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新しい交差点で相次ぐ事故 通学路の安全は? 千葉・横芝光町からの投稿

  • 2021年8月11日

ことし6月、千葉県八街市で児童5人が死傷した事故のあと、通学路の安全について取材を進める私たちのもとに、千葉県横芝光町の男性から情報が寄せられました。

「開通して間もない交差点で事故が連発しております。とうとう6月、死亡事故が発生してしまいました。子どもたちが安全に通学できるように取り上げてもらえませんか?」

真新しい交差点で何が起きているのか?現場を訪ねました。
「その通学路、安全ですか?」取材班 千葉放送局/記者 坂本譲

一見きれいな交差点

寄せられた投稿に記されていた交差点に行ってみました。

「開通して間もない」という情報のとおり、

▼きれいに舗装され
▼見通しも良く
▼歩行者が歩く場所もポールで区切られていて

一見、危険な要素は見当たりません。

この交差点があるのは、千葉県の北東部に位置する横芝光町。
人口およそ2万3000人、南には九十九里浜、北には緩やかな丘陵地帯が広がります。

投稿者からの紹介を受けて、現場のすぐ目の前に住む大木真樹さんを訪ね、現場を案内してもらいました。

坂本記者

一見きれいですが、この交差点で事故が相次いでいるのですか?

大木さん

この1年半で、物損事故を含めると事故の数は40件はくだらないと思います。6月には死亡事故も起きました。この交差点は中学校の通学路になっているので、いつか子どもたちが巻き込まれるかもしれないと不安の声があがっているんです。

坂本記者

この交差点で40件??

驚く私に大木さんは事故が急増したきっかけを教えてくれました。

大木さん

ここが現在のような十字路の交差点として開通したのは去年3月なんです。もともとはT字路だったんです。今の形になってから急に事故が多発するようになりました。

T字 → 十字で何が?

もともとT字路だったこの交差点。東西に延びる道路は通学路や市民の生活道路として使われてきましたが、「道幅が狭く、歩道もないのに大型車が往来して危ない」という指摘が以前からありました。
そこで、交通量を分散させて子どもたちの安全を守ろうと、新しい道路の整備事業が始まりました。

T字路だった時には、東西に走る道が優先道路でした。しかし去年3月、新しい道が開通して交差点が十字路になりました。この時に、大きな変化がありました。優先道路が南北に走る道路に変更されたのです。
これに伴って東西に走る道路には交差点の手前に一時停止の標識が整備されました。

優先道路が逆転したことで、一時停止が必要な位置も変わりました。
それにより、東西に走る道路(かつての優先道路)の車が一時停止を無視して交差点に進入するケースが相次ぎ、出会い頭の衝突事故が多発するようになりました。
安全のための新道整備でしたが、逆の結果になってしまったのです。

いつか子どもが…高まる危機感

警察によると、交差点が新しくなってからの1年半で人身事故だけで19件も起きていています。ことし6月にはついに死亡事故も起きてしまいました。

事故のはずみで大木さんの家の花壇に突っ込んだ車

大木さんは事故のたびにけが人を救助し、誘導棒を持って交通整理にあたってきたといいます。

大木さん
「事故を起こした人に、どうしましたか、大丈夫ですか、などと話しかけると、『こっちが一時停止だと思わなかった』『いつ変わったんだ』とか『こっちは悪くないよ』などと結構言われて…交差点になって一時停止に変わったことに気づいていない方も多かったようです」

頻発する事故に大木さんは「子どもが被害に遭っていないのは偶然にすぎない」と危機感を強めています。

大木さん
「横断歩道を渡ろうとしたときに、一時停止を無視して目の前を車が通り過ぎることがあるんです。タイミングが悪ければぶつかる寸前です。本当に運が良く、これまで子どもたちが巻き込まれることはありませんでしたが、本当に『たまたまのたまたま』だと思います。横断歩道を渡っていなくても、衝突した車が歩行者に当たることだってあるかもしれない。子どもたちが巻き込まれてからでは遅いんです」

自治体・警察の対応は?

自治体や警察はこの現状をどう考えているのでしょうか。横芝光町は通学路の合同点検を独自に行っています。
この交差点は去年とことし、「優先道路が変わり、一時停止位置も変わったのに信号が無いこと」や、「歩行者が渡ろうとしても無視する車が多いこと」などを理由に、安全な交通に課題がある場所として挙げられています。

これまでに、県や警察などはこの交差点について、

・交差点手前に「交差点注意」の路面標示を整備
・看板を設置
・道路脇に事故防止のポールを設置

などの対策をとってきたといいます。

「交差点注意」の路面標示と事故防止のポール

それでも事故があとを絶たない交差点。ここを子どもたちが通学路として利用していることについて、町の教育委員会に聞きました。

担当者
「教育委員会の職員や学校の先生によって、週に一度、登校時間中の見守り活動が行われていますが、毎日、登下校の様子を見ることができるわけではなく、交通指導にも限界がある。子どもたちが安心して通学できるよう、さらなるハード面の対策を進めていきたい」

信号機をつけてほしい! しかし…

子どもたちが事故に巻き込まれる前にこの状況を変えなければいけない。
大木さんは、交差点に信号の設置を求める要望書を今年6月、県の公安委員会に提出しました。
要望書では、「今までの標識、ポールの設置、一時停止の取締りでは事故は防げない」と訴えました。

ことし7月、警察から電話で要望書に対する回答がありました。

「信号設置の予定はない」というものでした。

なぜ、これだけ事故が多発しているのに、信号機をつけられないのか?その理由は意外なものだったといいます。

大木さん
「この交差点と隣の交差点との距離が150メートル以上ないことでした。隣接する信号機は、原則150メートル以上離れていることが条件になっているというんです」

一体どういうことなのでしょうか。
警察庁が定めた「信号機の設置の指針」を確認すると、確かに、信号設置の条件として「隣接する信号機との距離が原則として150メートル以上離れていること」とあります。
この交差点からもっとも近い信号機との距離は115メートル。条件を満たしていません。

一方で、指針では「(隣接する信号と)誤認する恐れがなく、交通の円滑に支障を及ぼさないと認められる場合は設置できる場合もある」としています。

しかし、地元の警察が県や町とともに調べたところ、現場は「誤認する恐れがある」とされ、信号を設置できないという判断に至ったということです。

警察からは信号を設置するかわりに、

▼交差点内で光る『交差点鋲(こうさてんびょう)』を設置
▼一時停止線を目立たせる赤い舗装のエリアを拡張
▼今まで以上の一時停止取り締まりの強化 

といった対応策を検討すると説明があったということです。

大木さん
「信号機がつかないなら、せめて子どもたちの登下校の時間を中心に警察の方に取り締まりをしてもらいたい。安全とは言い切れない交差点が通学路になっていることに疑問が残るので、今後誰も巻き添えにならないように努力してもらいたい」

1人1人が意識を

「危険な通学路」というと路面の塗装が薄れ、歩道と車道が分離されていない、狭い道路を思い浮かべる人が多いと思います。しかし今回、現場を訪ねてみて、開発などに伴って新たに生まれた、一見しただけでは危険に見えない道路にも危険が潜んでいるケースがあると感じました。

通学路で子どもたちの安全を守るためには、地域の人たちや行政側の不断の見直しが欠かせません。今回の信号機設置のルールのように、意外なハードルが存在することもありますが、こうした状況が改善されないまま、児童たちが巻き込まれることはあってはなりません。
事故を防ぐためにどうするか、ハード、ソフトの両面で早急に取り得る対策を進めていく必要があると感じました。

 
  • 坂本譲

    千葉放送局 記者

    坂本譲

    2020年入局。警察・司法を担当。 大学時代、東日本大震災について研究。これまで台風15号ゴルフ場鉄柱倒壊問題などを取材。

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