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ヤングケアラー 小説「with you」の作者が込めた思いとは

  • 2021年8月10日

「わたしはいなくなんて、なれないんだ。わたしがいなかったら、うちが、こわれちゃうから」 
小説「with you」の中で、中学生の少女が漏らしたせりふです。小説は、ヤングケアラーをテーマに書かれています。なぜテーマに取り上げたのか、作者に作品に込めた思いを聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

ヤングケアラーを小説のテーマに取り上げたのは

今回話を聞かせてもらったのは、児童文学作家の濱野京子さん(65)です。
濱野さんはヤングケアラーをテーマに、中学生向けの小説「with you」を書き、ことしの「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書に選ばれました。

直感で書きたいと思った

大西記者

なぜ家族の介護やケアを担う子どもたちをテーマに設定したのでしょうか?

濱野さん

3年前に偶然ラジオで「ヤングケアラー」という言葉を耳にして、このことを書きたいと直感的に思ったのがきっかけです。そういう状況の子どもたちがいるということにちゃんと気づけていなかったので、知った時は少し驚きました。

大西記者

驚いたとは、具体的にどのような印象を持ったのでしょうか?

濱野さん

一番強く思ったのは、ヤングケアラーの存在が知られていないということです。私も当時は知りませんでしたし、知り合いなどに聞いても誰も知らない。ただ単に知られていないだけでなく、知られていないということは支援が無いということなんですね。
こういう子どもたちは一体どこに支援を求めたらいいのか全く見えてこない、そのことがとても衝撃的でした。

現実はありふれた日常の中に

大西記者

これまでも児童文学の中で、ヤングケアラーに該当する子どもたちは描かれてきているかと思いますが、今回濱野さんが小説を書くにあたって、こだわったことはありますか。

濱野さん

「ヤングケアラー」ということばを、せりふの中に使いたかった。そこはこだわりました。やはりヤングケアラーという名前を持つことの意味は大きいと思っています。かつて当事者だったという方のお話でも、自分がやっていたことに名前があったことを知り、ほっとしたということを聞きました。ヤングケアラーという言葉をあえて何度も使い、多くの人にこの問題を認識してもらいたかったという意図もあります。

大西記者

物語は主人公の中学生・悠人とヤングケアラーの少女・朱音の2人の恋愛模様を中心に進んでいきます。ヤングケアラーをテーマに設定する一方で、介護やケアを中心に描かなかったのには、どんな意図があったのですか?

濱野さん

最近メディアでもよく取り上げられるようになりましたが、どうしても大変な状況に注目しがちです。
しかし、現実はありふれた日常の中にあって、当事者の子どもたちも介護をしながら、友だちと一緒に学校生活を送り、好きな人ができることもあるはずです。
そうした生活の中で、介護によって子どもたちから奪われてしまうものが何なのか。
ヤングケアラーであることは、たしかに大変な状況ではありますが、それだけではなく、子どもらしく生きることが奪われているということを描きたかったので、そのような話の展開を考えました。

大西記者

濱野さん自身も昔ヤングケアラーの経験があるということですが、作品に影響した部分はありますか?

濱野さん

私自身、小学4年生のころに母親が病気で倒れ、中学2年生の時に亡くなるまでの4年間、母親のケアや家事をしていました。きょうだいが自分を含め4人いて、当時とは時代背景が異なる部分もありますが、やはり誰にも話せなかったなという記憶はあります。
当時は病気の母親の話は重いと思われるんじゃないかと思っていましたし、今の子どもたちならより一層、その場の空気を壊したくない、誰かとの関係性が異質なものになるという不安があるのではと思います。
そういった、誰にも相談できないということは、要素として作品の中に入れました。

もっと社会に関心があればヤングケアラーが孤立することもない

大西記者

読書感想文の課題図書に選ばれ、この夏、多くの子どもたちが読むことになると思います。どのように受け止めていますか?

濱野さん

課題図書として「読まなければならない本」だったとしても、もしも誰かがこの本と出会うことができるのなら、それはそれでいいかなと思います。誰にも相談できず、孤立している当事者の子が、自分だけじゃないんだと感じてくれたら、一番うれしいです。

大西記者

ヤングケアラー支援について今後、どのようなことを望みますか?

濱野さん

やはり大人としての役割というのは、こういうことに関心を持って、なんらかの制度を作っていくということだと思います。本当は、もっともっと社会の関心があればヤングケアラーの子どもたちが孤立することもないはずです。だから、私が一番望むのは、自分が書いた物語の状況というのが、古びてしまうことかもしれないですね。ああこんな時代もあったんだねっていうふうになれば一番いいのかもしれないです。ですので、今後も私なりに関心をもっていきたいと思っています。

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。

ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

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  • 大西 咲

    さいたま放送局 記者

    大西 咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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