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コロナで保育園休園 “有給なくなる”親たちの悲鳴

  • 2021年8月25日

「保育園がコロナで休園になった。20日以上あった有給はどこに消えたんだ!」
SNSに投稿されている親たちの叫びです。新型コロナ第5波の感染急拡大では、子どもたちへの感染の広がりが深刻になっています。臨時休園になる保育園も急増。新型コロナウイルスの感染で全面休園している保育園は、全国で165園と前の月の4倍のペースで急増しています(8月19日現在)。
保育園に子どもを預けられず、有給休暇を費やして休園期間を乗り切るしかない、という人が続出している中で迎える2学期。突然の休校や休園は、子育て中の私にとっても他人事でありません。休園に対応した親たちに話を聞いてみると、切実な状況が見えてきました。
(首都圏局/ディレクター 熊谷百合子)

みなさんの体験やご意見をお寄せください。こちらから投稿できます。

出勤間際のメール 「きょうから臨時休園」

保育園の関係者が新型コロナウイルス陽性反応者であることが判明しました。
感染拡大防止のため、施設を休園致します。

8月18日の朝、首都圏で暮らすAさん(30代)のもとに届いたメールです。2人の子どもが通う保育園の関係者から陽性者が出て、休園期間は1週間に及ぶという知らせでした。子どもたちを保育園に登園させて、出勤しようとしていた最中に届いた突然の知らせに、Aさんはがく然としました。

Aさん
「正直、『またか』と思いました。実は、保育園が臨時休園になるのは、これが2回目なんです。子どもの急な発病や余暇のために残しておきたい年次有給休暇を使って仕事を休まなくてはならないので、やりきれない気持ちになりました」

子どもたちが通う保育園では、今年6月にも新型コロナの感染者が出て、2週間の臨時休園となりました。そのときも、Aさんは年次有給休暇(いわゆる勤労休暇)を10日間取得して対応に当たりました。
子どもは濃厚接触者としてPCR検査を受けました。結果は陰性でしたが、2週間の健康観察が必要とされ、元気でも自宅待機を余儀なくされました。
Aさん自身も感染していないので、職場の傷病休暇を利用することができなかったと言います。

そして、今回2度目の臨時休園。
“感染した保育園の関係者”というのは、保育士の家族なのか?それとも子どもの親なのか?さまざまな疑念がよぎりましたが、保育園からは、プライバシーの配慮からメールの文面にあった以上のことは教えてもらえず、子どもが濃厚接触の場合のみ、保健所から連絡が入るとメールで伝えられました。

Aさんは上司に連絡し、保育園の休園期間は、年次有給休暇を5日間取得して仕事を休むと伝えました。
するとその翌日、保育園から休園期間の延長が告げられます。

濃厚接触者と判定されていた施設関係者のPCR検査の結果、陽性が確認されました。
つきましては、下記のとおり施設の休園期間を延長致します。
休園期間 令和3年8月18日(水)~31日(火)

有給はあと4日

当初の予定よりもさらに1週間、休園期間が延びたことで、Aさんは今回も10日間の年次有給休暇を費やすことになりました。
中小企業で正社員として働くAさんが、職場から付与されている年次有給休暇は40日。その半分に当たる20日間が、保育園の休園対応に充てられることになりました。

夫と幼い2人の子どもとの4人暮らしのAさん。夫婦はどちらも地方出身で、自宅の近くにはいざというときに頼れる祖父母や親族はいません。
子どもは2人とも熱性けいれんを起こしやすく、急な発熱があれば1週間近く保育園を休むこともあります。今年は、乳幼児を中心にRSウイルスが大流行していることもあり、年次有給休暇はここぞというときのために残しておきたいと考えていました。しかし、Aさんの手持ちの年次有給休暇はあと4日しかありません。

Aさん
「子どもの予防接種とか、体調不良でこれまでにも休んでいたので、気づいたらもう4日しか残っていませんでした。子育て中のお母さんなら誰もがそうだと思いますが、急な発熱呼び出しのために使わずにとっておきたいのが年次有給休暇。それを年度前半でわが子が陽性者でもないのに20日間も使ってしまいました。子どもたちもまだ小さいですし、微熱を出すこともしょっちゅうなのに、コロナの対応だけで一気に年次有給休暇が削られて、心細いです」

“コロナ特別休暇” なぜ使えない?

本来であれば、家族との旅行や帰省など、余暇のために労働者が取得したいタイミングで使うはずの年次有給休暇が、新型コロナウイルスによる突然の保育園の休園に使われている実態。こうした事態に対応する国の制度を調べてみると、昨年度は年次有給休暇を使わずに、“コロナ特別休暇”で仕事を休むことのできる制度が整えられていました。

SNS上にはこんなつぶやきが。

小学校休業等対応助成金があったころは良かったなぁ」

 

「小学校休業等対応助成金」とは、昨年4月の全国一斉休校の際に仕事を休まざるを得なくなった保護者のために設けられた助成制度です。
労働基準法上の年次有給休暇とは別に、いわば“コロナ特別休暇”を付与するものでした。賃金の全額を支払った企業には1人1日あたり1万5000円を上限に助成金が支給されました。正規・非正規に関係なく利用でき、企業にとっても子育て世帯の雇用を維持しやすい制度設計で、1719億円の予算が確保されました。

しかし、その制度は今年3月で終了。4月以降の今年度は、利用することができません。その理由を厚生労働省の担当部局に聞きました。

厚生労働省 職業生活両立課
「『小学校休業等対応助成金』は昨年度、政府の要請での一斉休校に対応して作られた制度です。現在は政府の要請で休校しているわけではなく、数日単位での休校・休園や学級閉鎖などの対応がとられているため、今年度は運用していません。その代わりに後継の制度があり、別のかたちで助成支援をしています」

後継の制度として運用されているのが「両立支援等助成金(コロナ特例)」です。

  昨年度「小学校休業等対応助成金」 今年4月~「両立支援等助成金」(コロナ特例)
助成額
(日数制限なし)
1人1日あたり1万5千円上限 一律5万円を1回のみ支給
人数の制限 事業主あたりの人数制限なし 1事業主につき10人まで(上限50万円)
予算 1,719億円 他の支援制度も含め113億円
  (男性の育児休業取得・介護離職防止など)

この新制度でも、新型コロナによる休園や休校により仕事を休む保護者は、特別有給休暇を取得することができます。企業に対しても助成金が支払われますが、その規模は小さいため使いづらいという声が上がっています。
Aさんの勤め先がこの制度を導入した場合、Aさんのコロナ特別休暇の補償の対象となるのは20日間。1日あたりの賃金全額が1万5千円の場合30万円を支給する必要がありますが、企業に助成されるのは5万円で、残り25万円は企業の負担となります。Aさんの職場では新制度は導入されていません。

保育園休園中のリモートワークは“地獄”

新制度を導入する企業が限られているなか、年次有給休暇をなるべく使いたくないと考える保護者の中には、リモートワークを選んで休園期間をしのごうとする人も少なくありません。都内在住のBさん(30代)は、仕事の繁忙期に突然保育園が休園になってしまったため、在宅勤務で業務にあたりました。

Bさん
「子どももまだ小さいですし、これから冬にかけてインフルエンザや急な発熱で仕事を休まなければならないことを考えると、上半期の今のタイミングで、年次有給休暇を浪費したくありませんでした。職場の上司は、大変だったら仕事を休んでもいいと言ってくれたのですが、仕事を休んでも結局、自分の業務がたまっていってしまうだけなので、在宅勤務をすることにしました」

しかし、小さな子どもを見ながらの勤務には限界があったと言います。3歳の子どもから目を離して仕事をすることは難しく、日中のほとんどの時間を子どもの世話に費やしました。

仕事の遅れを挽回するために、遅い日では深夜1時、2時まで仕事をしたというBさん。睡眠時間は4時間ほどしか確保できませんでした。それでも、日中に仕事ができないのは自己都合とわりきり、事実上のサービス残業で深夜の時間帯に働いていました。

Bさん
「本音で言うと、休みやすい環境にしてほしい、という気持ちが強いです。職場では休んでいいよ、とは言われますけど、職場の同僚たちにしわ寄せがいくことを考えると、休みづらいという面もあります。小さな子どもがいて、コロナの感染拡大で保育園が利用できないことが、どれだけ大変なのか、当事者にならないとわかってもらえない部分もあるのかなとは思います」

子どもの感染急拡大の今こそ 親が安心して休める支援を

今年4月以降、「仕事を休みづらくなった」という子育て中の人たちの声が数多く寄せられているのが、労働相談などを受け付けている首都圏青年ユニオンです。保育園の休園の影響は非正規雇用の人たちにとってはさらに深刻なものになっています。

「派遣社員なので、私や子どもが感染したらおそらく切られます」

 

「休むと査定に響く契約社員です。感染者および濃厚接触にならないかぎり、補償はなく通常欠勤。せめてワクチンを全員が接種するまでは補償を続けてほしい」

 

「制度があったところで『お前は所詮パート』のような扱いで、休めるが完全無給」

 

「今の制度は、会社が申請しているため、実際は休みをもらえていないケースがあることを知ってほしい。シングルマザーは解雇を恐れて従わざるをえない。有給はとっくになくなり、無給で休んでいる」

 

首都圏青年ユニオンでは、今年6月、今年度に入ってからのコロナ禍での子育てと働き方についてアンケートを実施し、242人から回答を集めました。そのうち非正規雇用の人は80人。休園時の対応として「年次有給休暇を使った」「休んだが無給だった」と答えた人が半数を超えました。

ユニオンはアンケートの結果を厚生労働省に提出し、今年3月末で打ち切られた小学校休業等対応助成金を延長するよう要望しましたが、厚生労働省は、制度の延長は考えていないと回答しました。

アンケートの監修に関わり、非正規雇用の女性労働者の生活困窮などの実態を調査してきた名城大学経済学部准教授の蓑輪明子さんは、デルタ株のまん延で子どもへの感染が広がるなか、仕事との両立に困窮する子育て世帯が増えることを警戒しています。

蓑輪さん
「これから夏休みが終わって学校が再開すると、休校や学級閉鎖の対応に追われる保護者がさらに増えることは容易に予想がつきます。休校や休園になると、濃厚接触者でなくても1週間から2週間、子どもは家で過ごさなくてはならなくなり、濃厚接触者の中には自粛期間中にPCR検査を受けて陽性反応が出て、更に2週間の隔離期間が必要になる人もいます。結果として1か月近く仕事を休まざるを得ない事態に直面する子育て世帯がこれまで以上に増えるリスクがあります」

そのうえで、休園や休校に対応する子育て世帯の親が、不利益な扱いを受けずに休暇がとれるよう、国が企業に働きかけるとともに、休暇期間中の所得をきちんと補償するため、昨年度末で打ち切られた「小学校休業等対応助成金」の制度を今年度も実施すべきだと指摘します。

蓑輪さん
「医療関係者が災害級の感染レベルと警鐘を鳴らすいまの感染状況は、政府が全国一斉の休校を要請した昨年4月と比べものになりません。この状況で、補償内容が脆弱な「両立支援等助成金(コロナ特例)」しか使える制度がないとなると、子育て世代の多くの労働者が苦境に立たされ、特に立場の弱い非正規社員は窮地に追い込まれます。感染状況がより深刻な今、「小学校休業等対応助成金」の制度を復活させることを国は検討するべきだと考えます」

取材後記

突然の保育園休園に翻弄される親のなかには、休園期間中に子どもがコロナに感染し、1か月近く保育園に通えなかったというケースも出ています。新型コロナによりやむを得ず仕事に行けない親が、年次有給休暇の取得やリモートワークで保育園に行けない子どもの面倒をみるのは、子育て世帯の親にとって負担が大きいです。非正規雇用で休むと欠勤扱いになり、家計にダメージを受ける世帯も少なくありません。共働き世帯でも、母親側が仕事を休んで休園対応に追われていて、翻弄される親≒母親、という構図も見受けられました。
災害レベルと言われる感染状況が続くいま、子育て世帯が安心して仕事と育児の両立をはかることができるよう、制度の見直しを考えてほしいと強く思いました。

●相談窓口はこちら
首都圏青年ユニオン

https://www.seinen-u.org/
日本労働弁護団 新型コロナウイルス労働問題ホットライン
http://roudou-bengodan.org/covid_19/

  • 熊谷百合子

    首都圏局 ディレクター

    熊谷百合子

    2006年入局。福岡局、報道局、札幌局を経て2020年から首都圏局。 未就学児の2人の子どもを子育て中。 感染リスクの高い高齢の親にサポートを頼めず、コロナ禍の育児の大変さを身をもって実感。

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