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いじめ問題を解きほぐす森田志歩さん“常に子どもの味方”貫く

  • 2021年8月31日

「親や学校・教育委員会の立場ではなく、ただ子どものためを考える」
このポリシーを貫き、第三者でありながら数々のいじめの解決に貢献してきた女性がいます。埼玉県にあるNPO法人の代表・森田志歩さんです。
保護者と学校・教育委員会との対立が解決を困難にすることの多い、いじめ。森田さんは感情論に流されず、「冷静に」「法律に基づいて」もつれた議論を整理していきます。その手腕を頼りに、いまでは子どもはもちろん教師や行政側からの相談も。徹底して子どもに寄り添うその活動を追いました。
※この記事の内容は9月13日(月)の「おはよう日本」(関東甲信越エリア)でも放送する予定です。
(首都圏局/ディレクター 中川雄一朗)

“早く助けて” 殺到する子どもからのSOS

「私は1人でも多くの子どもを救いたい。だから私のことを取材して、こういう人がいるよと子どもたちに伝えてほしい」。取材に訪れたとき、その人はまっすぐな眼差しで訴えてきました。埼玉県川口市でいじめや不登校などの相談を受け、解決をサポートするNPO法人「Protect Children 〜えいえん乃えがお〜」の代表を務める森田志歩さんです。

森田さんのもとには、子どもや保護者からのSOSがひっきりなしに寄せられています。
いじめだけでなく、不登校や学校への不安、虐待など多岐にわたり、多いときには200件を超える月もあると言います。

森田さん
「ほとんどの子が“今すぐ助けて欲しい”って言うんです。他に何かして欲しいじゃなくて『いま助けて欲しい』って。その子どもたちを守らなければいけないし、救ってあげなければいけない」

いじめの解決を阻む“大人の対立”

森田さんに寄せられるいじめ相談のほとんどは「保護者」と「学校・教育委員会」との間で話し合いがこじれ、解決が難しくなっています。
この日訪ねた親子もそうでした。「いじめられているのに学校が対応してくれず、悩んでいる」と相談を寄せたのです。

中学2年の女子生徒は、去年、クラスの生徒から無視されたり、机に「死ね」と書かれたりするいじめを受けたといいます。
女子生徒をさらに苦しめたのが周りの大人たちの対応でした。学校に訴えても十分な調査や支援をしてくれなかったと訴えます。行政のいじめ相談窓口などにも連絡をとりましたが、話を聞いてくれるものの、具体的には何も動いてくれないと感じ、追い詰められていきました。そして半年後、女子生徒は医師から「うつ病」と診断されました。

女子生徒

周りの大人は本当に何もしてくれないから、私の事を考えてくれている人はいるのかなと思うようになって、死にたいっていう気持ちがずっと頭の中から離れなくなった。

森田さん

学校の先生たちがきちんと最初に対応してくれれば、こんなに傷つかなかったよね。私のところに来てくれれば必ず助けてあげるし、守ってあげるから安心してね。

森田さんの“いじめ解決法”

1)親には「冷静さ」を求める
子どもの声にじっくりと耳を傾けたあと、森田さんは女子生徒の母親にこれまでのいじめの経緯を時系列にして記すよう伝えました。感情が先だってしまうと事態がもつれることになるため、冷静に要望が伝えられるよう、必ず保護者には経緯をまとめることを求めています。

2)学校・教育委員会への提案は徹底した「法律論」で
市の教育委員会にもすぐに連絡を取り、いじめ防止対策推進法28条の「重大事態」にあたるとして、調査委員会の設置を求めました。被害者・加害者双方に対応する学校は、いじめの認定に及び腰になることが多いといわれています。そこで森田さんは法律に基づいた調査や対応を求めることを徹底しています。

3)「第三者」だから関係修復が可能に
親や学校・教育委員会の立場ではなく、あくまでも中立な立場で介入することが重要だと森田さんはいいます。

森田さん
「相談者側の味方という位置で話をしに行くと、相手側はどうしても身構えてしまいます。そうなると問題の本質や実態がつかみづらくなるので、最初から第三者の立場で話を聞かせて欲しいとご説明しています。両者とも、それぞれの立場がある以上、相手に対して言いづらいことがあり、それが関係をこじらせる原因になっています。それを私が代弁することでねじれを解いていくこともできると思います」

いじめでわが子が不登校・自傷行為まで…

森田さんがこうした活動に身を投じるきっかけになったのは、わが子が受けたいじめでした。
5年前、中学生だった息子のいじめの被害を学校に相談しましたが、改善されず、収まってはまたいじめが起きるということが繰り返されました。息子は長期にわたって不登校になり、自傷行為に及ぶほどに追い詰められました。
教育委員会に掛け合っても十分に向き合ってもらえず、息子は自分で守るしかないと感じた森田さん。
「同じような問題で苦しむ子どもをなくしたい」といじめに関する専門書を読み、法律も猛勉強していじめを具体的に解決するすべを身につけていったのです。

どう解決? 学校・教育委員会との“ねじれた関係”

森田さんに相談したことで、2年にわたり続いた学校・教育委員会との対立関係を解決できたという保護者が取材に応じてくれました。埼玉県秩父市に住む瀧澤祐二さんです。

3年前、高校2年生だった瀧澤さんの娘は、同級生から無視されたり、仲間外れにされたりするいじめを受けたといいます。
すぐ学校にうったえましたが、学校側は娘には聞き取りをすることなく、加害生徒の聞き取りだけで「いじめの事実は認められない」と判断しました。しかも、その結果さえ瀧澤さんには伝えなかったといいます。

瀧澤さん
「いじめがあったと訴えても誰も寄り添ってくれないで、本当に放り出されちゃったような。こんなに孤独になるんだ、被害者は個人で戦うしかないんだって思いました」

瀧澤さんは文部科学省に訴え、ようやく学校が主体の調査委員会が設置されました。
しかし、その調査報告書でいじめは認められたものの、内容は加害生徒の言い分に沿ったもので、到底納得できるものでなかったといいます。
たとえば、加害生徒が聞き取りに対し、「(瀧澤さんの娘と)考えの行き違いがあったのなら確かめたいと公園で会おうと誘ったが、(娘は)来なかった」などと答えたと記述。瀧澤さんは、こうした事実はなかったと主張します。

瀧澤さん
「この報告書を見た人が、『これじゃ被害者がいじめられて当然じゃないか』と思うような内容なんです。娘がどう思っていたかは一切無視されて。娘も『これじゃ納得できない』と」

瀧澤さんはその後、何度も修正を求め、新しい報告書も作られましたが、それでも自分たちに寄り添ったものではないと感じ、学校側との関係はこじれていきました。
最初の報告書ができてから1年半ほどたった頃、新聞記事で森田さんの存在を知り、わらにもすがる思いで連絡をとりました。

相談を受けた森田さんは、瀧澤さんにもこれまでの経緯を一つずつ時系列にして学校と教育委員会に送るよう指示しました。

瀧澤さん
「一回話をしてみるだけしてみようと思って連絡したら、すぐに時系列にして学校と県教委に送りなさいっていうアドバイスを頂いて。ああ、そんなことをしなきゃいけなかったんだと。なかなかできないですね、当時は。そんな事まで考える余裕もないし、知識もなかったので」

その上で瀧澤さん、教育委員会の担当者、森田さんの3者による話し合いの場を設けました。

その席で森田さんは、学校側が調査を進める上で、ある対応を怠っていたことを指摘しました。文部科学省のガイドラインには「調査の進捗状況について、定期的に及び適時のタイミングで経過報告を行う」と定められていますが、その手続きがされていなかったのです。

森田さん
「被害者側に経過報告を行っていれば、その都度、被害者側の意見も聞けますし、問題点があればそこで分かる訳なので。こんなトラブルにはならなかったのではないでしょうか」

その上で森田さんは瀧澤さんの思いを冷静に伝え「被害者側にきちんと説明をして、その上で被害者の意見を聞いて寄り添って、報告書をもう1度まとめ直して下さい」と訴えかけました。

瀧澤さんが森田さんに相談してから2か月ほどで、新しい報告書ができあがりました。そこには「(加害生徒が)公園に誘ったが来なかった」という記述はありませんでした。読んだ娘は「これなら納得できる、ありがとう」と言っていたそうです。
学校や教育委員会には徹底して法律やガイドラインにのっとった対応を求めるという森田さんの手法が生かされました。

瀧澤さん
「大事な子どもが被害に遭ったとき、たぶんどの保護者ももめると思います。私には専門知識もないし、学校や教育委員会とどう話せばいいのかもわからない。学校は責任取りたくない、加害者も卒業させなくちゃいけない。そうすると第三者が入らないと、結局うやむやになってしまう。だから森田さんのような存在が本当に必要だと思います」

行政や学校からも求められる「第三者」

当時、瀧澤さんに対応した埼玉県教育委員会の担当者です。
いじめの調査は一生懸命やっていたつもりだったが、時間がかかってしまったこと、そして瀧澤さんへの説明が不足していたことを繰り返し謝罪しました。
いじめなどの対応では、保護者との間でいったん信頼関係が壊れてしまうと、その後、話し合いを進めるのが非常に難しくなると担当者は話します。

埼玉県教育委員会 担当者
「やはり生徒・保護者と学校との信頼関係があることが大前提だと思っています。ただ一度、信頼関係が崩れてしまうと、なかなか修復が難しくなってきます。本来、教育委員会がそういう場を中立性をもって繋ぐことが役割なのですが、困難さを感じます」

保護者との関係が悪化したときに、森田さんのような「第三者」が介入してくれることで、冷静になって保護者の考えや主張を理解することができるといいます。

「森田さんのように客観的に意見を言ってくれる方が入ったことで、こう着状態が少しほぐれ、糸口を見つけられました。保護者の方も第三者だからこそ相談がきちんとできたのかなと思います。我々も森田さんの意見を聞く事によって、いま何が必要なのかが分かりました。そこから調査が円滑に進んだので本当にありがたいと思っています」

別の自治体の教育委員会の担当者もこう打ち明けます。

「保護者に言いたくても言えないことを代わりに伝えてくれるのが助かります。『謝り方が気にくわない』と保護者から言われ、『じゃあ、どうすればいいの?』と正直思うこともあったのですが、森田さんが『それを言っても子どものためにならない』と保護者を諭してくれて助かったこともありました」

子どもの声を拾う制度づくりを求めて

森田さんはいま子どもの声を拾い上げる制度づくりを求めています。
いじめの専門家とともに元文科大臣のもとを訪れ、「いじめ被害者へのアンケート」の分析結果から相談窓口の充実を訴えました。

取材の最後、森田さんに悩みを抱える子どもたちに向けた伝えたいことはありますか?と聞くと、こう答えました。

森田さん
「いじめに遭うと、傷付くし苦しいし、どうして良いか分かんないとか、絶望的な状況になると思います。でも必ず助けてくれる大人はいるので、とにかく相談してほしい。助けてあげるよ、いつでもそこに行くよって伝えたいですね」

取材後記

いじめ被害者は二度苦しむ…取材していて、そんな言葉が浮かびました。最初はいじめられたとき。そして二度目は、声をあげても周りの大人たちが何もしてくれないとき。今回取材した子どもや保護者はみな「誰も何もしてくれなかった。孤独だった」と口をそろえて語りました。
いじめに限らず、当事者同士の関係がこじれたとき、当事者だけでその問題を解決するのは難しいかも知れません。そんなとき森田さんのような専門知識を持った「第三者」の存在が全国にいれば、救われる子どもはもっと増えるのかもしれないと感じました。

森田さんの相談先

森田さんのNPOのHPから相談ができます。

NPO法人「Protect Children 〜えいえん乃えがお〜」
https://protectchildren-eternity.jimdofree.com/

  • 中川雄一朗

    首都圏局 ディレクター

    中川雄一朗

    民放で記者を勤めた後、2014年入局。神戸局・大阪局・ニュースウオッチ9を経て、2020年から首都圏局。これまで事件や震災、戦争などを取材。

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