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子どもたちが壁にはりつく通学路 横浜・都筑区の母親からの投稿

  • 2021年8月5日

「この道を歩いている時に車が来たら、壁にはりついてやり過ごすしかない」

ことし6月、千葉県八街市で⼩学⽣の⼦どもがはねられた事故をきっかけに、危ないと感じる通学路を募ったところ、横浜市都筑区に住む母親からこんな投稿が届きました。案内してもらったのは、車が1台やっと通れる細い道。通勤のためか多くの車がスピードを出して走り抜けるこの道を、毎朝児童たちの登校班も通っています。
悲痛な事故が起きる前に、この危険な通学路をなんとかしたい。母親たちの取り組みを取材しました。
(「その通学路、安全ですか?」取材班/竹内はる香)

「その通学路、安全ですか?」に寄せられた多くの情報

千葉県八街市で児童5人が死傷した事故。通学路で繰り返される痛ましい事故を防ぎたいと、私たちは身近にある危険な通学路の情報提供をニュースで呼びかけました。すると、放送の翌日には90件以上の投稿が寄せられました。

「神奈県 小田原市 城山付近。道幅が狭く、夏になると草木が繁茂し、避けて通らなければならず危険に感じています」(10代・男性)

「神奈川県横浜市磯子区久木町 旧磯子街道。途中に電柱があり、車道に出ないと通学ができない状況です。いつか、事故が起こるのではないかと心配しています」(40代・女性)

「戸塚町〇〇番地付近にある横浜新道の築堤の下を下る部分です。道路がちょうど道幅半分だけ左右にずれていて、『正面衝突してください』とでも言いたいような形になってます」(60代・男性)

投稿者は10代から70代までと世代はさまざまです。具体的な地名とともに、その場所がどんなふうに危険なのか、詳しい情報が書かれている投稿が目立ちました。
「実際に見てほしい」「取材してほしい」という声もいくつもありました。私たちは、投稿を送ってくれた方を訪ねて状況を聞き取る取材を始めました。

“わが子の通学路が怖い” 母親からの投稿

「狭い道で、子どもたちの横を通る車との距離は20cmぐらいです。子どもたちは立ち止まってやりすごしています」

そんな投稿を元に、横浜市都筑区を訪ねました。情報をくれたのは山口みゆきさん(48)と、関根里美さん(47)です。
それぞれ、小5の娘と小3の息子がいる母親。通学路に危険なポイントがあるため、そこを子どもたちが通り過ぎるまで、毎朝一緒に見送りをしています。

投稿をくれた山口さん(中央)と関根さん(左)

危険(1) あわや車と接触! 狭すぎる道

案内してもらうと、その幅2.7m、車1台がやっと通れるくらいほどの狭さの道が見えてきました。ここが山口さんたちにとっての「危険な通学路」。

路側帯もないこの道の右側を歩いて、子どもたちは学校へ向かいます。時には宅配用によく使われる2トントラックが通ることもあるそうです。

山口さん
「この道を渡っている時に車が来てしまった場合は、いったん止まって壁沿いにぴたっと体を寄せるようにと子どもたちに言っています。そうしないとぶつかってしまいそうなくらい、狭くて怖いんです」

この道路を歩いている時に車が横を通ると、どのくらい近くに感じるのか。ふだん児童たちが歩いている側にカメラを設置し、通る車の様子を撮影してみることにしました。カメラの高さは、児童の目線をイメージした130cmにしました。

通行人がいないときの撮影とはいえ、道が狭すぎるため車が歩行者側と非常に近い様子がわかります。目の前に迫る車に、体の小さい子どもはいっそう怖いと感じるのではないでしょうか。

危険(2) 通勤時間帯×抜け道 =車がスピードを落とさない

道の手前には、「徐行願います」と書かれた大きな看板が2つ設置されています。

それにも関わらず、スピードを落とさずに通ろうとする車が後を絶ちません。特に子どもが登校する時間は、運転手にとっても通勤時間帯なのか、せっかちに通り過ぎようとする車が目立つといいます。
取材中にも、大人も怖さを感じるくらいのスピードで走り抜ける車を何度も見かけました。
スピードが落ちない理由として、幹線道路の抜け道になっていることも理由の一つではと山口さんはいいます。

通学路が幹線道路への近道に

この通学路を通ることで、近くの幹線道路に少し早く出ることができます。通勤を急ぐドライバーがよく通る道になっているのではないかと山口さんは考えています。

山口みなみさん(小5)

大きいトラックが速度を出して通るときは特に怖いです。一列になって壁にはりついても、背中にはランドセルを背負っているし、タイヤに足が巻き込まれたらどうしようと思って…。

危険(3) “子どもが走りたくなる”下り坂

小学3年生の息子がいる関根さんは、この通学路にはまた違った危険があるのだと話します。

細い下り坂になっているところ

上の画像は、今回の通学路を上空から写したものです。赤丸で囲んだところが、車が通ると子どもたちがはりつく場所。これまでの写真とは反対側から見ています。

関根さんが危険だと指摘するのは、黄色の矢印で示したところです。ここは比較的急な下り坂になっています。しかも下った先はカーブがかかっていて、車からの見通しはよくありません。

坂を下っていると車が急に出現する

関根さん
「道の先は、狭くてカーブもかかっていて、対向車からは子どもを認識しづらいと思います。もし車が来たら事故になってしまうのではと心配しています」

子どもに走らないよう言い聞かせることはもちろんですが、ドライバーにも、やはりこの道ではスピードをしっかり落として走ってもらうことが必要だと関根さんは感じています。

子どもの事故 繰り返さないためにできることは

八街市の事故が報道されてから、この通学路への地域の人の関心が高まっています。
通学路に面する塀を所有している人が、この塀を使って、通学路の安全を呼びかけることができないかと、山口さんに声をかけてきたのです。

塀の所有者

八街の事故現場が、前々から危ないといわれていたのに対策されていなかった通学路だったと知り、少しでも早く対策ができればと思いました。それで、毎朝子どもたちとこの道を通っている山口さんに相談してみたんです。

山口さん
「子どものために、地域の方から声をかけていただいてありがたいと思いました。同じ登校班のお母さんたちにさっそく相談して、注意喚起のペイントをしようということになったんです」

リスクを子どもと共有 危険を知らせるペンキ塗り

8月の晴天の中、通学路を毎日一緒に通る登校班の児童10人が集まりました。
通学路を通る車から見えるコンクリート塀の出っ張った部分に黄色いペンキを塗り、注意を促すことばを書くことにしたのです。

あまり大きなスペースではないので、大人だけで早く終わらせることもできますが、今回は子どもたちにも参加してもらおうと親たちが相談して決めました。車への注意喚起と同じくらい、子どもたちにも自分の身を守る意識をもってもらわなければならないという思いがあるからです。

山口さん
「いざという時に必ず親が助けられるとは限らないなと…。子どもが自分で自分の身を守らないといけないという状況も出てくるのではと思います。今回、子どもたち自身が塀を塗ることで、『ここを通るときは危険だから気をつけなきゃ』と考えて行動できるようになってくれたら。悲しい事故につながるリスクを少しでも減らしたいです」

後藤 仰くん(小1)

ペンキで壁を塗るのは初めて。楽しかった!これからは、車にひかれないようにもっと気をつけたい。

山口みなみさん(小5)

いつもはお母さんたちが『端に寄って!』と言ってくれているけど、登校班の高学年として、積極的に他の子たちにも声をかけていきたいです。あと、運転手の人がいったん車を止めてくれたり、ゆっくり通ってくれたら、ありがとうの合図をしたいです。運転手の人も、お礼を言われたら『これからもそうしよう』って思ってくれるかもしれないから。

山口さん
「今回、地域の人が私たちの子どものために声をかけてくださった。それがとてもありがたく、大事だなと感じたんですね。今後は私も自分の子だけでなく、地域の子どもたちを守りたいと思うようになりました。娘が学校を卒業しても朝の通学を見守るなど、いただいた思いを次につなげる活動をしていきたいです」

 
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