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千葉台風15号(2019)から2年 “逆境をバネに”奮闘する父と娘

  • 2021年9月11日

千葉県を中心に大きな被害をもたらした台風15号から9日で2年です。強風で全壊した館山市の老舗旅館は、逆境をバネに建物を再建して、地域を元気にする交流拠点に生まれ変わろうとしています。奮闘する父と娘の姿を追いました。
(千葉放送局/記者 尾垣和幸)

地域に愛された旅館 台風で全壊に

千葉県館山市の八代健正さん、53歳。修繕しているのは、かつては旅館だった建物です。
館山市にあった「富崎館」は、明治時代に創業し、“地域のシンボル”のような存在でした。

合宿の学生や、釣り客でにぎわったほか、地元の人たちには憩いの場でもありました。
2年前、旅館は台風15号の強風で全壊しました。
屋根がはがれ、海が一望できる自慢の大浴場の壁は落ち、八代さんは再建を諦めました。

八代さん

もう、ひどすぎて。頭が真っ白というのが正直でしたね。

地域にも大きな爪痕が…

おととし12月

台風は地域にも大きな爪痕を残しました。
八代さんは、旅館よりも地域の復旧を優先し、雨漏りが続く住宅にブルーシートを張るボランティア活動を続けてきました。
しかし、自宅の再建を諦めて多くの人が引っ越したため、空き地が目立つようになりました。八代さんは、この地域がこの先引き継げなくなる危機感を感じ、寂しさを抱えていました。

再建の背中を押した娘

人が減るふるさとから“地域のシンボル”を無くしてはいけない。八代さんは、解体を考えていた富崎館を再建することを決めました。背中を押したのは、去年ふるさとに帰ってきた娘の美歩さんでした。

美歩さん

すごく長く続いている旅館だと思うので。地域の人にとって大きな存在なんじゃないかなぁと思いまして。

八代さん

自分の育った館山のこの地域を、なんとかしたいっていう。美歩がパートナーなら、やれるかもって思った。

親子2人で旅館の再建に向けて動き出しました。どんな形で再生させるのか。

完成予想図

計画したのは、地元の農水産物などの直売所や、食堂。そして、建物を解体した場所にはキャンプ場です。

“できるだけ多くの人を巻き込んだほうがいい”
美歩さんの提案でコンセプトは「みんなの富崎館」に決まりました。

美歩さん

キャンプ場だとか民宿だとか、食堂、売店、いろんな人がこの中で働いて、いろんな人がここで出会って。そういう空間になったらいいなと。

みんなの力を借りて復活へ

この日、打ち合わせにやってきたのは、ボランティア活動を通じて知り合った芝浦工業大学の大学生たちです。施設全体のデザインをお願いしていました。

八代さん

地域の人が、にぎやかさに飢えているなって思って。買いに来る人も売りに来る人もいて。なんかこうにぎやかさがほしい。

再び人が集まってほしいと、八代さんと美歩さんは、地域の外から来た人たちに旅館の再建を手伝ってもらい、地元の人たちとの交流の拠点に生まれ変わればと考えました。

学生

プロジェクトをきっかけに、関係する人がどんどん増えていくなぁと。ワクワク感というか実感があって、それがすごく楽しみです。

キャンプ場には、かつて大浴場から眺めることができた海が一望できる展望デッキも計画しています。施設は年内のオープンを目指しています。

2年前の台風は、地域に大きな爪痕を残しましたが、八代さんは新たな希望が生まれていると感じています。

八代健正さん
「いろんな方の思いとか力とか、台風によって集まったというのも一方にあって。台風があったが故に開けた可能性というのは出てきている気がします。だから僕らがこれは諦めたら、その可能性のうちの1つが消えるから。だから僕らは諦めちゃいけないと思っている」

取材後記

「富崎館」を経営していた八代健正さんは、旅館の復旧より地域のボランティア活動を優先していたことに、少し照れ笑いを浮かべながらこう話していました。

「本音を言うと、自分のことに目を向けるのが怖かったというか。現実を思い知ると、やっぱりいろいろな課題も現実に見えてきてしまうだろうから、それを直視するのが怖かった」

八代さんは、ふだん不安は表情に出しませんが、代々大事にしてきた旅館が全壊したことは、よほどショックだったのだろうと感じました。

「おこがましいからあまり言わないんですけれど、僕の中では勝手に使命だと思っています。『やり切らなきゃいかん』と言う使命感を感じています」

八代さんの責任感と地域への熱い思いにみんな魅せられ、多くの人たちが活動に協力してくれているのだと思います。

  • 尾垣和幸

    千葉放送局 記者

    尾垣和幸

    新聞記者を経て2017年入局 千葉市政を担当 「 館山で食べる地魚のおいしさにいつも驚いている」

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