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千葉 八街市の事故を繰り返さないために 「その通学路、安全ですか?」

  • 2021年7月19日

下校中の小学生がトラックにはねられ2人が死亡した事故が起きた千葉県八街市。5年前にも同じような事故が起きていました。その時、けがをした女の子の父親は、通学路の安全対策を学校や行政に求めてきましたが、事故が繰り返されたのです。女の子は事故のあと、繰り返し訴えていたそうです。

「学校に行きたくない。外に出たくない。私が悪くなくても、車が悪ければ、ひかれるんだ」
どうしたら通学路の安全を確保できるのか、取材を進めるための情報を募集します。
あなたの周りの危険な通学路を教えてください。
(「通学路の安全」取材班)

生かされなかった5年前の教訓

児童5人が死傷した八街市の事故現場

6月28日、千葉県八街市の通学路で下校中の小学生の列にトラックが突っ込み、児童5人が死傷する事故が起きました。
逮捕された運転手からは基準を上回るアルコールが検出されました。

飲酒運転の問題とともに、今回の事故で課題となっているのが「危険な通学路」の問題です。
現場の通学路はPTAなどから危険性を訴える声が上がっていたものの、ガードレールの設置といった対策がとられていませんでした。

実は、この現場の近くでは5年前にも、同じ小学校の児童4人が通学路ではねられてけがをする事故が起きていました。

けがをした女児の父親
「あの事故がありながら、なぜ危険な通学路が残されたままだったのか。やりきれません」

NHKの取材にこう話してくれたのは八街市の50代の男性です。5年前の事故で長女がけがをしました。

事故はガードレールのない通学路で起きました。
トラックが歩道に乗り上げて登校中の児童の列に突っ込み、当時、小学5年生だった男性の長女を後ろからはねました。
長女は3メートルほど離れた草むらまではね飛ばされたといいます。友達に助けられましたが、全身に打撲やすり傷を負いました。

事故直後の現場(2016年11月)

事故のあと、長女は外に出ることを怖がるようになりました。
学校も、好きだった買い物にも行こうとせず、家にこもりがちな日々がしばらく続きました。
交通ルールを守り、歩道を歩いていたのに事故に遭った。そのことが大きな恐怖として心に刻まれてしまったようでした。

男性
学校に行きたくない。外に出たくない。私が悪くなくても、車が悪ければひかれるんだ。娘はこう訴えたんです。いくら子どもが気をつけても、車が突っ込んできたら終わりじゃないですか」

届かなかった声

事故からおよそ1か月後、現場にはガードレールが設置されました。

現場に設置された白いガードレール

しかし、長さはおよそ20メートルほど。
事故現場以外は、今もほとんどガードレールのない状態がつづいています。

「ここだけつけたって意味がない」

長女はガードレールを見て、こうつぶやいていたそうです。

男性は事故のあと、様々な場所にある「危険な通学路」が目にとまるようになりました。
気がついた点は市などにも伝えたそうですが、多くの道路でいまだ対策がとられていません。

男性
「5年間の事故を踏まえて危険な通学路への対策を徹底していれば、今回の事故もなかったと思います。他にもたくさん対策がされないままの通学路があります。行政にはそのことを重く受け止めて、子どものために対応してもらいたい」

危険な通学路はほかにも

男性の話を聞いた私たちは、多くの児童が利用する住宅街から学校へ向かう通学路を実際に歩いてみることにしました。すると、次々に危険だとおもわれる場所がみつかりました。

1)歩道のない通学路

歩き始めてすぐ気になったのがこの道です。写真の奥に広がる住宅街の児童が利用しています。

歩道のない通学路 「学童多し」看板の文字はほとんど消えていた

道幅は車がようやくすれ違えるほど。ガードレールや歩道はなく、歩道と車道を分ける線もありません。
写真の左側にある黄色い「学童多し」の看板。その文字は薄れてしまってほとんど見えなくなっていました。近くには多くのトラックなどが出入りする工場もあります。道路脇に立っていると、車と車がすれ違うときにかなり近くを通るため、危険を感じることがありました。

2)車道までせり出した雑草

草が車道までせり出している

こちらは通学路を示す「スクールゾーン」の表記がある道です。そもそも路側帯がありません。さらに草がせり出していて、子どもたちは車道を歩かざるを得ない状況でした。

3)ガードレールの外側を歩く子どもたち 

そのすぐそばの交差点の先には、ガードレールの外側を一列になって登校する児童の姿が。

ガードレールは車道と私有地を隔てているだけで、歩行者は外側の路側帯を歩くしかありません。地元の人によると、この道路は「抜け道」となっているため常に車が行き交っているそうです。

4)狭い道 はみ出す車

道路沿いに商業施設の入り口があるところは、さらに車通りが多くなっていました。

道路には中央線がなく、車がすれ違う時に路側帯にはみ出す様子が何度も確認できました。実際にこの道の路側帯を歩くと、外側に膨らんだ車が肩すれすれを通過することがあり、ヒヤリとさせられました。

子どもの安全は誰が守るのか?

この日、通学路を歩いてみて、大人である私たちでも危険を感じた場所がいくつもありました。
消えている看板、草がはみ出した道路、歩行者を守っていないガードレール…。
子どもが安全に登下校できるか、という視点を欠いているようにも思えます。
もし無謀な運転をするドライバーが来たら、どうやって自分の身を守ればいいのか戸惑う場所もありました。
「安全かどうかはドライバー次第」
そんな通学路を減らさなければならない、そう感じました。

今回の取材で、冒頭に紹介した事故にあった女の子の父親が、私たちにみせてくれたものがあります。
それが事故当時使っていたというピンクのお気に入りランドセルです。

指で示したところの傷は、事故で跳ね飛ばされた時に出来たものだそうです。

「学校に行きたくない。外に出たくない。私が悪くなくても、車が悪ければ、ひかれるんだ」

子どもにこんな風に思わせてしまう事故を防ぐのは、周囲の大人、そして社会の務めだと、この傷は訴えているように思えてなりません。

取材班では「危険な通学路」について、多くの人たちと一緒に考え、解決策を探っていきたいと思っています。ぜひ、あなたが危険だと感じる通学路について、投稿フォームから情報をお寄せください。
また、「こうして危険な通学路を減らすことができた」という皆さんの取り組みもお聞かせください。
寄せられた情報を「問題提起」そして「問題解決」につなげたい。そう考えています。

 
  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て、千葉局で県政や選挙事務局などを担当。

  • 大久保 美佳

    首都圏局 ディレクター

    大久保 美佳

    2020年度入局。貧困や福祉、労働問題などに関心を持ち取材中。

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