものが常態化して、実際にオフィスの使用率も数%でした。それなら伸縮自在で初期費用も抑えられて、かつすばらしい共通設備もあるシェアオフィスもいいのではないかと考えました。
今までのように全員の出社というものを前提としたオフィスの考え方ではなくて、例えば社員が連携するために集まったりすることができる、我々の象徴たり得るようなオフィスを追求できるのではないかと思いました。
合理的に考えれば仕事はリモートワークだけでもできます。でもそれだと会社にとって大切なものが失われてしまいます。社員の絆や、新人社員の教育などです。こうしたことを考えた時に、これからも人が集まることの意味というのはすごく重要だと思っています。
この拠点、新しいオフィスを活用して、社員自身が高めあい、そして世の中に対しても価値が提供できるように、これからも積極的に取り組んでいきたいと思っています」

スタートアップに大人気 シェアオフィス

東京を中心に全国30以上の拠点でシェアオフィスを展開するこちらの企業。大企業からスタートアップ企業まで幅広い利用者に人気です。共用スペースを自由に利用することができるほか、専用のスペースを契約することも可能です。
人気の秘密はフレキシブルに使えるメリットだけではありません。もう一つの大きな魅力が”長屋文化”です。入居者が、まるで長屋の住人どうしのように助け合う例も出始めています。

創業間もないスタートアップ企業などは革新的なサービスを持っていても、顧客基盤や営業基盤がそれほど強くありません。そこで、このシェアオフィスはそこを補うサービスに力を入れています。入居者どうしを結び付ける「マッチングサービス」です。

この運営会社では、入居企業から、「どんなサービスを展開したいか」や「どんな顧客と取り引きしたいか」などを聞き取り、条件の合う会社をマッチングしています。このマッチングがきっかけで共同事業を始める例は少なくありません。

もちろん、入居者どうしの偶然の出会いからビジネスの話に発展することもあります。入居者にとって、このシェアオフィスのコミュニティはビジネスを広げる大きな可能性を秘めているのです。

意外な“住人” 地方自治体

ベンチャー企業やフリーランスなどの利用者の中で、ちょっと”意外”なシェアオフィスの利用者が…。

静岡市です。こちらの2人は静岡市の職員。広報や企業誘致を担当しています。シェアオフィスのオシャレな環境を求めてここに来ているわけではありません。
ふだんは、千代田区にある静岡市の東京事務所で仕事をしていますが、”出会い”を目的にこのシェアオフィスを利用しています。

静岡市がこのシェアオフィスに入居したのはおよそ3年前。当時は地方自治体のシェアオフィスへの入居の”さきがけ”でした。静岡市はこのシェアオフィスを、市のPRや企業誘致のための拠点と位置付けているのです。現在では、静岡市のように、このシェアオフィスに入居する地方自治体は20にも上ります。

取材にうかがったこの日、静岡市東京事務所の松木喜伯さんがシェアオフィスの共用スペースに並べていたのは…。

静岡特産のお茶です。「静岡市のお茶置いてあったよね、みたいな話からビジネスの話に発展していくこともありますね」と松木さん。こうした入居者どうしのコミュニケーションから、新しいつながりが生まれるケースも増えているといいます。

成果も出始めています。静岡市は、8月、コロナ禍で売り上げ減少に苦しむ静岡市内の小売店の販路開拓を支援する事業を始めました。

この事業をともに進めるのが、同じシェアオフィスに入居するスタートアップ企業。スマートフォンを活用したインターネット販売アプリを運営しています。両者はシェアオフィスのマッチングサービスで出会い、共同事業までこぎつけました。

アプリ運営 門奈剣平社長
「このシェアオフィスにいると、これまでのオフィス環境では起こりえない出会いが実現します。この出会いはわれわれにとって大きな価値になっていると思います。コロナ禍でなかなか地域に直接足を運ぶことが難しい中で、地域の力になれるってことはすごくうれしいなっていうふうに思っています。これからもシェアオフィスと一緒に成長していきたいというふうに考えています」

静岡市東京事務所 松木喜伯さん
「やはり首都圏でのプロモーションや、こうしたビジネスマッチングの機会というのは、なかなか静岡にいては広がりませんし、コストもかかります。
すぐにビジネスの話に展開できることはほとんどありませんが、このシェアオフィスに入ったことで、いろんな企業さんと出会うことができています。スピード感も上がりましたし、すぐに形にできるというところで心強く感じています。
このシェアオフィスの中では、さまざまな方とネットワークがつながって、そして新しいビジネスが生まれていくので、今回の取り組みだけにとどまらず、もっとネットワークを広げて、静岡市のためになること、静岡市のファミリーになってもらう仕掛けをどんどん展開していきたいです」

  • 比田美仁

    アナウンサー

    比田美仁

    2003年入局。名古屋局などで経済を中心に取材。趣味は野球観戦と昆虫採集。

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