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私立高校入試も女子が不利? 都立高校男女別定員制から見た現実

  • 2021年7月13日

今年3月に掲載した「都立高校入試の“男女別定員制”同じ点数なのに女子だけ不合格?」。これまでに多くの声が寄せられました。その中でも、娘がことし都立高校を受験したという母親から届いたメッセージが、目に留まりました。

「素敵な(私立の)女子校はたくさんあるのに…“高校からは入れない”」

都立高校入試が女子生徒にとって狭き門になっているだけでなく、私立高校の入試でも女子の選択肢が限られているというのです。いったい、どういうことなのでしょうか。
(首都圏局/ディレクター 半田紗英子)

高校受験でがく然 東京の私立高校入試の現実

意見を寄せてくれたのは、都内在住のAさんです。3年前(2018年)の春、夫の仕事の都合で、娘が小学校を卒業するタイミングで東京へ引っ越してきました。しかし東京での受験については、まだ先のことだと思い漠然としか考えていませんでした。

「都内には都立だけでなく私立にも素敵な学校が多いから、高校受験の時にその中から選べばいいかな」

娘は成績も良く、行きたい高校に挑戦してほしいと、高校受験のことを本格的に考え出した中2の夏、ある事実を知ってがく然としたそうです。

「受験できる高校が少ない」

進学校とされる私立の女子校の多くが入学者を募集していませんでした。行きたいと思う高校は、中学の入試で生徒を集める中高一貫校で、高校では生徒を募集していなかったというのです。

Aさん
「知らなかったのは私だけなのでしょうか?都内の私立の女子校が、まさかこんなに高校からは入れないなんて。娘のためを思えば、転居せず地元で高校へ進学させてあげるか、もっと早くに東京へ来て、中学受験をさせてあげたらよかったのか。もっと娘にとって良い選択肢があったのではないかと、今でも考えるときがあります」

加速する“完全一貫化” 消える高校女子募集枠

Aさんがこう感じた背景には、都内では私立校の中高一貫化が進み“中学受験の大衆化”が加速していることがあります。
東京都教育委員会の「公立小学校卒業者の進路状況推移」をみると、都立の公立小から私・国立中に進学する割合は、1989年度は11.6%でしたが、2019年度には18.8%に拡大。クラスの5人に1人が中学受験を経験しています。

安田教育研究所の安田理さんは、その理由をこう指摘します。

安田教育研究所 安田理さん
「先取り学習による大学入試対策や、個性を伸ばしてくれる独自の教育方針など“面倒見のいい中高一貫校で大学受験に備えたい”と考える親が増えている。上位校を受けるほどの学力や財力がある家庭ほど、私立の一貫校に行きます」

こうした傾向に伴って消えつつあるのが、中高一貫校の高校での生徒募集です。
以下の表は、大手学習塾が公表している中高一貫校で、私立中学受験の偏差値60以上の男子校と女子校の一覧です。そのうち、オレンジ色で示したのが、高校でも生徒を募集している学校です。

 

偏差値60以上の男子校・女子校一貫校と高校入試実施
男子校 開成 麻布 早稲田 駒場東邦 海城 早稲田大学高等学院 武蔵 巣鴨 芝 攻玉社 本郷 世田谷学園 東京都市大学付属 桐朋 高輪
女子校 桜蔭 豊島岡女子学園 女子学院 雙葉 鴎友学園女子 白百合学園 吉祥女子 立教女学院 頌栄女子学院 香蘭女学校 東洋英和女学院 学習院女子

(偏差値データ提供 四谷大塚)
 色は高校入試を実施

高校入試を行っているのは男子校では5校あり、募集定員はあわせて600人あまり。
一方の女子校は高校入試を実施して生徒を受け入れるところは1校もありません。
“完全中高一貫化”の方針で、募集を停止している学校ばかりなのです。

 

受験界に衝撃 “豊島岡ショック”
受験業界や学校関係者の間で“豊島岡ショック”と呼ばれる出来事があります。これまで高校でも生徒を募集していた豊島岡女子学園は、高校から進学校を目指す成績上位層の女子の貴重な受け皿となっていました。しかし2年前、2022年度入試からの高校募集の停止を発表したのです。高校入試での女子の貴重な選択肢が消えたことが、大きな衝撃として受け止められました。

大学付属校受験も女子にはハードルが

人気の大学の付属高校も、女子にはハードルが高くなっています。
高校からの進学先として都内の受験生からの人気が高い早稲田大学や慶應大学、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)と呼ばれる大学の付属校・系属校。その募集定員は、早稲田・慶應の付属・系属校では男子1185人に対して女子が240人。MARCHの付属・系属校では男子580人に対して女子が220人と、男女で大きく異なっています。

安田さん
「高校入試では私立大の付属校・系属校が人気ですが、多くの人が希望する早稲田や慶応は、歴史的な背景もあり男子校が多い。共学でも、募集定員は女子の方が少ないです。人気が高く受験者には困っていないので、この状況を変えることはなかなか難しい。こうした中で私立の中高完全一貫化が進み、高校入試における女子の競争激化につながっています。女子が希望の高校に進学するためには、ますます中学受験をせざるを得ない状況になっているのです」

女子生徒の“狭き門”は一部進学校の現象

注意すべきは、女子に対する狭き門は、一部の進学校や人気の大学付属校などに限った現象だということです。
東京都が出している私立高校全体の募集状況を見ると、女子校は46校あるのに対し男子校は18校。募集人数も女子が男子のおよそ3倍です。

かつてのポジティブアクションが女子の足かせに

都立高校の男女別定員制や私立高校の入試で女子生徒が置かれているこうした現状をどう考えればよいのでしょうか。

都立高校の男女別定員制は、戦前の男女別の教育で、男子に比べて理数科目の授業が少ないなど学力差が生じてしまう状況にあった女子に、戦後、男女共学校の入学枠を確保するために設けられた経緯があります。私立の女子校が男子校より多いのもまた、女子の教育の機会を増やすために創立された歴史的背景があります。

しかし、男女の学力差がなくなった現代。これまでの高校のあり方と求められる形にずれが生じています。進学校を希望する女子が増えた一方で、完全一貫化の進む私立の女子高はその受け皿として十分ではありません。その影響を受けた都立高では男女別定員制が女子の競争を激化させています。もともとは女子へのポジティブアクションだったものが、現代においては受験の構造をいびつにし、女子に過剰な努力を強いる存在に変わってしまっているというのです。

現役の予備校講師で受験コンサルタントでもある新野元基さんは、こう指摘します。

新野元基さん
「“男女別定員があるから女性が不利”というのは少し短絡的だと感じます。女子の点が高くなってしまう原因は、高校入試での女子の選択肢が少ないこと。しかもその選択肢の少なさは、上位校の女子が特に顕著です。男女別定員制を廃止すれば、不公平感は見た目上解消できるかもしれませんが、高校入試に関しては、女性に選択肢が少ないことは間違いないので、私立の状況も含めて考える必要があります。都立だけで解消しようとしても難しいのではないでしょうか」

女子の狭き門と家庭環境

私が小学6年生だった12年前も周囲からこう言われたのを覚えています。

「中高一貫校に進学した方が大学受験の対策に良い」

 

「女の子は中学受験で頑張らないと」

 

その頃よりもさらに変化の激しい今の受験は、不利な立場に置かれた女子だけでなく、その親にも相当な努力が求められます。冒頭に紹介したAさんの「知らなかったのは私だけなのか」「もっと他に良い選択肢があったのではないか」ということばが思い出されます。

ふだんから予備校で受験生と接している新野さんから、取材の中でこんな話を聞きました。
「最近、高校生や浪人生が『親ガチャ』ってことばを使うんですよ」
ガチャとは、スマホのゲームなどで、1回数百円程度の抽選によって、ゲームで使うカードや物を購入する仕組みのことです。もとはカプセル入りおもちゃの販売機のハンドルを回す音から来ているとされます。このガチャのように、偶然生まれた家庭環境によって子どもの人生が大きく左右されることを意味したことばが「親ガチャ」なのです。

新野さんのツイート

もちろん、「親ガチャ」は男子にも当てはまることです。それでも、女子であるだけで不利な環境に置かれ、厳しい競争を勝ち抜くには中学受験に早くから備えることができる家庭環境が必要になる、そんないまの状況に疑問を感じます。

都立高校の男女別定員制と私立高校の女子受け入れ枠に関する課題は、戦後教育のあり方がいまの日本社会に合わなくなってきたことで現れてきたといえるのではないでしょうか。
この問題には教育界全体が取り組んでいく必要があると感じました。

  • 半田紗英子

    首都圏局 ディレクター

    半田紗英子

    2020年度入局。障害者福祉やジェンダー問題に関心持ち取材中。

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