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コロナ遺族が見る五輪 「楽しめずむなしい」

  • 2021年8月4日

メダルラッシュが続く東京オリンピック。
一方で新型コロナウイルスの新規感染者は各地で過去最多を更新するなど、感染が急拡大しています。
新型コロナで父親を亡くした男性は、オリンピックに対する複雑な心境をこう語りました。
「どうしても父が亡くなったことが思い出され、楽しむ気持ちになれずにむなしい」
(首都圏局/記者 山内拓磨)

自宅療養の末 “さよなら”なき別れ

都内に住む健一さん(仮名・50代)は去年4月、80代の父親を新型コロナで亡くしました。
ただそれは、“さよなら”なき別れでした。

健一さんが父親の感染を知ったのは、久しぶりにかかってきた母からの電話です。
父親は体調不良を訴えたものの、すぐには入院できずに自宅待機となっていたそうです。

入院中の父親(本人撮影)

ようやく入院できたとき、医師から告げられたのは受け入れがたい言葉でした。
「日を追うごとに容体が悪くなっている。回復は厳しい」

病院に頼み込んでガラス越しに姿を見ることができましたが、すでに意識はなく、言葉を交わすことのないまま1時間後、息を引き取りました。
父親はそのまま火葬されましたが、感染対策を理由に火葬場に入ることも許されませんでした。

健一さんはひと言だけでも伝えたかったと悔やみ続けました。
「今までありがとう」と。

「父の死は何だったんだろう」

それから1年余り。
健一さんは毎月欠かさず墓参りに訪れているといいます。
月命日に合わせて訪れた7月下旬。
墓前で手を合わせたあと、こう話しました。

「父の死は何だったんだろうと思ってしまう」

心を痛めていたのは、新型コロナウイルスの感染状況でした。

健一さん
「本当は父にとって1番いい報告は、『ようやくコロナが収まったよ』ということだと思っています。ただ、今は反対に感染が拡大するいっぽうなのがとても残念です。ここに墓参りに来るたびに、『父の死は何だったんだろう』と思ってしまいます」

「父の死をむだにしないで」 その思いは

ことし2月に健一さんを取材した当時、ニュースでは「新たな感染者は減少傾向が続いているが、亡くなる人の数は高い水準が続いている」と報じていました。

このとき繰り返し訴えていたのは、「父の死をむだにしてほしくない」という思いでした。

健一さん
「自分の中に父の死をむだにしたくない、むだにしてほしくないという思いがあります。自分や母のように苦しむ遺族が大勢いると思うと、いたたまれなくなります。あしたは変わるのかと思っても全く変わってない状況で、本当に何とかしてほしいです」

それから5か月たちましたが、今これまでにないペースで感染の拡大が進んでいます。

今回、話を聞いている途中で、東京都内の1日の感染者が過去最多の3865人になったことを知らせるニュース速報が出ましたが、健一さんは表情を変えることなく画面を見つめていました。

健一さん
「正直、もう何人増えても驚きはなく、ため息しか出ないです。以前は感染する人が100人で大騒ぎしていました。ことし1月にも感染者が2500人を超えて騒ぎましたが、また同じことが続くのかと思ってしまいます。
父はすぐに入院できずに自宅待機になり、2回救急車で搬送され、最後は人工呼吸器を付けたまま亡くなりましたが、もっと早ければ助かったのではないかと今でも思っています。そう考えると病院が一杯になってしまうと、助かる命も助からないのではないかと心配しています」

オリンピック 「感動よりもむなしさ」

感染が拡大する中でのオリンピック。
健一さんも父親を亡くすまでは、楽しみにしていたといいます。

しかし、開幕して日本人選手の活躍が日々伝えられる今になっても、「どうしても父が亡くなったことを思い出してしまう」と複雑な胸の内を明かしました。

健一さん
「オリンピック自体は悪いことではないですし、選手はみんな頑張っていると思います。本来なら応援したいのですが、どんなに金メダルがいっぱいあっても素直にすごいなという気持ちにはなれず、きょうの感染者が多かったことの方が大変だという気持ちになってしまいます。
特にもうすぐお盆なので、どうしても父が亡くなったことを思い出し、頭の整理がつきません。
純粋にオリンピックを見て喜んだり楽しんだりができない自分が寂しく思えてしまいます。24時間患者さんに対応している医療従事者や学校の行事がなくなってしまった子どもたちなどみんなが我慢して大変な中で、なぜオリンピックをやっているんだろうという思いがよぎってしまって、素直に拍手を送れないでいます。感動よりもむなしさしかないです」

1人が亡くなることの重み

これまでに新型コロナで死亡した人は、1万5219人(8月3日現在)
亡くなる人の数は一時期よりは少なくなっていますが、健一さんにとっては数が問題ではないといいます。

健一さん
「亡くなる人の数が減ったから喜ばしいということではなく、1人の方が亡くなるということは大変な思いをした人がいて、その家族も苦しんでいるということです。そうした悲しい思いで亡くなった人が、父が亡くなったころは500人くらいでしたが、1万5000人もいるということです。きょうが0人でも、あすは10人かもしれない。遺族からすれば、その1人の命というのはすごく重いと思うんです。
父が亡くなった頃は、コロナの怖さや感染したときの大変さはニュースで大きく伝えられていました。1人が亡くなったというだけで大騒ぎしていたのに、多くの人が亡くなるにつれて数字でしか表されなくなっているように感じます。コロナの怖さが伝えられず、皆さんの危機感も薄れてしまっていると思います」

取材後記

コロナ遺族として率直な思いを聞かせてくれた健一さん。
聞きづらい質問でしたが、「父の死をむだにしないでほしいと言っていたが、今どう思っているか」と問いました。
健一さんは、次のように繰り返しました。

「オリンピックだからしかたない、優先なんだということで、もし感染する人や亡くなる人が増えてしまったならば、父の死はむだであったとしか考えられません」

感染拡大に歯止めがかからない中、大切な家族を失ったことを「むだだったのではないか」と感じている遺族。
問いかけは重いと感じました。

  • 山内拓磨

    首都圏局 記者

    山内拓磨

    2007年入局。長崎局、福岡局を経て報道局社会部。検察担当などを経て、2020年から首都圏局。憲法やコロナ取材を担当。

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