2年前、記録的な暴風が千葉県を襲った台風15号。県内では8万2000棟を超える住宅に被害が出ました。2年前は、屋根にブルーシートを張られた家が目立った地域。今では、シートを張られた家はほとんどなくなり、一見復旧したように見えます。しかし、地域を歩いて取材すると、建物が壊れたまま放置される「空き家」が問題になっていることがわかってきました。何がその問題を加速させているのでしょうか?
(千葉放送局/記者 坂本譲)
千葉県南部の館山市。台風15号のあと、屋根がなくなったまま「空き家」となった建物です。
この家を所有する58歳の男性に、話を聞くことができました。
2階のブルーシートが飛んでしまってからは雨ざらしの状態で、もうダメです。
住んでいた自宅は、屋根が飛ばされて全壊と判定。建て替え費用の工面は難しく、被災当初は、解体を検討しました。見積もりをとったところ、費用は300万円。住民票を近くの実家に残していたため、国や自治体の補助金は出ませんでした。
さらに男性に、解体を踏みとどまらせたのは、固定資産税です。
更地にすると、固定資産税が4倍近くに上がります。男性は、いまの状態では、この空き家を解体することができないといいます。
被災地では、こうした費用面の課題が原因で、空き家が増えていると言います。
解体してさら地にした場合、住宅を再建する力は私にはないので、売るしかないです。しかし、周辺の土地が売れている様子はあまりなく、もし解体後も土地をそのまま所有せざるを得ない場合、固定資産税でさらに出費がかさむ不安もある。なるべく早く買い取ってもらえるように情報を集めるしかない。
空き家が放置される背景には、費用のほかにも理由があることがわかりました。地域の高齢化です。住宅の復旧を支援してきたボランティア団体の代表を取材しました。
こうした空き家を所有しているのは高齢者が多く、被災をきっかけに地域を出ていき、連絡が取れなくなってしまうこともあるといいます。その結果、もともと人口減少で悩む地域に深刻な影響を与えていました。
放置された空き家は、地域のイメージの悪化に加え、朽ちて瓦などが飛ぶと周辺の住宅の危険にもつながるため、対応が必要だと言います。
千葉南部災害支援センター 加納基成センター長
「高齢の単身の方でお一人での暮らしが難しいという所に被災されて、今は高齢者の施設の方で暮らしている人もいます。災害はその方の責任ではないと思うのでもう少し、スムーズに対応できる仕組みを作っていかないといけないと思っています」
全国で大きな災害が相次ぐ中で、専門家も被災後の空き家の問題は、今後さらに深刻になるおそれがあり、対策が必要だと指摘します。
自治体の中には、市民の安全を守るため、災害時やその後に、所有者に代わって行政が空き家の修繕などの緊急的な対応をとれるよう、条例の改正を検討しているところも出てきているということです。
明治大学 野澤千絵教授
「全国各地で、災害時の空き家問題というものが非常に問題視されるようになっている中で、先手先手で対応をしていくことが必要です。特に人口減少が激しいエリアは、時間がたてばたつほど、どんどん空き家問題が手間もコストも時間もかかっていきます。解体した人に所得税や住民税の減税措置というものを導入するなど、家をたたむ際の支援策をもう少し充実する必要があると考えています」
おととし9月、台風15号が千葉県を襲ったとき、私はまだ学生で宮城県にいました。宮城県内でも多くの雨が降り、私の住んでいた地域でも避難情報が出され、不安に思ったことを覚えています。
台風から一夜明けて、テレビをつけて報じられていた千葉県内の被害に言葉を失いました。
記者になって千葉県に赴任し、当時の被害を知ろうと、実際に被災地を自分の足で歩きました。ブルーシートの家屋の多くは修理や解体が終わり、一見復興が進んでいる様に見えましたが、ポツポツと点在する、台風の爪痕が残る「空き家」が気になりました。
取材した館山市の男性の、「空き家」を解体したくてもできない資金面の苦悩。また、「空き家」から見えてくる高齢化の問題など、対応すべきことは多いと感じました。災害が多発化、激甚化することも想定される中で、このような問題には全国各地で直面することが予想されます。
今後、行政や民間、NPO法人などが協力して、制度の改正や支援の拡充が進むことを期待します。
また、前提として「空き家」を生まないためにも、建物の所有者やその相続人の間で、将来、建物をどうするかということについて、災害等が起きる前にしっかりと話し合う必要もあると感じました。
これからも被災地に足を運び、同様の問題が生じた際に、スムーズな対応につながる一助となるような取材を続けていきたいと思いました。