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不登校に悩む親を支えるSNS相談 経験者の学生たちがアドバイス

  • 2021年8月3日

「不登校の子どもがいます。親は何をしたらいいのでしょうか?」
「私も人間関係に疲れていたのでよく分かります」 
「今は特に何もしないで。ご飯を作ってあげて下さい」

いま、注目を集めている不登校の親のためのSNS相談サービスがあります。相談に答えるのは、不登校やいじめられた経験のある現役の高校生や大学生。子どものことが分からないと悩む親に、実体験に基づいたアドバイスを繰り出します。分かり合うことが難しい親と子を支えるその取り組みを取材しました。
(首都圏局/ディレクター 古田優季)

親の悩みに“子ども”がこたえる ユニークな相談室

SNS上に開設された“1818相談室”。
“子どものことで悩む親の相談に子どもが乗る”というのがコンセプトの相談サービスです。

子どもの気持ちがわかりません

 

娘と同世代のご意見お願いします

 

相談のやりとりはすべてSNSのダイレクトメッセージで行われます。
子どもとの関係に悩む親から相談が届くと、相談員を務めている29人の学生のうちの数名がアドバイスを返信する仕組みです。匿名で、24時間いつでも相談ができます。
相談員を務める高校生や大学生の半数以上は、いじめや不登校の経験があります。「自分のつらい経験を、誰かを助けるために生かすことができるなら」と協力を申し出た学生たちです。

自分の子どもと近い目線からのアドバイスがもらえるとあって、子どもとのコミュニケーションが難しいと悩んでいる親からの相談が相次いでいます。

相談した母親
「実際に親子で話し合うと感情的になってしまうけど、相談員たちのメッセージは素直に受け止めることができたし、それでいて、実の娘から言われたようで心に響きました」

不登校だった私だから分かる気持ち

この相談室を立ち上げたのは群馬県の高校3年生、郡涼葉さんです。
郡さん自身もかつて不登校を経験しました。

中学3年生の時、委員長を務めていた放送委員会で、進行を邪魔されたり悪口を言われたりする嫌がらせを、1年間にわたって受けました。なんとか中学校は卒業したものの、憧れの高校に入学した3日後、学校に通えなくなりました。

郡さん
「中学時代の経験から、とにかく人が怖くなってしまって、人に会いたくない、関わりたくないという気持ちでした。笑い声が全部自分に向けられている気がして怖くて、同年代の女の子がたくさんいる環境にいたくないと思いました」

中学時代に嫌がらせを受けていたことは、当時、親には話していませんでした。

「やっぱり親にはばれたくない、話すのが恥ずかしいっていう思いがあって。親子で不登校の原因について話すことはなかったです」

郡さんの母親にとっては、思いもよらないことでした。娘から「もう高校には通えない」と、通信制高校の入学案内を差し出され、仰天したといいます。

母親
「娘のことを分かっているつもりでいたので本当にびっくりして。突然“高校をやめたい”と言い出してからは、どうして?なぜ?と戸惑うばかりで。娘はちょっと話をはぐらかすような感じで「人と関わりたくない」の一点張りだったので、状況が悪化するのも怖くて、不登校の原因については本人に聞けませんでした」

娘の気持ちが分からない。知りたくても聞けない。
この先どうなってしまうのかと思い悩む日が続き、食事もとらず1日ぐったりと横になったままのこともあったそうです。
その後、郡さんは通信制の高校に通い始め、不登校になったきっかけについて徐々に親子で話せるようになりました。
しかし郡さんは、母親の落ち込んだ姿がずっと忘れられませんでした。

郡さん
「いつも笑っていた母が、私のせいで寝込んでいる状況にすごく衝撃を受けました。母のように、子どもの気持ちが分からなくなって悩んでいる方がたくさんいるんじゃないか。当時の自分の経験や気持ちがそういう不登校に悩む親子の力になるんじゃないか、という思いから相談室を立ち上げました」

子どもに何をしてあげればいいの? 悩む母親

5月、相談室に新たなメッセージが届きました。中学生の息子の不登校に悩む母親からのものです。

息子から学校に行きたくないと言われました。理由を聞いても、“人間関係に疲れた”と繰り返すばかりで、どうしたらいいのか全く分かりません。今の私は何をしてあげられるでしょうか。

 

相談を送ったのは東海地方に住む斉藤さん(仮名)です。中学生の息子とはなんでも話す仲で、悩みがあると感じたこともなかったそうです。そんなある朝、息子が急に学校に行かないと言い出したのです。前日まで普通に登校していたのになぜ…。理由を聞いても返ってくるのは「疲れた」という言葉だけ。どう対応すれば良いのか、途方に暮れたといいます。

斉藤さん(仮名)
「息子の “疲れた”は私が想像しているような、少し休めば元気になるようなものではないのかもしれません。私の物差しで測っている限り、子どもの考えている事は理解できないと気付かされた時に、やはり限界を感じました。それで、息子と同じような経験をした相談員の方に、気持ちを教えてもらいたいと思ったんです」

メッセージを送ると、学生たちからすぐにアドバイスが届きました。

相談員の学生

私も人間関係に疲れてほとんど中学には行っていませんでした。今は何か特別なことをせず、ただ息子さんのことを見守ってあげてください。

相談員の学生

息子さんの疲れが取れるまで見守ってあげましょう。お母さんはずっと息子さんの味方でいてあげてください。息子さんはきっと大丈夫です。

アドバイスに記されていたのはどれも「見守ってあげて」という言葉でした。
親として、具体的な対策をとらなければならないと考えていた斉藤さんにとっては意外な答えでした。

斉藤さん(仮名)
「私はずっと不登校が起きてから、何か特別なことをしなければと思っていたので、そこではっと気付かされて、特別である必要はないんだということ、味方であり、見守ることの大切さを改めて教えていただきました」

さらに、相談員の回答の中にはこんなアドバイスもありました。

相談員の学生

3食ご飯を用意して、規則正しい生活が続けられるようにしてあげてください。

 

このアドバイスを送ったのは高校3年生の相談員。自分自身が不登校だった頃、毎日ご飯を作ってもらったことが、大きな支えになっていたといいます。

相談員の高校生
「不登校になっても変わらずご飯を作ってくれたことで、私のことを心配してくれてるんだな、愛されてるんだなと感じました。それがうれしかった」

アドバイスを受けて斉藤さんは、あえて学校に行かないことを話題にせず、食事を作って一緒に食べることを大切にしようと決めました。仕事があって一緒に昼食を取ることが出来ない日にはお弁当を用意することにしました。

お弁当には好物の肉料理を入れるようにしています。ご飯を食べることが少しでもホッとする時間になるようにとの思いからです。面と向かってはなかなか言えない「味方でいるよ」という言葉を、お弁当に込めています。

仕事から帰ると、真っ先にキッチンを確認します。食べ終わって空になったお弁当箱がシンクに置かれていると、少し気持ちが届いたのかな、と嬉しくなります。

斉藤さん(仮名)
「これだったら私にもできる。何かをやってあげたいけど、何もやってあげられないという気持ちが少し埋まった感じがします。未来につながっていくかどうか分からないですが、いま私がやってあげられることが具体的に分かって、すごく気持ちが楽になりました」

学生運営ならではの難しさ 相談室のこれから

開設から半年。相談室には学生たちが運営しているからこその課題もあります。
相談が増えている一方で、答える側の学生たちはテスト期間や、部活などにも追われていて、回答するのに時間がかかってしまうことも。
郡さん自身も受験生で、受験勉強と活動の両立に忙しい毎日です。安定した相談サービスのためにも協力してくれる学生を増やし、大学に入ってからも続けていきたいといいます。

郡さん
「不登校になってよかったなって思うことは絶対にないですけど、少しでもその経験が人の役に立つことで、当時の自分が救われるような気がします。この経験があったからこそいろんな方に寄り添って、少しでも気持ちを明るく前に向かせるお手伝いができていると思うので、これからも親子を支える活動を続けていきたいです」

取材後記

取材を進める中で、一人の母親から「実の親子の方が分かっていないこともたくさんある」と言われました。振り返れば私自身も、学生時代、親には言えない思いがありました。私の親も、当時は娘の気持ちが分からないと悩んでいたんじゃないかな、と取材を通して気づかされました。
「親子だからこそ言えない、聞けない」
決して珍しい悩みではなく、多くの家庭で生まれうる状況なのではないでしょうか。不登校状態の子どもが過去最多と言われている今、この悩みへの答えを求める人はますます増えていくかも知れません。親と子がわかり合うことを手助けするこの活動が、これからも多くの親子の支えになってほしいと思いました。

  • 古田優季

    首都圏局 ディレクター

    古田優季

    2021年入局。大学時代は主に人的資源管理など経営学を学んでいた。

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