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江戸扇子職人 松井宏さん 伝統の技とコロナに負けない職人魂

  • 2021年8月18日

江戸時代から職人たちに受け継がれてきた「江戸扇子」。この道50年、江戸扇子職人で東京マイスターの松井宏さんの技と、コロナの影響で販売が苦しい中、逆境に負けない「職人魂」に迫りました。
(アナウンサー 宮崎大地)

江戸扇子 広い折り幅に極太の骨

どれも涼しげな絵柄の「江戸扇子」。
竹と和紙のみでつくられていて、余白を生かした粋なデザインです。
江戸時代から作られ始めたもので、細い骨をたくさん使った繊細な京扇子と比べて、広い折り幅に極太の骨が特徴です。
折り幅が広いため、あおいだときに風を起こしやすいほか、丈夫で壊れにくく実用的です。

この道50年 江戸扇子職人 松井宏さん

江戸扇子を作っている東京・江戸川区の扇子工房です。
この道50年の江戸扇子職人、松井宏さん(74)。平成26年に東京都優秀技能者(東京マイスター)に認定されました。

江戸扇子は、絵付けと骨作りを除き、その制作過程を一人の職人で行います。
松井さんは、指先の感覚をたよりに、折り目を入れた和紙に竹の骨組みを差し込んでいきます。
その日の湿度や気温によって、加える力を加減しながらすべて手作業で作ります。
江戸扇子は、こうした工程が細かく分けると30あり、1本仕上げるのに最低でも4日間かかるといいます。
松井さんが作る江戸扇子は丈夫で一生ものだとお客さんからは評判です。
さらに、江戸扇子にはある特徴が…

扇子を閉じたときに、「パチッ!」といい音がするんです。見た目を良くするために、ミリ単位で和紙の折り目をしっかりと合わせて作るので、こうした音が鳴るといいます。 

江戸扇子職人 松井宏さん
「どういう状況であっても、まず目配り、気配り、それから手を抜かない、きちっとしたものをいつも作っていくっていうね。それはいつも、心に刻んでいますね」

父の背中を追って扇子職人へ

小学5年生で、江戸扇子作りを手伝い始めた松井さん。
最初は父である先代の江戸扇子職人、恒治郎さんの手伝いで、配達などを行っていました。
しかし当時、扇子職人になるつもりはなかったといいます。

松井さん
「家族総出で手伝いをさせられるのが嫌で、二十歳ぐらいですかね。サラリーマン経験があるんですよ。社会に出て勉強しようと、でもやっぱり合わないですよね。サラリーマンは、人にも時間にも拘束され、通勤もあるでしょ。それが性に合わないので、高校卒業後3年ぐらいで辞めて、江戸扇子職人になりました」

父・恒治郎さん

昭和43年、21歳で父の背中を追って、本格的に江戸扇子職人の道へ。
なりたての時は、家族が寝静まった夜中に、一人黙々と技を磨いてきました。

松井さん
「親父が寝たあとにそっと夜中、復習予習をするわけですよ。でもつらいと思った事はないですね。好きこそ物の上手なれっていうじゃないですか。作るのがやっぱり好きだったね。だから続けられたと思うんですよ」

30年前に先代の父を亡くした後は、江戸川区内に残る最後の江戸扇子職人として、たった一人、伝統の技を守ってきました。
その松井さんのそばには、いつも、職人だった父の形見のケヤキで作られた先摘台(さきつみだい)(※竹の骨の長さをそろえる台)があります。

父が師匠から受け継いだもので、その歴史は100年を超えていますが、今でも松井さんが現役で使い続けています。こうした道具たちが、松井さんの扇子づくりを支えています。

松井さん
「道具は相棒です。生活の糧を生んでくれるので、人生の伴侶のようなもの。特に先摘台は父親から引き継いだものですから、父親の汗や涙がしみ込んでいると思っていつもつかっているんです」

新型コロナの影響は扇子工房にも

しかし、新型コロナウイルスの影響で、江戸扇子の売り上げは例年の半分以下に。
地域のお祭りやデパートでの実演販売などが減ってしまったため、現在、苦しい中で、やりくりしている状況です。

そんな時に松井さんが思い出すのは、父・恒治郎さんです。恒治郎さんは、松井さんに江戸扇子職人としての心得を教えてくれました。
松井さんの記憶に今でも残るのは、脳梗塞で倒れる間際まで、毎日、黙々と扇子を作っていた姿だといいます。

松井さん
「とにかく父親は一生懸命、一生懸命でしたからね、仕事には。そんな姿をみていると、一生懸命にやらないといけないなと、あきらめない、あきらめない、常に1歩前へと挑戦ですよね」

コロナには負けない職人魂!

江戸扇子職人となっておよそ50年。
新型コロナウイルスの感染拡大でまだまだ先の見えない状況ですが、松井さんには江戸扇子の新たなアイデアも生まれているようです。

松井さん
「柄でいくか、素材でいくか、そのあたりを今ちょっと、考えているところです。柄も現代風の柄とか、アニメが入ったら面白いと思うので、挑戦していきたいなと思いますね。50年くらいやっていますけど、まだ一人前ではありません。まだまだ勉強する事がたくさんあります。コロナに負けてはいられない!」

これからも、1本1本、心を込めて。それが松井さんの心意気です。

  • 宮崎大地

    アナウンサー

    宮崎大地

    2004年入局。大阪放送局や長野放送局などを経てアナウンス室。エンターテインメント業界などを取材。

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