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人気漫画「リエゾン」にヤングケアラー 原作者と編集者に聞く狙い

  • 2021年7月21日

人気漫画雑誌「モーニング」(講談社)に掲載されている『リエゾン-こどものこころ診療所-』。この漫画の中で、ヤングケアラーをテーマにした連載が6月末から行われていて、SNSを中心に反響が起きています。なぜテーマに選んだのか?作品に込めた思いを原作者と編集者に聞きました。
(さいたま放送局/記者 大西咲)

ヤングケアラーを漫画のテーマに

今回、話を聞かせてもらったのは、原作者の竹村優作さんと、編集者の田ノ上博規さんです。
2人は、病気や精神疾患を患う親子と向き合う児童精神科医を主人公にした漫画『リエゾン-こどものこころ診療所-』の連載を、去年3月からスタート。6月末からは「ヤングケアラー編」が始まっています。
(※今回、竹村さんと田ノ上さんの希望でイラストでのご紹介としています)
 

大西記者

なぜ家族の介護やケアを担う子どもたちをテーマ設定したのでしょうか?

竹村さん

ことしの3月か4月ごろに、ヤングケアラーという言葉を報道で度々目にしたのがきっかけです。精神科にかかる精神疾患の患者さんが子を持つ親であれば、その子どもが、また、子どもが発達障害を持っていればそのきょうだいが、ヤングケアラーという問題に突き当たるのは、前々から実感していたので、一度掘り下げたいと思いました。

「誰しもなる可能性がある」

大西記者

漫画では、病気の母親をひとり娘の子どもがケアする中で、自分の進路を諦めざるをえないという設定になっています。ヤングケアラーの中にはさまざまな状況の子どもがいる中で、なぜこの設定にしたのでしょうか?

竹村さん

ある日突然、脳梗塞などで親が病気になって介護が必要になり、誰でもヤングケアラーになる可能性がある、ということを描きたいのが1番でした。
高齢出産で親自身も高齢になっていたり、ひとり親世帯が増えたりしていることが、少しずつ問題になってきているという実感はあったので、そうした点を踏まえ「病気で倒れた母親を世話する子ども」というシチュエーションを選びました。

田ノ上さん

私の母親は昔、今で言うヤングケアラーだったと言えるのかもしれないと思っていました。
祖父は腕に、祖母は目に障害があり、母は、妹たちの学費を稼ぐために自分の進路を諦める体験をしていて、母親からは幼いころから「私自身ができなかったことをあなたには頑張ってほしい」と言われて育ちました。そのことがずっと心に残っていて、漫画の中には要素として少し入れてもらっています。

 

大西記者

作品の反響をSNSなどでも見かけます。竹村さんも、田ノ上さんも、SNSをチェックしていますか?

竹村さん

読者の反応はチェックしています。
「自分もヤングケアラーだったと気付いた」「同じような経験をしていた」といった当事者の声は、どういう受け止め方をしたのか、関心もあり、怖くもあります。
「泣いた」「取り上げてくれて良かった」という受け止めを見ると、うれしいなと思います。

田ノ上さん

「リアルじゃ無い」「お母さんの描写がちょっと違うんじゃないか」と言われる怖さは作っている側としてはあり、リアリティーがあるかどうかは心配していました。ただこの作品には、誰かが読んで救われていたらいいなという思いがあり、その点では読まれている喜びの質は他の作品とは違います。

助けが必要な時は大人に助けを求めていい

大西記者

「ヤングケアラー編」を通じて、どのような言葉を伝えたいと考えているのでしょうか?

竹村さん

スクールカウンセラーや当事者の意見を聞くと「SOSを求めてもいい」というメッセージが一番強いと感じました。ですので、漫画の着地点でも「子どもが世話をしていて偉いね」ということではなく、「助けが必要な時は大人に助けを求めていいんだよ」というものにしたいと思いました。

田ノ上さん

親の世話や家族の世話をするのはすごくいいことだと、ずっと言われてきていると思います。でもそれは、子どもたち自身の人生を犠牲にしてもいいことだと本当に言えるのか、一度立ち止まって考えるきっかけになってほしいと思っています。

 

大西記者

ヤングケアラーに関する報道が増えていますが、漫画を通してヤングケアラーのことを知ることも、大切なきっかけのひとつだと感じました。

竹村さん

虐待など、痛ましい事件があった場合、一時的にでもニュースに取り上げられ、注目度が高まると思います。ただ、ヤングケアラーの場合は、なかなか表面化しないことが問題の本質、非常に根深い部分です。その点を漫画で伝えることができたら、うれしいと思います。

田ノ上さん

活字や映像の良さはもちろんあります。ただ、活字や映像が描けないような部分を漫画は補えるのではないかと思っています。
また、ヤングケアラーという言葉についても、日々ニュースを把握している人はもちろん知っている言葉ですが、ニュースに触れていない層もいると思いますので、そうした人たちにも届いてほしいと思っています。

自分の人生を生きていい

大西記者

ヤングケアラーの当事者の子どもたちも、この漫画に出会うことがあるかもしれません。そうした子どもたちには、どんな言葉をかけたいですか?

竹村さん

自分が限界だと思ったときには、SOSをあげていいということを、一番伝えたいです。ただ「家族の介護やケアなんかしなくていい」という意味ではありません。自分がこれまでしてきたことは素晴らしいことだけれど、ちゃんとSOSを求めて「自分の人生を生きていいんだよ」ということです。
子どもたちが介護やケアをすることを、美談にもしたくはないですし、否定もしたくないと思っていると伝えたいです。

田ノ上さん

竹村さんが全て話してくれましたが、あえて追加するならば、ヤングケアラーの問題の解決に向けて、できることを本気でしたいと思っている人たちがいるということを伝えたいです。
漫画の中で、当事者の子どもを救うために大人が動く場面がありますが、そこには私たちの願いも込められています。みんなのことを助けたいと思っている人が必ずいると伝わればうれしいです。

NHKではこれからも、ヤングケアラーについて皆さまから寄せられた疑問について、一緒に考え、できる限り答えていきたいと思っています。

ヤングケアラーについて少しでも疑問に感じていることや、ご意見がありましたら、自由記述欄に投稿をお願いします。

疑問やご意見はこちらから
 

  • 大西 咲

    さいたま放送局 記者

    大西 咲

    2014年入局 熊本局、福岡局を経て去年夏から現所属。 介護福祉分野を6年取材。

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